管理人: 2007年5月アーカイブ

yachan070529.jpg

 市場に通うプロにはいろんな業種がある。大はスーパーから、魚屋、ホテル、旅館、料理店、居酒屋など。このなかで料理に携わる人みな市場に通っていると思っていないだろうか? 例えば板前や寿司職人たちなど。でもその中に一度も市場に来ることなく「仕入れ」などの経験を持たない人もいるのである。そして最近ではそれが珍しいことではない。電話一本で市場の業者が配達してくれる。また仕入れを代行する業者も多く、怠け者の料理人の仕入れはファックス一本で終了となる。
 そんな現在にあって、こまめに市場に足を運ぶ料理人は「珍しい」とも言えそうである。ただし、それだけ料理や水産物に情熱を注いでいるわけで、そのような料理人は見ていて、話してみて魅力的なのである。ぼうずコンニャクは市場で働く人たちとともに彼らを“市場人”と呼ぶ。

 八王子の市場で見かける「市場人」のなかでも、もっともこまめに、そして丁寧な仕入れをしているのが、やっちゃんである。季節季節に、いいものだけを少量ずつ持って帰っている。一本のマサバに悩みに悩んでいる姿を見かけたこともある。初めて見る魚、貝の名をときどき尋ねに来る。
 この日も、八王子綜合卸売センター『高野水産』でマアジ、イサキ、トビウオ、ホウボウ、生ホタルイカ、スルメイカ、真つぶ(エゾボラ)など、やっちゃんの仕入れ用発泡スチロールの箱はモザイクのようになっている。
 発泡の中を覗いて首をひねりながら、八王子総合卸売協同組合『丸幸水産』に回る。そこで殻トリガイを選んでいる。いったい何種類の魚を仕入れたことやら。

 やっちゃんは40代前半、その料理は手軽な値段設定の居酒屋ながら繊細で美しい、そしてうまい。また客に対して正直であるのもいい。
 ついでに奥さんは美人だし、義妹はプロレスラーである。
 幸せ一杯の、やっちゃんのおのろけを聞きながら、八王子の盛り場でいっぱいやるのは、五十路男のボクには楽しいものだ。また行こうかな! 『居酒屋やっちゃん』。

やっちゃん 東京都八王子市南町3-17


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 霞ヶ浦、小見川ときて、そのまま銚子に向かう。ほんの少し前には雷が鳴り、雹がフロントグラスを叩く、数メートル前が見えない、そんな荒天であった。その雷雲が去っても、まだライトをつけたままのクルマを対向車線に見る。佐原、香取、小見川、笹川と天保水滸伝の舞台を走る。左右にはまだ古い建物が残る。

 銚子港にクルマを止めてマルハラフーズの佐原孝幸さんを待つ。待つこともなく小型乗用車がすーっと港に来て、挨拶もそこそこに「ついてきてください」という後に従う。マルハラフーズは港から指呼の距離。思った以上に大きな加工場である。ここで佐原さんと初対面の挨拶をして、漬け魚造りの工程を見せて頂く。

maruhara07051.jpg

 衛生帽をかぶり、長靴も履き替え、エアフィルターを通り、ややひんやりした工場内に足を踏み入れる。踏み入れたら、作業中の女性が、白いロール状の器具をボクの背中にあてて、クルクルとくすぐる。どうやらホコリを完全に除去しているようだ。当然、作業場はしごく清潔である。
 作られていたのは「さんまソフトみりん干し」だと思われる。まずは冷凍サンマを氷温状態にまで解凍。この時点のサンマは刺身でも食べられそうである。

maruhara07052.jpg

 その頭を落とし、三枚に卸すのは機械がこなしている。そこから汚れを落とし、漬け汁に落としていくという単純な工程なのだが、そこからは手作業となる。

maruhara07053.jpg

sawara0705.jpg

本漬けのマサバの重しを持ち上げているのが佐原さん。この重さにも意味がある。ちなみに本漬けという工程で、熟成されて味に深みが増すのだ

 あくまでも無添加にこだわっているために加工工程はとても単純だ。テニスコート2面分ほどの工場内をぐるっと回るとお仕舞いとなる。マルハラフーズの加工品の総てに複雑でよく練り上げた味への工夫が盛り込まれている。期待しての見学で、少々拍子抜けする。手持ちぶさたとなって場内を見回してみる。
 静かでがらんとしている加工場の隅、そこにやっと秘密の花園、ボクの琴線にふれるものを見つける。いろんな調味料が置かれている棚である。銚子ならではのヤマサ醤油、関西のヒガシマル醤油、味噌、味醂に砂糖が数種類。そこに佐原さんの息子さんがいて調味料を合わせている。
「たくさん漬け魚を作っていますが、息子さんが主に味を決めているんですか」
「いや、最近少しは考えてみるんですが、今のところ父の発想が総てなんです」
 息子さんはまだ精製されていない砂糖の袋を抱えている。中から出てきたのは黒砂糖の風味を残した砂糖である。
「砂糖だって、3種類混ぜないと思った味がでないんです」
 佐原さんは日々、新しい漬け魚の味付けに試行錯誤しているのである。

choumi0705.jpg

「いろんな世代に受け入れられるものじゃないと」
 佐原さんの目標は高いのである。
「いまどきの家庭だと魚焼きよりもフライパンで調理するほうがやりやすいでしょ。それでサンマのソテーや唐揚げ、カツといったフライパンで焼くだけというのがこんどの新製品です」
 マルハラフーズには味醂や砂糖などで甘辛い調味をしたものがあり、また本漬けなど熟成された干物もある。どれもうまいのだが、ボクが食べた中でもっとも好みにあったのが、「さば魚屋まかない干し」などの魚醤を使ったもの。「あれは美味しかったですね」というと、
「それが最初は注文があったんですが、そのうち立ち消えになってしまいまして。結局製造していないんです。どうやら魚醤のクセが受け入れられなかったようです」
 これは意外であった。魚醤の旨味と風味が絶妙であったのに、どうやら最近の消費者にはこのよさが理解できなかったようである。この結末はいかにも残念でならない。わかりやすい美味しさだけではなく、「味わいに奥行きのある製品」があるのが理想ではないだろうか。

 佐原さんと接していると、調味料の話題になると顔が輝いてくるのがわかる。この方、「根っからの味の職人」なのである。しかも常に新しい工夫と開発を怠らない。だからマルハラフーズの商品にはいつも驚きがあるのだ。次回の製品も楽しみである。

マルハラフーズ
http://www.maruhara-f.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

サケ科を全面改定

0

絹姫サーモン白のページを作成
http://www.zukan-bouz.com/sake/sanbai/kinuhime02.html
絹姫サーモン紅のページを作成
http://www.zukan-bouz.com/sake/sanbai/kinuhime01.html


掲載種 1917


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

愛知県淡水漁業協同組合
http://www.tansui.net/index.html
JAWAN 日本湿地ネットワーク
http://www.jawan.jp/index-j.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

misosanma0705.jpg

 味噌というのにオヤジは弱い、と思っていたら子供にも人気があるんだな、と感じたのが今回の「開き味噌さんま」。我が家の子供達もうまいねと喜んだ。
 サンマを三枚に卸してやや甘めの味噌に漬け込んでいる。これが焼き上がりが早い上に、食べてさっぱり、しかも食べた後にサンマの脂の甘味が感じられていいのである。
 この味噌漬けは最近ではもっとも家族の好みにあったものである。ただしパッケージはうまそうではない。見た目が散漫なデザイン、北海道の透明な地図部分はいいにしても、周りをもっと落ち着いた色合いにすべきだ。だから八王子でも「安売りの店に並ぶ」という結果を招いているように思える。
 この加工食品会社のパッケージングではあまりあれこれ散漫なものは絶対にやめるべき。とにかくぱっと見て、ぱっと目に飛び込んでくる方が最上のデザインである。これほど味がいいのだから売れるはずである。とするならパッケージングは見直した方がいい。

磯田水産株式会社 北海道厚岸郡厚岸町字宮園町44番地


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

AGEMAKI0705.jpg

 岡山県の児島湾が埋め立てられたのは高度成長期、それまでは有明海に匹敵するほどの広大な干潟があり、豊かな海の幸がとれていた。その児島湾も見る影もない。その埋め立てで失ったものは限りなく大きく、その名残のようなものを見に行きたいと常々思っていて果たせない。
 その豊かだった児島湾で「鎮台貝(ちんだいがい 明治時代の兵隊)」と親しみを込めて呼ばれていたのがアゲマキである。そのアゲマキもたぶん児島湾からは姿を消して、日本で最後に残っている地が有明海である。でもその有明海でも汚染、干拓、最近で諫早湾干拓などによって、ほとんどとれなくなってしまっている。この国でのアゲマキの住処はほとんど残っていないのだ。
 市場ではアゲマキの入荷が最盛期を迎えている。だたし入荷量は少なく、国産のものは皆無。見かける荷の総てが韓国産となっている。
 箱に書かれている「韓国産」の文字に遠く韓国のセマングムを思うのだ。セマングムは韓国でも最大の干潟。また最大のアゲマキの産地でもある。
 そのセマングムで巨大な埋め立て計画が進んでいる。海鳥や水産生物の宝庫、セマングムも児島湾のごとく干潟を消滅してしまいそうなのだ。

 比較的ありふれたアゲマキという二枚貝が、無秩序な自然破壊によって国内から消滅しようとして、その味覚を韓国に求めたのが、こんどは彼の地でまた危うい状態になってしまいそうだ。
 有明海も児島湾も元の状態に戻すべきだと思っている。例えばこの国の人口の減少も自然には薬だろう。また目先のことでは諫早湾の干拓は即時中止、もとの状態に戻すことは出来るだろう。
 そしてよその国ではあるが、韓国はセマングムの豊かな自然をこのままにして置いてくれないのだろうか? 韓国までこの国の二の舞になる必要はない。
 子供の頃、21世紀と言えば「明るい未来」があると思っていた。そろそろこの資本主義社会に生きる人も、お金のことじゃなく、自分の生きている意味合いを考えて自然に接してもらえないだろうか。そこにこそ明るい21世紀があるはずなのだ。私、まさに肥満体ヨレヨレオヤジながら激しい憤りを伴い思うのである。
 荷の前を通るたびにこんなこの国の歴史を思い、また韓国での今を思う日々が続く。

JAWAN 日本湿地ネットワーク
http://www.jawan.jp/index-j.html
市場魚貝類図鑑のアゲマキへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/sonotamarusudare/agemaki.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

susit0705111.jpg

 八王子の中心部からクルマで西に進むと追分けの交差点となる。右斜めに曲がると陣馬街道、左が高尾山から山梨へ。この陣馬街道をクルマで走らせること10分足らずで横川町になる。そして右手にあるのが『鮨忠第二支店』、通称「横川町鮨忠』である。その外観はやや近代的、店に入るとやや細長い回廊が右手に折れ曲がる。そこが真の入り口となっていて、意外に親しみやすい空間となる。
 靴を脱いで、掘り込んであるカウンターに座る。
 カウンターの中には我が寿司図鑑でもたびたび登場してもらっている、八王子最長老の寿司職人である「鮨忠」さんがいて、いつもの穏やかな顔で迎えてくれる。

niika070524.jpg

カウンターを覗くと煮あげた「麦いか」がある。これが煮いか。これを切り付けて、つめ(煮詰め)を塗って出来上がり

 おしぼりとお茶が出て、まず出てきたのが、こはだとキュウリの酢の物、山わさびの醤油漬け。
「どうだい、これはオレが渓流でとってきたワサビの茎だ。根は絶対にとらないで、葉と茎だけつんでくるんだ。それをな、醤油味の地に漬け込んだのがこれよ」
 この二品が最初に出てきたのには、ちょっと驚いたのだが、晩春と言うよりも初夏の陽気であり、その暑い日なかにやって来た身にはこれがなんともすがすがしい。

 そしてまずはひとつめの下駄が出てくる。そこにはマグロの赤身、麦いか(スルメイカの小振りのもの)、煮いか(同)、こはだがのっている。みな仕事がしてあるものばかりである。この煮いかの味わいは『鮨忠』ならではの伝統の味。こはだの締め具合もいいのである。初手からこれだから、次に期待が募るのだ。

susit070522.jpg

 次が、中トロとマアジ。この中トロの脂の甘さと旨味の強さに驚く。
「マアジは今がいちばんかな」
 当たり前だが厳選されたマアジは最高である。そして麦いかの塩辛の小鉢がくる。
「これは麦いかのワタを合わせただけの塩辛だな」

 カウンターの中には忠さんと弟さん。どんどん寿司が出来上がってくる。
 お次が、平貝(タイラギ)、煮穴子、小柱、赤貝。そろそろ貝は名残の時期であるのだが、小柱のうまいこと。また煮穴子は、言うなれば忠さん自慢の品であり、口の中で適度にほどけるのである。

susit070533.jpg

 最後に卵に焼きホタテ、などが出てきて、家人など満腹状態。玉子焼きは握り用には薄焼き、単独では厚焼きとなる。

 デザートのこれも『鮨忠』自家製のコーヒーゼリーを食べながら忠さんと楽しい一時を過ごす。

 テレビでは激安寿司屋だとか、究極の寿司屋だとか、言うなれば“うるさくてかなわん”たぐいの店がわんさか登場している。築地場内の寿司屋もそのたぐいである。それと『鮨忠第二支店』は対極にある。いたって平凡な良心的な街の寿司屋。そこにはほっとできる時間が流れているし、当然、味だってそんじょそこらの今時の店には負けないのである。ボクの思うに行きつけの街の寿司屋を持っているのって真の大人の証ではないだろうかね。

鮨忠第二支店 東京都八王子市横川町477


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

tukiji070522.jpg

 年4回の築地買い物案内、「築地土曜会」を6月の第一土曜日、2日に行います。とても気軽な築地案内です。毎回築地場内をぐるりと見学、うまいものを探して、即買い物。その後、反省会やら勉強会を行い。最後に自由参加で会食となります。
午前7時半に波除神社集合で、午前10時過ぎくらいまで。楽しい会なのでお気軽に参加してください。

詳しいことは
http://www.zukan-bouz.com/zkanmein/doyoukai.html

申し込みはメールにて


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

ヤリイカ科を改訂

0

ヤリイカ科にカリフォルニアヤリイカのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/tutuika/calyariika.html

掲載種 1915


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

市場魚貝類図鑑リンクのページへ
http://www.zukan-bouz.com/zkan/zkan/rink/rinkmokuji.html

千葉大学バイオシステム研究センター銚子実験場
「海藻・海草標本図鑑」や「鳥-銚子周辺で見られる鳥」など優れた図鑑がある。また施設は宿泊も出来るなど、生き物好きには知っておきたいサイトだ。

http://www-es.s.chiba-u.ac.jp/kominato/teusi/choshi_main.html

海藻・海草 標本図鑑
銚子周辺で見られる海藻の優れた図鑑。紙の媒体では得られない美しい画像と懇切な解説で海藻を調べるならまず、ここから始めるのがいい。

http://www-es.s.chiba-u.ac.jp/kominato/teusi/zatudan/choshi_kaisou/kaisou_main.htm


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

kaisou0705.jpg

 千葉県銚子市には「のげのり(フクロフノリ)」「コトジツノマタ」など独特の海藻料理がある。なかでも魚屋やスーパーなどで普通に見られる銚子ならではのものが「海草」である。この「かいそう」は「けいそう」とも発音されるし、漢字では「海藻」とも書かれる。
 原料はコトジツノマタであるという。見た目は幅広の羊羹のようだが、取りだしてみると厚さが5ミリほどの板状が2枚重なっている。これをからし醤油とカツオ節で食べるのだ。
 この紅藻類の容易に溶けて、また固まるという性質を利用しているものに福岡市の「おきゅーと」、新潟県の「えごねり」などがあるが、所変われば原料変わるといった楽しさがある。また銚子から利根川を挟んだ波崎(現神栖市)にも同じ名の食品があるという。これも改めて買い求めに行く必要がありそうだ。
 銚子の「海草」の食感はまるで硬めの水ようかんのようだ。そこに海藻のもつ甘味と、旨味があって、磯の香りがふわーっと広がる。これは毎朝の食卓に欠かせぬもの、まことにボクの琴線に触れる美味である。
●このような海藻を固めた食品を集めている。情報を求む。

山田海草店 千葉県銚子市西小川町1040
参考サイト/海藻・海草標本図鑑
http://www-es.s.chiba-u.ac.jp/kominato/teusi/zatudan/choshi_kaisou/kaisou.htm


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

KAWAGISIYA070521.jpg

「ご飯があったら最高ですね」
 これはつい口に出てしまったのであって、「ご飯食べたいな」とお願いしたわけじゃない。でも諸岡さんの奥さんが奥に消えて、それほど経ったわけでもなく、お盆にのせられてきたのがこれなのだ。この瞬間のスーパーうれしい気持ちをなんと表現すればいいのか? わからないんだよね。言葉が出てこない。

 ここにあるものは総て地元でとれたものばかり、不必要かとは思うがひとつひとつ解説する。
 まずはお盆の上の列、左から。
1/エシャロット。これはらっきょうの間引き、もしくは若いものである。これはもともと農家などで食べられていたのが全国的に流通するようになったもの。目新しいものだからフランス語の「エシャロット(半結球ネギ)」の文字を当てたようだ。疲れているときには、アリインというユリ科植物に含まれる成分がよくきくのだ。
2/若アユの唐揚げ、お盆の右上の塩コショウをつけて食べる。まだアユ独特の風味はほとんどないが、香ばしくてうまい。
3/テナガエビ、スジエビの佃煮。これはエビの風味が生きていて美味。ご飯と食べると、ご飯の軟らかさと、エビの香ばしさが相まって何とも言えず豊かな気分になる。
4/冬にとれるシラウオの釜揚げ。松田さん、諸岡さんともにシラウオの釜揚げは「ほんまにうまいな」と力説するもの。少々塩が強めであるが、だからこそご飯に合う。
中列小皿左から
5/フキの佃煮。これはやや醤油がちているがそれほど塩辛くなく、フキそのものの甘味が感じられる。
6/フキの煮物。これはあっさりと炊いた物。フキの香りが強い。
下の列左から
7/貸し出している田で作られた米を炊いたご飯。茨城の水郷地帯、利根川周辺は関東屈指の米どころなのだ。
8/みそ汁。味噌は近所からいただいたものだという。豆腐、インゲン、キャベツ。思ったよりも味噌の塩分濃度が低く、香りがいい。
9/ごろ(アシシロハゼなどの)の佃煮。甘さが程良く、ややほろほろとしてうまい。これもご飯に山盛りにのせて食べたい。

 これ全部をご飯をお代わりして一気に食べてしまった。実を言うと、もういっぱいご飯が欲しいな、と思ったが恥ずかしいのでよした。今考えるともういっぱい食べれば、もっと幸せだったかも知れない。

 しかし川岸屋の朝ご飯はうまいのである。こんなことを思っていたら、
「昔ね NHKが取材に来たのよ」
 と奥さんが笑ってる。そうか古渡あたりでは評判の料理上手であったのだ。

 またこんど来たときにも、朝ご飯食べられるかな?
 
川岸屋 茨城県稲敷市古渡103
参考文献/『平成調査 新・霞ヶ浦の魚たち』霞ヶ浦市民協会
注文は電話かファックスで
電話 029-821-0552  ファックス 029-821-6209


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

ツツイカ目を改訂
ヨーロッパヤリイカのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/tutuika/yoyariika.html
スズキ目タイワンドジョウ亜目タイワンドジョウ科カムルチーのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/suzuki3/sonota/kamuruti.html

掲載種 1914


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

イシガイ科を改訂

0

ササノハガイのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/sonotanimai/isigai/sasanoha.html
ヒレイケチョウガイのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/sonotanimai/isigai/hireikechougai.html
マツカサガイのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/sonotanimai/isigai/matukasagai.html

掲載種 1912


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

chanpon0705.jpg

 我が家の日曜日など、昼ご飯によく作ってしまうのがチャンポンである。これは至って簡単な料理で顆粒状の鶏ガラスープさえあればザザッと一気に出来る。誰でも知っているだろうけど、我が家で勝手気ままに作るチャンポンの作り方を書いてみる。
1 麺の茹で鍋を用意する。麺を茹でる。
2 豚肉を炒める。野菜(玉ねぎ、ニンジン、キャベツ、ピーマン)なども炒めて、そこに水を入れ、鶏ガラスープ、塩で味付け。
3 硬く茹でた麺を加えてひとしきり煮たら出来上がり。
 まあ超簡単な手抜き料理であって、困ったときの緊急食とでも言えそうな代物。でもこれがなかなかうまいのである。
 子供にも評判の我が家のチャンポンだが、味はどこかのチェーン店よりもよっぽどましなのだが、色合いで「チャンポンらしさ」に欠ける。
 そんなとき八王子総合卸売協同組合『清水保商店』で見つけたのがコレ。商品名がどこにも書いていないという不思議なもの。「ちゃんぽん皿うどん」と書いているから、長崎だろうな、たぶん「ちゃんぽんや皿うどんに入っている長崎らしい色つきの蒲鉾」だろうとはわかる。これこそ我が家に欲しかった「長崎の色合い」ではないか。
 ボクが思うに地方の蒲鉾屋、練り製品のメーカーにはどこかその土地らしさが欲しい。この長崎らしい色合いの蒲鉾など東京で買っても「長崎に旅をしたような(ちょっと大げさか?)気になる」。こんなものが何気なくあるのも市場の良さなんだよ、わかるだろうか。
 当然のごとく買って帰り、チャンポンに入れるとまさに長崎チャンポンの色になる。蒲鉾、竹輪の味もちょっと甘めなのがいいのである。
 ところが残念ながらもう一度買いたいと思っても八王子にはもう来ないんだよなー。もう一回入荷して欲しいぞ、チャンポン愛好家としては。

杉永蒲鉾
http://www.suginaga.co.jp/home/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

unasen070511.jpg

 霞ヶ浦で張り網を見た後、潮来、神栖と来て、いつのまにか迷ってしまった。出来れば潮来を見てから佐原、小見川と回るつもりが、潮来の街があまりに見るべきものがなく、駅前から南に下る内にカーナビを見てもどこを走っているのかわからなくなる。どうも利根川の北は広大すぎてとりとめがない。仕方なく利根川を千葉県側に渡り、左手を見ると懐かしい北総漁協の船だまりへの道、そしてほどなく右手に『うなせん』がある。

 かれこれ小見川も3年ぶりとなる。おもわず『うなせん』の暖簾をくぐると、これまた懐かしい菅谷敏夫さんの顔。奥さんも娘さんも元気そうである。
 ちょっと立ち寄ったつもりが、なんと名物の『うなせん流 うな重』をご馳走になる。

 店内で菅谷さんと話し込んでいると、厨房では二代目の正治さんが蒸し器に向かっている。
「修業から帰ってきましてね」
 菅谷さんはうれしそうだ。
 厨房は3年前と少しも変わっていない。相変わらず清潔至極だ。そこで菅谷さんとともに、息子さんの焼きの工程を見る。

unasen070522.jpg

『うなせん』の仕上げ焼きは一種独特である。東京の老舗うなぎ屋で修業したという正治さんをして「一から学び治すようです」とのこと。

 まず蒸しをかけたら、その水分を飛ばすかの如く焼く、そしてタレにくぐらせて焼き、くぐらせて焼き、最後にはタレがカラメル状になるところまで焼く。

unasen070533.jpg

「この焼き方はね。ウチ以外じゃ誰もやっていないの。前に天然を食べてもらったけど、中はふんわりして外はとても香ばしかったでしょ。せがれにもそれを教えてるんですよ」
 相変わらず鴨撃ちで耳が遠くなっている菅谷さんの声は大きい。

unasen0170555.jpg

 うな重が出来ると、まずはそのままいただく。これは菅谷さんから教えてもらったこと。ウナギの風味を楽しむには山椒は邪魔なのだ。そして菅谷さん自身の持ってこられたのがワサビである。
「これは私の考えなんだけど、ウナギにはワサビがいちばんあうね」
 あいかわらず表面は香ばしく、ウナギの風味が生きている。これが炊きたてのご飯と合わさって幸せすぎる味なのだ。これは蛇足かもわからないが、ボクの仕事では比較的都内でウナギを食べる機会が多い。ときに出前と言うこともある。そのどれもが『うなせん』の味に遠く及ばないのだ。まさに『うなせん流 うな重』は小見川にしかない味である。

unasen070566.jpg

うな重は、肝吸い、香の物、うなぎの頭の佃煮、果物。漬物の中に見える鉄砲漬けは地元の『ちば醤油』のもの

「今は天然が少ないけど、また秋になったら来てくださいね。そりゃ最高の利根川ウナギの味を楽しんでもらいますから」
 天然ウナギと聞いて途端に満腹感が薄れて4年前の官能的な美味が蘇る。小見川町での“ウナギ鎌漁”解禁は9月だ。秋にはぜひ利根川名物の「ぼっかうなぎ」を食べたいものである。待ち遠しいな!

 お土産まで頂いて、店を出る。店に入った途端、カミナリが落ちて雹混じりの豪雨となっていた。それが小雨となっている。北総漁協の周りをクルマで見て回り、銚子を目差す。

●うなせんは注文を受けてから割き、焼き始めるので出来上がるまでに小一時間かかる。できれば予約してから行く方がベスト。また事前に天然ウナギがあるかどうかを確かめて欲しい。利根川の天然ウナギはこのまま国の無策が続くと幻の味となりかねない。
うなせん 千葉県香取市小見川5628 電話0478-82-1804


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

霞ヶ浦への旅04

0

gogan070518.jpg

 おふたりに霞ヶ浦の魚貝類、漁のことを聞いていく。
 まずは今日の漁の話から。
 霞ヶ浦よりの松田さんの張り網もやはり不漁であったという。
「小野川と霞ヶ浦ではとれる魚が違いますか?
 松田さんは少し考えて
「違うちゅうか、小野川の方が数が入るだな」

 お二人に聞くと、やはり困っているのはオオタナゴとアメリカナマズが増えたこと。それに反してフナが減ってしまったのだという。

tanago070511.jpg

水揚げして選別したもの。半分以上がオオタナゴ。モツゴやアユ、ワカサギは売るほどはない

「それとねこの護岸がだめだべ。できたらもっと斜めに作って欲しかっただな。そうすっと葦とか木とか草が生えるだろ」
 確かに、この垂直に切り立ったような護岸では植物が進出できない。また護岸に沿ってゴミがたまる。とうぜんそれが腐敗して水中の酸素を消費してしまうのだ。国は3年前のコイヘルペス、イケチョウガイなどの死滅をどう考えているのだろう。その結論が霞ヶ浦の汚染した排水を利根川に流し込むというものらしい。でもただでさえ河口堰によって壊滅的な被害を受けた利根川の最後の息の根を止めることにならないだろうか? とにかく今、霞ヶ浦をキレイにするなら、この護岸を生物に優しいものに変えるべきだ。また我々都民はこの霞ヶ浦の水を消費しているという責任をしっかり認識すべきである。すなわちこの国の人々は今、自然に優しい暮らしに移行する必要がある。

seigo0705.jpg

 また河口堰の運用でももっと長い時間開けておくことは出来ないのだろうか? ヌマチチブが減っているのは明らかに河口堰との関連だろう。また今年は「はね(スズキの稚魚)」が多いという。これはどうしてだろう?

 桜川村古渡での漁は春夏秋冬、常に何かしらとれるのだという。なかでも漁の中心はワカサギとウナギ。他にはエビ類がくる。

unagi0705.jpg

まだウナギの水揚げは少ない。そのため、ある程度ためてから出荷する

「今年は稚魚(ワカサギ)が多いべから、冬はいいだろう」
「そうさね。それと雷魚(カムルチー)が増えてきたね」
 カムルチーは何と言っても洗いが最高だという。
「洗い以外でもバター焼きだって、煮つけたってなんでもうまいもんだべ」
 と太い眉毛を動かしながら松田さんが語る。寄生虫の心配があるでしょう? と聞くと諸岡さん、
「そんなの大丈夫。ワシさ、もう40年以上食べてるだね。でもここまでいっぺんも当たったことない」
「そうだな、あれは病気なんかで弱った人だけがやられるんだ」
注/カムルチーは有棘顎口虫の宿主であり、生食は危険である。有棘顎口虫は体内にはいると腸壁を破り肝臓などに移行、また体内を移動する。このとき皮膚が腫れたり、かゆみを感じたりする。またときに脊椎、脳などに入ることもあり死の危険性がある

「フナはどのように調理して食べてます?」
「この辺りじゃ、だいたい煮つけだね」
「洗いなんかにはしないんですか」
「まあ普通はしないな。洗いはコイはするな」
 松田さんも諸岡さんも刺身、洗いはコイではするがフナは煮つけ専門だという。
「諸岡さん、『ごろ(ウキゴリ、ヌマチチブ、アシシロハゼなどの総称)』でも佃煮になるのとならないのとあるって言いましたよね」
「そうだ。ウキゴリは鱗がないだ。すっと味が入っていかない。だから『たっとう煮』っていうのにするだな」
 佃煮は甘辛い味で魚の身に味が染みこむくらいに煮つけてしまうのに対して『たっとう煮』はほんの短い時間、醤油で煮る。
「さっと煮るから、たっとう煮っていうだよ」
 6月になると水揚げはエビ類が中心となる。
「エビはね。潰して汁にするし、佃煮にもすっね。後は唐揚げとか、ただみそ汁にいれたりもするし」
 諸岡の奥さんが教えてくれる。奥さんは、席を外して奥に消えてしまう。
「エビはね。昔は“ささびたし(ササなどを束ねて沈めておき、そこに集まったエビなどをすくう)”や“たる(カゴ)”でとっただ。でも“たる”を作る人がいなくなったね」
 諸岡さんも松田さんも昔は様々な漁をやってきているのだ。
「貝のことはどうでしょう。『たんかい』は食べました」
『たんかい』は「淡貝」のこと。主にカラスガイをさすようだ。
「“たんかい”はよく食べたよ。この辺りじゃ、切り干し大根と煮るだ」
 諸岡さんによると昔はたくさんとれていたという。
「そう言えば堰が出来る前のシジミは黒くてね。それが最近じゃ色が違うだね」
 色の黒いシジミは汽水域にいるヤマトシジミ、そして色合いの薄いのはマシジミであるらしい。

 話し込んでいると奥さんが『ごろの佃煮』『エビの佃煮』『シラウオの釜揚げ』を持ってきてくれる。

ebirui070518.jpg

「シラウオはこれがいちばんうまいべ。釜揚げって言うんだけど、塩ゆでだ。いちばんうまいのは茹でたてだ」
 佃煮は思ったよりあっさりした味付けとなっている。これがお茶に合うのである。またシラウオは塩味がやや強く、
「ご飯があったら最高ですね」
 これはつい口をついて出たことなのだが。

参考文献/『平成調査 新・霞ヶ浦の魚たち』霞ヶ浦市民協会
注文は電話かファックスで
電話 029-821-0552  ファックス 029-821-6209


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

改訂記

0

コイ目コイ科タナゴ亜科を改訂
オオタナゴのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/koimoku/tanago/ootanago.html
タナゴのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/koimoku/tanago/tanago.html

ナマズ目を改訂
アメリカナマズのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/koimoku/namazuta/amenamazu.html
ギギのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/koimoku/namazuta/gigi.html

甲殻類スナガニ科を改訂
ハクセンシオマネキのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/kani/sunagani/hakusensiomaneki.html
ツノメガニのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/kani/sunagani/tunomegani.html
チゴガニのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/kani/sunagani/tigogani.html

掲載種 1909


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

iwana070511.jpg

 ボクが調べている普通の寿司屋の歴史でもっとも多くを教わっているのが横川町『鮨忠』さん。ボクは現役の寿司職人でありながら水戸黄門になぞらえて横川のご隠居と呼んでいる。そのご隠居の趣味が釣りである。しかも渓流釣り、ワカサギ釣りに関しては名人としてつとに有名である。
 そして店を連休にして2日通って秋川の某所で釣り上げてきたのがヤマメとイワナ。ヤマメは小振りであったので唐揚げに、イワナは塩焼きにした。ともに美味であったのだが、ボクが感激したのがイワナの味わい。
 サケ科独特の風味があり、身に旨味がある。皮の香ばしいこともあって、酒の肴として上等であった。このような深い旨さに関しては太郎にはわかるまい、と思ったら子供達も「おいしいね」と箸を伸ばしてくる。
 ちなみに我が家では養殖のイワナはフライパンでソテーしてニンニクの風味で食べる。塩焼きにするのは天然ものだけである。しかし木の芽時の5月になんとも贅沢な渓流の幸であった。

yamame0705.jpg

 ヤマメの唐揚げのかたわらにはワサビの茎の醤油漬け。これも渓流で葉と茎だけつんできたもので『鮨忠自家製』。まことに5月の山は豊かでおいしいものに溢れていることよ。家人ともども新緑の山に分け入りたくなってしまった。

鮨忠第二支店 東京都八王子市横川町477


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

霞ヶ浦への旅03

0

morooka.jpg

 魚の選別を終えて、釣り宿・川岸屋の土間でお茶を飲む。
 長閑な5月の朝であり、気温はすでに20度を超えていそうだ。ポカポカと暖かく眠くなってくる。
 土間には大きなヘラブナ、ギンブナの魚拓があり、またブラックバス釣りの写真が飾っている。
「ウチは釣り宿だけん」
 川岸屋は本来ヘラブナ釣りの貸し船、釣り宿であった。それがブラックバスに変わり、現在ではそのブラックバスもフナとともに激減。「まあ釣り宿もオレの代で終わりだな」という状況だという。
「それにね。昔はフナだって、コイだって、『はや(モツゴなど)』だってとれたらとれただけ売れた。それで稼げただよね。それが海の魚がここら辺にも入ってきてからだ。あんまし魚も売れなくなった」
「昔は川魚問屋が強かった、魚を買いたたいたりしたって聞きますね」
「そうだね。昔は問屋が大きかったな。今でもあるだよ、まだ問屋は」

 そこに諸岡さんと同じく張り網を霞ヶ浦にもっている松田さんがやってきた来た。どうも漁の後の恒例のことらしい。諸岡さん、松田さんともに73歳。諸岡さんは漁と釣り宿を経営、田を持っているが貸しているのだという。松田さんは農業との兼業。戦前を知る世代であり、また戦前戦後の霞ヶ浦の変遷では生き証人とも言えそうな人たちである。

matuda0705.jpg

 この霞ヶ浦一帯は戦前には土浦海軍航空隊、鹿島航空隊があり、湖には水上飛行機が浮かんでいたという。
「オレは、ときどきのせてもらってたんだ。水上飛行機だべ。近づいていくと乗せてくれっから」
 松田さんは懐かしそうに語る。
「予科練ですね」
「違うだー。鹿島の方。鹿島と予科練は違うだね」
 朝方、古渡あたりの市街地をクルマで回った話をする。
「あんだ。昔、この辺は蔵が並んでただね。大きいヤツが、今は1つだけ残ってるだが。そのころは“かわはぎ”って地名だったね。でも“かわはぎ”って追いはぎみたいで名前が悪いって変えたけんね」
 霞ヶ浦は陸上交通の発達する以前には海上交通が盛んであった。とくに東京(江戸)と利根川、江戸川、隅田川と淡水域で繋がっていて、当時は高瀬舟の立ち寄る港はまことに賑やかであった。そして霞ヶ浦にも港がいくつもあり、旅館も料亭も遊郭もあった。そしてこのあたりは産物の集積場であったということなのだ。


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

霞ヶ浦への旅02

0

ryou070511.jpg

 小野川河畔にある川岸屋の前でほんの30分ほど仮眠する。6時過ぎとなって軽トラックのドアの開く音がして、そこに立っていたのが小柄でがっしりした諸岡清志さんであった。挨拶もそこそこに船着き場にトラックを走らせる。川岸屋から川まではほんの数メートルの距離しかない。川魚を入れるためのカゴやバケツを船にのせて張り網(定置網)までゆっくりと川を登る。

 小野川といっても河口部は霞ヶ浦にとっての湾となっていてる。湖では当然のこと、このような川の流れ込みや、湾となっているところが魚が集まる場所でもあるわけだ。
 低いエンジン音、ゆっくりと船は川面を滑っていく。最初の張り網(定置網)はやはり新古渡橋のすぐ上手であった。顔を上げると国道125号をトラックが疾走していて、ここだけ時代から取り残されているように思える。

ryou070533.jpg

 船をもやいエンジンを切ると、岸辺から鳥の鳴く声が聞こえてくる。諸岡さんが網の先端を持ち上げると黒い魚が暴れて、水しぶきが上がる。途端に淡水特有の有機質が腐食していくときに醸される生臭いような臭いが立つ。川面は無風状態であり、ときどきキラッと魚がはねるだけで、川なのに流れがないように感じられる。

「今日は少ないずら」
 最初の網を引き上げながら、諸岡さんが呟く。それでも網からは大量の魚がこぼれ落ちてくる。
「すごいタナゴですね。オオタナゴでしょうか?」
「そうだ。全部オオタナゴ。今日は少ない方だ」

ryou070544.jpg

ryou070555.jpg

 オオタナゴ、アユ、モツゴ、タモロコ、ニゴイ、ハス、ブルーギル、そしてアメリカナマズ。タナゴ亜科ではオオタナゴだけで、タナゴはもとより、たくさんいたというタイリクバラタナゴすら一匹もいない。またスジエビ、テナガエビは少ない。
「エビがとれるのは6月になってからだ」
 今は脱皮したばかりでエビはもっとも少ない時期だという。

 張り網は川に対して直角に立て網が伸びていて、その先端に魚を集める傘の部分がつき、その三隅に袋状の網が3つついている。この袋状の細長い網にはいくつかの返し網がついていて魚が入ると後戻りできない構造になっているのだ。

ryouami0705.jpg

「今はねちょうど漁の端境期だね。少ないずら」
 3つの袋状の網を揚げても、獲物はいくらでもない。それにしてもオオタナゴは多く、本来お金になる「はや(モツゴ、タモロコ、スゴモロコ)」はほとんどとれない。
 諸岡さんがバケツに水を汲み、ヌマチチブを見つけては放り込んでいる。
「これは真珠貝の産卵に使うんだ」
 これは活かしておくと淡水真珠の養殖業者が買い取りに来る。後からわかったことだが淡水真珠をとるイケチョウガイは幼生期に魚に寄生する。イケチョウガイの稚貝を生産するときも、生活環を経なければならないわけで、それにもっとも適したのがヌマチチブなのだという。

 次の網には1メートルを超えるハクレンが入っている。そのせいか他の獲物が少ない。またここでウナギと雷魚(カムルチー)がはいる。
「こいつ(ハクレン)の腹側の身はクセがなくてうまいだべ」
 網についているゴミを落としながら
「これワカサギの稚魚だ」
 2センチ足らずの稚魚が網にひらひら突き刺さっている。今年は例年になくワカサギの稚魚が多いのだという。
 ヘラブナ(ゲンゴロウブナ)、真ブナ(ギンブナ)、キンブナ、オイカワ、スズキの稚魚にボラの稚魚、「ごろ(アシシロハゼ、ヌマチチブ、ウキゴリ)。それにしても本日の水揚げは少なく、まったくなにも入っていない網もある。
「穏やかな日はだいたい漁が少ないべ」
 漁はほんの30分ほどで終わりとなる。
「これじゃ小売(行商)もこねだ」
 水揚げされた魚はときに川魚問屋にも売るが、ほとんどは小売(行商)に卸す。
 まだまだ霞ヶ浦あたりでは自宅で川魚の佃煮を作る。また、エビのみそ汁、汁(エビを潰して作る)、小アユの唐揚げ、「たっとう煮」という軽く醤油で煮つける料理も作られているようだ。

 最初は口の重かった諸岡さんも漁の話など徐々に話してくれるようになった。船を船着き場につけて、生け簀から大きなギンブナをすくい出す。

ryou070566.jpg

「ほうら、これ見っべ。真ブナのオスだ。ほとんど見たことなかっただが、ここ3日くらいで2匹もとれただ」
 諸岡さんがギンブナを抱えると、白い液体が流れ出してくる。これは紛れもなくギンブナのオスである。鰓ぶたの上には追い星が出ている。

 獲物を自宅に持ち帰り、水場で選別にかかる。オオタナゴ、ブルーギル、アメリカナマズは廃棄。鳥の餌用にミール工場行きとなる。モツゴ、タモロコ、アユ、エビ類は小売り(行商)へ本来は売るのだが、「今日は少ないから来ないだろう」という。ウナギとカムルチーは生け簀に入れて「買いに来る人のあるまでおいておく」のだという。

ryoou070577.jpg

「6月はエビだし、9月には毎日何十キロもウナギがとれるだけんど、今は少ないだね」
「アメリカナマズは食べないんですか」
 かたわらで魚の選別をしている奥さんが
「橋の向こうに、これを出してる店があっけど、この辺じゃまったく食わねえな。食べてみっとおいしいけどね」
 食べると決してまずい魚じゃないというが、なかなか食べようと言う気にならないのだとか。
 8時過ぎにフィッシュミール会社のトラックがくる。そこにブルーギル、アメリカナマズなどを無造作に放り込まれ、「鳥の餌になんだ」とうのこと。
 トラックはもの凄い匂いをさせて去っていった。

ryou070588.jpg

参考文献/『平成調査 新・霞ヶ浦の魚たち』霞ヶ浦市民協会
注文は電話かファックスで
電話 029-821-0552  ファックス 029-821-6209


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

霞ヶ浦への旅01

0

asa070511.jpg

 深夜2時過ぎに自宅を出る。中央首都高と渋滞はなく、当然、常磐道が混むことは皆無であって、あっという間に桜土浦まで来てしまう。そこからは国道125号をひたすら南に下る。暗く寂しい国道沿い、ときどきコンビニの灯りがあるほかは、なにも見えない。
 午前4時、クルマの左手から夜が明けてくる。阿見町、稲敷市江戸崎、美浦村、そして小野川を超えると稲敷市桜川村古渡となる。

 小野川は霞ヶ浦の西側、入り江を作り、平野部を流れ、つくば市に源流がある。(*霞ヶ浦の湖の形を説明すると、漫画「まことちゃん」のグワシというのをご存じだろうか? 中指と薬指を折り曲げる。これを左手でやっていただき、手のひら側を自分の方に向けてもらいたい。これがちょうど霞ヶ浦の形そのものだ。この親指の部分が小野川河口である。
 小野川の北側が稲敷市美浦村、南側が胴桜川村古渡にあたる。その昔には「かわはぎ」という地名であった桜川村、そこには大きな蔵がたち、水運が流通の主役であった頃には高瀬舟の荷の集積地であったという。
 小野川河口にかかる新古渡橋を渡り、川の土手道にクルマを止める。まだ日の昇らない薄明の頃、目の前には田植えを終えたばかりの田園が広がる。その田の畦をキジのオスがけたたましく失踪する。ボッ、ウ…ボッ、ウ…と鳴くのはウシガエルだし、ウグイス、センダイムシクイ? ぴーーぴーーと鳴く鳥。田の周り、土手には白いクローバー、真綿のようなフワフワした花を咲かせたイネ科の植物が続く。

 小野川土手を上手に歩いてみる。川には無数の竹が立っている。そこに霞ヶ浦で網代というのだろうか定置網がある。これは岸から見ると細長い柄の傘を広げたような形。傘の頂点、両翼に魚をためる地獄網がついている。その上流には淡水真珠の養殖場。

asa070522.jpg

 小野川から桜川村古渡の市街地を抜けて霞ヶ浦にクルマを走らせる。古渡の街並みは小さく、商店街と言っていいのかどうか? そこには魚屋、食料品店、和菓子屋などがある。
 岸辺の砂利道を小野川河口からぐるっと霞ヶ浦を南にクルマで回っていく。朝日は湖の上にある。こちらにも定置網があり、遠く大きな船が沖合に移動している。岸辺にはニセアカシアが満開である。

 ちょうど5時となって古渡にある川岸屋の前に到着する。この釣り船屋を経営する諸岡清志さんの定置網漁に同行させていただき、霞ヶ浦の魚貝類の一端に触れるのが今回の旅の目的である。

asa070533.jpg


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

TOMISAN0705111.jpg

TOMISAN0705222.jpg

 八王子魚市場に入るなり、富さんがマアジを開いているのに出くわす。
「富さん、これどうするの」
「どうするのって、締めるんだろ」
「え、締めるんなら片身ずつ三枚にすれば簡単でしょ。開きにすることはないじゃない」
「けっ、これだから素人は困るんだよ。寿司屋じゃね。こうやって開くだろ、塩をして、開いたまま身の方を外に向けて折るの。こうしないと酢が皮にあたって色がぼけるんだ。覚えとけ」

TOMISAN0705333.jpg

TOMISAN0705444.jpg

 このいろいろ話を聞く内に富さんの細い目がもっと細くなっていく。どうも人に教えるのが照れくさいようだ。
「あとな、このときにはゼンゴは取らないよ。どうせ握るときにゃ、皮を引っぺがすからね」

 それにしても見事な包丁さばき、山のようにあったアジがあっという間に開きになっていく。この開きはフライと違い尾を切り離しているのを見ていただきたい。

市場魚貝類図鑑のマアジへ
http://www.zukan-bouz.com/aji/aji/maaji.html
寿司富 東京都八王子市上壱分方町224-5


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 天草のノリさんにいただいたものに「乾燥めかぶ」というものがあった。生のめかぶ(ワカメの成長点)はよく食べるのだが、乾物はめったに利用しない。まあとりあえず水で戻し、刻んで熱湯に通してみた。

MEKABU070511.jpg

これが乾燥めかぶ

MEKABU070522.jpg

30分でこんなに膨らむ

 水でもどして30分ほど、みるみる大きく膨らんで3倍以上になる。この状態ですでに見事に緑鮮やかで、ここで疑問が湧いてくる。これは茹でて干したものなのか、生を干したものなのか。めかぶは生の状態では濃い褐色であり、水でもどしただけなのに緑がこんなに鮮やかなのは、きっと茹でて干したのだろう。気になってラベルにあった『サンパール上天草物産館』に問い合わせてみる。
 すると、これは「生のまま干したもので、約5分ほど水で戻し、茹でて食べる」のだという。30分ももどしてしまったのはどうやら間違いだったらしい、それでも今となっては遅い。とにかく茹でて刻んでみる。
 これが戻しすぎなのかもしれないが、まったく味わいに影響はない模様だ。非常に美味。むしろ生よりも硬く感じたので、戻し時間自体は長くても大丈夫のようだ。

 さて、昨今食品売り場には湯通ししたものや、味付けしたカップ詰めなどの「めかぶ製品」が目立つ。どれもお便利ではあるが、どうも味わいは「生」「乾燥」はほとんど味が変わらない。そして「湯通しパック」はやや落ちる。どうやら生のある時期は「生」、ない時期には多少手間がかかるが、「乾燥」を戻して使うのがいいようだ。

 乾物大好きなものだから、このように定番乾物が増えるのはうれしい。天草のノリさんに感謝。

MEKABU070533.jpg

これは刻んで三杯酢

市場魚貝類図鑑のワカメへ
http://www.zukan-bouz.com/kaisou/kassou/tigaiso/wakame.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

hamasodati0705.jpg

 市場で「イカの塩辛で今人気があるのはドーレ?」と聞いて、即持ってきたのがコレである。
「塩辛くなくて甘いのがいいらしいんだ。ウチでも毎日食べてるよ」
 こんなことを言ってくる魚屋もいる。
 それが『マルヨ水産』の「浜そだち 八戸名産 ゴールデンいか塩辛」というもの。

 買い求めて早速食べてみると、これは明らかに塩辛じゃない。イカのワタらしきものも入ってそうだし、塩辛くもある。でも肝心要の熟成した複雑な味わいがまったくなく、むしろ微かな渋みしかないところに旨味を遙かに超える甘味が感じられる。
 これは明らかに珍味佳肴ではなく、お総菜の一種でしかない。じゃあ、嫌いかというと、この味わい、なかなか良くできているのだ。塩辛くないから、むしろイカの刺身をワタ入りの甘い和え衣で包んだように感じられる。驚いたことに、酒の肴には玄妙さを欠いているが、ご飯にのせてうまいのである。

 そして改めて裏面を見て、これまた驚くのである。原材料が凄まじく複雑。イカとあるのはスルメイカだろうか? もしくは輸入ものの「松いか」やイレックス? このあたりしっかり明記して欲しいな。そこにハチミツ、酒精、ステビア、甘草とあって、これ総て甘味である。アミノ酸はわかるとして発酵調味料というのはなんだろう? 醤油かな。でも、大豆を原料としたものが入っていると書かれていないところからすると酒類? だとしたら、甘味の後押しのひとつだ。酸化防止剤、色素など、とにかくこの味わいを作り出し、商品とするのに「出来る限りのことをやってしまった」というもの。
 ボクは決して自然食品の信奉者ではないので、こんなことには驚きはしない。むしろ努力してるんだろうな、くらいに感心する。でも、ここまで複雑に混ぜ合わせないと、今時の人々に愛される味はできないのだろうか? 「困った世の中だなー」とも思うのだ。

マルヨ水産
http://www.e-maruyo.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

改訂記

0

リンクのページを改訂しました

MIYOSHIの貝殻の部屋
http://www.geocities.jp/kazura32/

ひょうすけの写真俳句
http://sukechan.at.webry.info/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

anchan070511.jpg

 浦安、船橋などで暮らしてきた、『源七』のあんちゃんと立ち話するのが大好きなのだ。ここにはたくさんの発見がある。今日は有明海産の“なかずみ”を卸している。

「あんちゃん、なかずみ(コノシロの12センチから15センチほど)に子(卵巣)入ってる」
「入ってるよ。ほら、これは有明(海)だけど、みんな入ってるだろ」
「じゃああんまり身の方はよくはないってことだ」
「そうだね。これから秋まではダメだね。寿司屋さんはないと困るだろうし、こっちも大きさ揃えるのが大変だよ」

 コノシロの不思議さは、20センチ上の“このしろ”サイズが子持ちであるのは当然だとしても、この“なかずみ”でも、ときには“こはだ”サイズ(10センチ前後)でも子を持つことだ。しかも産卵時期が長いのだろうか? 国内のどこかで江戸前ずしに欠かせない“こはだ”、“なかずみ”サイズがとれる。

「子供の時、コノシロの卵食ったことあるかな」
「食ったね。あの頃はさ、おかずったら海のもんだろ。ご飯に、こいつの甘辛い煮つけだね」

 そうか東京湾でもコノシロの卵はよく食べられていたんだな。

市場魚貝類図鑑のコノシロへ
http://www.zukan-bouz.com/nisin/konosiro.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

カラッパ科を改訂

0

ソデカラッパのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/kani/karappa/sodekarappa.html
ソデナシカラッパのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/kani/karappa/sodenasikarappa.html

掲載種 1902


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

バカガイ科を改訂

0

オオトリガイのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/ootorigai.html
アリソガイのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/arisogai.html

ともに利用法などわかりません。ご存じの方はご協力下さい。

掲載種 1900種


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

nikkai0705111.jpg

 昨日八王子魚市場に来ていたのが『日海水産』の貝柱。箱を開けると目を引くのがイタヤガイらしき赤いイラスト入りのパッチ。そこに「かい柱」とある。これは小振りのホタテガイを茹でたもの。この『日海水産』のは、味が良く、ボクなどお気に入りのひとつなのだが、市場ではこれを誤って「いたや(貝)」と呼ぶ。
 これが不思議でならない。確かにイタヤガイの茹でたものも非常に希に出回っているようだ。イタヤガイは大発生したり、いなくなったりと水揚げの一定しない二枚貝。例えば鳥取県の民謡『貝殻節』はイタヤガイの貝殻を粉に引きながら唄われたもの。粉(漆喰や肥料になる)に引くほどとれていたイタヤガイは、また突然いなくなるというのを繰り返す。
 だからたくさんとれたときには『日海水産』でもイタヤガイを茹でて出荷するという。しかしそれは数年に一度といったことで、通常めったにイタヤガイのボイルは手に入らない。また箱の真横には原材料名が明記されていて、比較的大きな文字で「ホタテ」と書かれているのだ。

 それでも、どうしても『日海水産』の赤いイタヤガイらしきイラスト入りのパッチを見ると、関東の市場では「いたや」と言うことにしてしまう。面白いことに市場の職員すら、「今日のは“いたや”ですよ」と原材料を無視して説明してくれるから困ったものである。

 この誤解のもとにあるのは「過去にイタヤガイ」が大量に入荷してきたことがあり、その最大の加工会社が『日海水産』であった。または、ホタテガイなのに「ゆで貝柱」を「イタヤガイ」と慣例的に表示した時期があったということも、ありえる。
 ちなみにイタヤガイというのは、ふだんは水揚げの少ないもの。関東の市場ではほとんど見かけない。まあ一箱にまとまって入荷することなどゼロに等しいだろう。だから市場で見慣れているホタテは知っていてもイタヤガイは知らないという人の方が大勢なのだ。でもこのありふれた存在のホタテガイだってその昔は、珍しい、そして高級な二枚貝であったのだ。たぶん昔はイタヤガイとホタテガイは入荷量的には同じ程度だったはずだ。
 養殖ホタテガイが今のように大量に出回る前、茹でた貝柱の原材料はむしろイタヤガイであった可能性が高い。なぜならばホタテガイは古くから貝柱になっても、生でも高級なもの。だから養殖が試みられたという経緯もあるのだろう。これを比較的惣菜的な加工品である「ゆで貝」にすることはまずなかったと思われる。それに対してやや小振りな二枚貝のイタヤガイは大量発生することからも「ゆで貝」にするしかなかった。または干しても、生でも庶民的な存在だったのだろう。だから「ゆで貝柱」を見ると「ゆでたイタヤガイ」という認識が市場に残存しているとボクは考えている。
注/イタヤガイも隠岐などでは養殖されている。これはなかなか高価なもので刺身などになる

nikkai0705222.jpg

 さて、話を『日海水産』の「かい柱」にもどすと、この原料となるホタテガイは「養殖の途中で間引かれたもの」ではなく「ゆで貝柱」用にわざわざ陸奥湾などで養殖されているのである。だから「ゆでる」にちょうどいいサイズを、優れた技術をもって生産しているものなのだ。これほど味のいい、「そのまま食べられる」という優れものにしては値段が安すぎると思う。昨日の八王子魚市場での値段がキロあたり2200円でしかない。これは消費者にはありがたい値段であるが、漁師さん、加工屋さんには申し訳ないように思う。せめても酒の肴としながらこれを「作り出してくれた方」に感謝したいものだ。

 市場での魚貝類を調べていると、こんなところにも大いなる疑問を感じ、調べていくと魚貝類の歴史が表面にあぶり出されてくる。

市場魚貝類図鑑のイタヤガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/itaya/itaya.html
市場魚貝類図鑑のホタテガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/itaya/hotate.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

abuttteeeee0503.jpg

焼くと脂が染み出してきて「じゅうじゅう」と音を立てる。味わいは濃厚、かつ脂が甘味を持つ

 福岡県北部に「あぶってかも」という干物がある。福岡市から取り寄せて一度だけ食べたことがあり、その美味であるのにビックリ仰天。その原料が見たところ、デバスズメとスズメダイである。以後、防波堤釣り(波止釣り)でのスズメダイは全部持ち帰る仕儀となった。

 その作り方は簡単である。ウロコを丁寧に取り、頭を落として塩にからめる。ここで小一時間待ち、塩を洗い流して干すだけだ。立て塩でもいいのだけど、塩にまぶして魚から水分がにじみ出てくる。また塩が馴染んだのを見て取れるので、塩まぶしの方が簡単に思えるのだ。

 静岡県沼津市戸田、岸壁から釣り上げたスズメダイはもの凄い量である。これを小一時間かけて水洗い。5月の風に半日干し、物憂い夕風を受けながら、ビールを飲む。
 子供も自分で釣ったものだから、珍しくうまそうに食うのに、妻が「スズメダイは骨が硬いから気をつけて食べろよ」なんて声をかけている。

「あぶってかも」は晩春の季語だろうか?

市場魚貝類図鑑のスズメダイへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/suzumedai/suzumedai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

nagaubagaki0705333.jpg

 5月3日、原釜ではナガウバガイを探していた。選別する女性達に聞くと、
「そりゃ、“ひらっけい”じゃないか」
 この“ひらっけい”がわからない。なにしろ浜の人はすこぶる早口なのだ。
 なんども聞き直すと「ひらがい」と言っているのがわかる。
「ほっきよりひらったいずらよ、それで“ひらっけい”だ。わかんねーけ」
 なにを聞くんだろうな、このオヤジは、というような顔つきで教えてくれる。

 浜の女達が「平貝」にそっけないのは、値段が安いせいだ。底引きに、ときにまとまって入るが、あまり知られていないせいで浜値は「安いねー」と言う。

 ナガウバガイはバカガイ(青柳)に近い種である。剥いてみたら、それがよくわかる。身の色合いも貝の前後にある貝柱もバカガイと寸分違わない。違いは渋み、貝臭さのあるなしでしかない。

nagaubagai0705444.jpg

 寿司職人の渡辺隆之さん曰く、
「青柳が寿司ネタとしていいのは渋みというか適度な味の個性があるため」
 だとしたら渋みも風味もほとんどないナガウバガイは存在感がないということになる。だから関東に来ても人気が出ないのだ。
 でも、それをいい方にとらえると、クセのない上品な味わいで万人向きとも言える。

nagaubagai0705555.jpg

これは開いてさっと茹でたもの。作り方は青柳(バカガイ)と変わらない

 さて、原釜で2個だけあがったナガウバガイ、お願いしていただいてきた。これを剥き、青柳のように開く。たった2個なのでさっと塩水にくぐらせて、寿司ネタにする。その顛末はまた後に語るとして、やっぱり上品、かつうまいな。

 原釜に隣接する松川浦あたりにはお土産屋、飲食店、漁協運営の魚屋などがある。ときどきそこで売られているようだから、相馬に来た折にでも食べてみて欲しいものである。

市場魚貝類図鑑のナガウバガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/nagaubagai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

tenhota0705111.jpg

 原釜の底引き網に揚がる二枚貝は少なく、「平貝(ナガウバガイ)」とホタテガイの2週類だけ。ナガウバガイの話は別の機会にするとして、ここでは純天然のホタテガイのこと。
 原釜の底引き網で揚がるホタテガイは1日にせいぜい数十個ていど。主に「きんき(キチジ)」やマダラなどを狙うときに混ざるものだから競り場でもまばら。でもこれがなかなか大きく見事なものばかり。
 疲れ果てて、しかも便乗による原釜行きだから、あまり魚貝類を持ち帰るわけにはいかないが、ホタテを数個買い求めてきた。
 天然だから貝の裏側、いつも砂地に面しているところは真っ白。しかも貝のふくらみが養殖物よりも明らかに強い。帰宅して疲れ果てていたので、ただ単に刺身とする。当然、ヒモは塩もみ。ちなみにこのヒモにある黒い点々は光を感じる器官。「眼」といっていいのか疑問を感じるが、ヒトデなど天敵に襲われたときに役立つのだろうな。

tenhota0705222.jpg

 このホタテがさすがに天然物であって、身はより弾力に富み、甘味も強いように思える。疲れているときに、この貝の持つタウリンの効果が有効なんだろう。味わうに癒される気がする。
 産地ではないので原釜のホタテはあまりお高いものではなく、むしろ天然なのに格安なのだ。旅に出るとこんな味の発見が楽しいものである。

市場魚貝類図鑑のホタテガイ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/itaya/hotate.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

ハコダテエビジャコのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/ebi/ebijako/hakodateebijako.html
トゲエビジャコのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/ebi/ebijako/togeebijako.html

掲載種 1898


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

simizu0705222.jpg

 八王子総合卸売協同組合『清水保商店』でいきなり「サーモントラウト」の文字が目に飛び込んできた。富山の「ますの寿し」などでは明らかに原材料を隠していたのに、これはそのものずばり表に「サーモントラウト西京漬け」とある。この正直さ加減に思わず買ってしまった。
 前にも書いたがサーモントラウトとアトランティックサーモン(タイセイヨウサケ)は出荷調整が出来る。すなわち成長を遅らせたり、早くしたりできる。サーモントラウトという養殖魚は、その上成熟しないなどの利点もあって将来有望どころか徐々に市場を席巻しはじめている。この魚の凄いのは生も塩鮭もこのような「漬け魚」もなんにでも使えて、色合い味わい総てよしなのだ。
 だから知らず知らずのうちに「サケ」だと思って食べていたのが実はサーモントラウトだったなんてことが多々あるはず。
 また「サケ」という言葉は曖昧でついつい標準和名のサケを思ってしまうので天然魚だと思ってしまうかも知れない。そこへいくとシミズ水産は正直である。一目見て「サケではない」というのがわかるし、裏面には「チリ産養殖」と書いてある。

simizusuisan0705111.jpg

 味もよく、八王子総合卸売協同組合『清水保商店』でも人気があるという。
 賢い消費者なら、どうせ養殖魚のサーモントラウトを買うとき「正直なメーカー」を選ぶべきだ。シミズ水産偉い!

シミズ水産 神奈川県茅ヶ崎市中島
市場魚貝類図鑑のサーモントラウトへ
http://www.zukan-bouz.com/sake/sarmont.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

siraito0705111.jpg

 原釜で「まきつぶ」というのがシライトマキバイ。巻き貝の中ではもっとも水揚げの多いものだと思われる。これを『八巻水産』などでは競り落として、“むきつぶ”に加工する。これがなかなか原始的。貝殻が柔らかいので手で押しつぶし、足、すなわち腹足の部分だけにする。これをよく洗い1キロ単位にして出荷する。この“むきつぶ”は刺身にもなるし、焼いても煮てもうまい。

 この作業を見ていたら、貝殻をどついていたお姉さんが、「食べてみる」と言う。「うんうん」とうなずくと足を半分に開いて、海水で洗い、「そこの真水でもう一度洗って食べなさい」とでも言ってるんだろう蛇口を肘で指し示す。
 言われたとおりにすると、「ほんとはね。別に水で洗わなくてもいいんだ」と大笑い。まことに原釜の女性はよく笑うのだ。

siraito0705222.jpg

 シライトマキバイが刺身でうまいのはよく知っている。ときどき八王子綜合卸売センター『高野水産』でいただいてきて(ちゃんとオクレと言ってね)晩酌の友にする。でも改めてとれたてを野性味溢れる出荷現場で食べるとうまさも一入である。
 真つぶ(エゾボラ)などと比べるとコリコリ感に乏しいと思っていたら、意外に勝るとも劣らずの食感があり、苦みがくるとともに甘味が口に広がる。早朝から立ちっぱなしの歩きづめで疲労はピークにある。そこにこの新鮮味がとても心地よい。

siraito0705333.jpg

 さて、北海道でも東北太平洋側でも“むきつぶ”の材料はシライトマキバイをはじめとする数種のヒモマキバイグループで身の色合い、味ともに同じである。関東の市場で1キロあたり2000円前後か? 殻付きで1キロあたり800円から1000円くらい。どちらにしてもシライトマキバイはうまくて安い。お買い得な巻き貝に違いない。

市場魚貝類図鑑のシライトマキバイ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/himomakibai/siraitomaki.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

soboro07051.jpg

 原釜での長い長い競りもやっと終わろうとしていたとき。水を流しながら「どんこ(エゾイソアイナメ)」を卸している女性を見つける。
「これどんな料理になるんでしょう?」
「そぼろだね」
 見ていると肝は捨てているように思える。
「そぼろってね。鍋で炒って、味噌と砂糖を卵を入れるんだ」

 原釜の人たちは皆早口の上、なかなか方言が聞き取れない。でも要するに、どんこを卸して、細かくする。これを鍋で炒って味噌と砂糖と卵を加えて、そぼろ状に仕上げるもの。
「どうして肝を捨ててるんですか」
「これ入れてもいいんだけど生臭いでしょう」
 とすると本来は肝を入れるんだろうか? 休憩所でも聞いてみると
「やっぱり肝は入れるね。あとネギだろ、唐辛子ね」
 どうやら肝を使う方が本来の形であるようだ。これでご飯のおかずにするそうである。
「子供の頃はよく食べたね」

 それで『八巻水産』でどんこを分けてもらい、実際に作ってみる。

 どんこは身だけにし、スピードカッターですり身にする。これに肝も加えてテフロンフライパンで炒りながら酒、砂糖、味噌を加えて軽くコンガリするくらいに炒る。最後に七味唐辛子を加えて出来上がり。ネギを入れるといいと教わったのだが、これは後から加えてもいいし、まずはもっとも単純な“そぼろ”にしてみる。今回は最後に溶き卵を入れたのだが、最初から調味料をすり身に混ぜ込んだ方がよかったように思える。

soboro0705222.jpg

卸したどんこの身と肝

soboro0705333.jpg

これを炒りながら調味料を加える

 甘味は抑えてあるのだが、どんこの肝や身のあたりから甘味が加わって優しい、子供にも受けのいい味わいとなった。七味唐辛子を入れたのは大正解。このユズや山椒の香りで、魚の生臭みはまったく消えてしまっている。子供達がとくに気に入ったのが焦げたところ。この香ばしさと適度な甘味、旨味でご飯とともに“そぼろ”もどんどんなくなっていく。

soboro070512.jpg

出来上がり

soboro0705111.jpg

非常にご飯にあう

市場魚貝類図鑑のエゾイソアイナメ
http://www.zukan-bouz.com/taraasiro/tigodara/ezoisoainame.html
●原釜の底引き船「恵永丸」ほかに教えていただく


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

jakosenbei.jpg

 八王子総合卸売協同組合『丸幸水産』で売られていたもの。見た目は愛媛県宇和島市の「じゃこ天」を薄く真四角くしたようなもの。産地はどこだろうと思って見たら長崎のもの。練り物に「せんべい」というのはけだし面白いではないか。そう言えば、長崎の練り物についてはなにも知らない。好奇心がわき起こり、一パック買って帰る。
 そのまま食べると、やや甘めに味付けされていて、青い背の魚の旨味を感じる。原材料にも「たら(スケトウダラ)」に練り物では珍しいコノシロ、「じゃこ」とある。この「じゃこ」というのはなんだろう。宇和島ではホタルジャコ、ネンブツダイなどいろいろ。長崎市での「じゃこ」がなんであるかも知りたいものだ。
 生で食べてもうまいのだが、軽く油を引かないテフロンフライパンで焼くともっとうまい。またジャガイモや大根と炊いてもうまいな。みそ汁にもよさそう。「じゃこ」、コノシロなんて小魚だろうから身体にも「良い」だろうな。
●「じゃこせんべい」他、長崎の練り物に関してお教えいただける方、大歓迎

木村蒲鉾店 長崎県長崎市京泊3丁目16-19


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

sokobiki0705.jpg

 八王子綜合卸売センター『市場寿司 たか』で寿司図鑑用の撮影をしていたら、ケータイがなる。ヘンリーブロスの江嶋力さんから。「突然ですけど原釜へいきませんか」関西訛りの人なっこい声が聞こえる。やらなければならないことはいっぱいある。でも原釜は魅力的だ。

 2日の11時過ぎ、もう各駅停車になってしまっている中央線東京行きに乗り込む。乗客は思ったよりも多く、酔っぱらが多くやたらにうるさい。有楽町着が0時半である。ビックカメラの前まで江嶋さんに迎えに来てもらって、そのBMWで福島を目差す。江嶋さんは今度都内に私設市場を作ろうとしている。主に魚貝類を扱い、そこでは手軽に産地直送の魚を味わえるそうだ。これは楽しみである。

 首都高はさすがに渋滞していたが常磐自動車道はいつものようにガラガラ。いわき中央を超えると1車線となり、ここで注意すべきはタヌキの飛び出しである。この道、深夜にはタヌキの屍がるいるいと転がっている。

haragama07053333.jpg

haragama0705111.jpg

 原釜に到着したのが5時前。押っ取り刀で底引き網の競り場に行くと、すでに原釜の魅力的な女達が選別にかかっている。
 いつものようにカレイ目のオンパレード。ヒラメ、「肉持ちがれい(ミギガレイ)」「あかじがれい(マガレイ)」、マコガレイ、イシガレイ、「なめた(ババガレイ)」、「黒柳(ヒレグロ)」、ヤナギムシガレイ、アカガレイ、数は少ないがホシガレイとマツカワガレイ、アブラガレイ。
 その横には「あまだこ(ヤナギダコ)」。イイダコ、ミズダコは少ない。原釜はタコの水揚げ日本一。
 いつもは彩りを欠く競り場が赤く染まっている。その赤い色合いのほとんどがキチジ。これほど多い「きんき」を見るのは原釜では初めて。

haragama07052222.jpg

 その赤い色合いから、まずキチジ以外の少数のカサゴ目を分けている。そこにはウスメバル、ウケグチメバル、珍しいヤナギメバル、アコウ、ユメカサゴがある。黒いのはタヌキメバル、メバル。

 今日は休みを控えての全船入港。細長く巨大な競り場は徐々に魚を入れたカゴで埋まっている。その下手、岸壁には第二陣の競りを待ち、選別の順番を待つ青いバケツが、これも競り場の屋根をはみ出して待ちかまえている。その上、沖から底引き船が帰港する。港は騒然としている。
 この喧噪はくの字形に曲がった先の刺し網でも見られる。ここで揚がるものも魚種は変わらないが活けものが多いのが特徴。

 意外に膨大なのがマナマコである。水揚げされたときは、まるで泥のようなのだが、これから徐々にぬめりや汚れを取り去っていく。その手間たるや大変なもの。ここでも浜の女達の活躍が光る。

haragama07059999.jpg

マナマコはとにかくぬめりを取り去る。これが大変なのだ

 カレイの白い腹が床に並び、その先にはニシンがこれも大量にある。このニシンは仙台湾あたりの群だろうか。

haragama07058888.jpg

 マダラ、マダラの子供、スケトウダラ、ホッケも混じる。「あんこう(キアンコウ)」、「どんこ(エゾイソアイナメ)」、スズキ、マアジ、マサバ、「手切り(てっきり ながづか)」。

太ったサクラマスを見て「やせないとダメだな」と思う。

haragama0705555.jpg

 大きなバケツに、そしてカゴに無数の「あぶらざめ(アブラツノザメ)」。

haragama0705777.jpg

 見慣れぬサメが2本あって、フトツノザメにシロカグラではないかと思われる。しかしシロカグラが福島にもいるのだろうか?

haragama0705666.jpg

これシロカグラであると思うのだが?

 マダイ、チダイ、カガミダイ、コモンカスベにアカエイ。
 ヤリイカ、スルメイカ。「まきつぶ(シライトマキバイ)」、ネジボラ、ネジヌキバイ、ナガバイ、「まつぶ(モスソガイ)」、ホタテにバカガイ、ナガウバガイ。
 エビは「ぶどうえび(ヒゴロモエビ)」、ボタンエビ、テラオボタン、クルマエビ、サルエビ。テラオボタンがいちばん多い。

haragama07054444.jpg

テラオボタン。現地では「白ぼたん」とも言うが、ほとんどの人がボタンエビとの区別がつかない。一見ボタンエビに見えるが背中に大きな丸い紋がある

ケガニ多数、そこにズワイガニ、ベニズワイ、ガザミ、ヒラツメガニも見受ける。ケガニは総て持ち重りのする見事なもの。

 睡眠不足のせいか、どこかで一休みしたくなる。ふらふらと事務所を目差していると元気な浜のお姉さんに声をかけられて記念撮影をしてあげる。まったく福島の女性は明るく、美しく、そして親切なのだ。

hamabijin0705.jpg

 6時過ぎになって『八巻水産(ヤ印)』の八巻社長が競り場に見える。江嶋さんが魚を注文するのにボクもひとつだけ参加して天然ホタテを買う。『八巻水産』ではお土産までいただいて、時計は既に正午過ぎとなっている。

 帰途の常磐道は渋滞ゼロ。首都高の渋滞も平日並で東京着は6時過ぎ。ボクは疲労困憊で東京駅始発中央線で帰宅する。疲れて疲れたとボクが言うのはおこがましいものだ。なにしろ不眠不休で原釜への往復を運転した江嶋力さんは、まだこれからたっぷりと仕事が残っているという。がんばれ、若き社長よ。

中目黒の『ぼうずこんにゃく』では原釜の魚貝類が味わえる(ちなみにボクの店ではありません)
http://www.k-bouzu.jp/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

NENMISOSIRU070411.jpg

 戸田での防波堤(岸壁)釣りは、まったく子供達の独擅場。ネンブツダイ、クロホシイシモチ、スズメダイ、メバルにササノハベラなどなんでもかまわず釣りまくる。だけど後の始末はどうするの?
 そんなことを心配していたら、ボクたちのバケツを見た地元の老人が「昔はこれをトントン木の上でたたいて出汁をとっただら」と教えてくれた。
 帰宅した日は半死半生。しかもマルアジの刺身、クロホシイシモチ、ネンブツダイ尾唐揚げ、天草からのヨシノゴチの身も残り、まずはそれを「食べてみる」のに専念。
 そして本日試してみたのがみそ汁のだしである。別に「みそ汁じゃなくてもいいだろう」と思っていたら、そのとってみた出汁が意外に濃厚なのだ。脂もあり、こってり。これは「潮」には出来ない。やっぱりみそ汁に限る。

 ネンブツダイ、クロホシイシモチは頭と背ビレ、内臓を除き、ある程度ウロコを取り去る。これをトントンとたたいて、昆布を沈めた鍋に放り込む。火をつけて湧いてきたらしっかりアクをすくい、だし汁が出来上がる。これをワカメのみそ汁に仕立てる。
 濃厚な旨味、脂があってまったりした味わい。これが美味なのである。これなら毎日のみそ汁だしをテンジクダイ科の魚でとってもいい。今回の出汁に一工夫したのはほんの少しの酒をいれただけ。これはいけますね。
 喜んでいたら、太郎が「父ちゃん、ワカメはこの出汁に合わないな。玉ねぎとかネギがいい」という。
 しかり、その通りかも知れない。特に玉ねぎの甘味は合うだろう。

市場魚貝類図鑑のクロホシイシモチへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/tenjikudai/kurosujiisimoti.html
市場魚貝類図鑑のネンブツダイへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/tenjikudai/nenbutudai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

maruaji0704.jpg

器は倉敷の武内立爾さんにいただいたもの。ボクのカメラ技術では、器の真価はわからない

 我が家の娘の取り得というと「人なつっこい」ことだろう。それで戸田の岸壁でサビキ釣りをしながら、周りの大人といつの間にか親しくなってしまった。そして明らかに防波堤釣りのプロと見受ける方にいろいろ頂き物をする。それが見事なマルアジ、小振りのマダイ。そのマルアジが大きい。帰り着いて体長を計ると、36センチもある見事さ。
 これを帰宅後の夕食でいただく。まだ身は死後硬直前。卸して刺身にすると弾力がある。そしてムロアジ属なのに血合いが少なく、刺身としても美しいのだ。
 これを姫はうれしそうに「私がもらったんだからね」と大いばり、たっぷり食べる。そしていつの間にか夢の中。布団の中ではまだ釣りをしていたようである。
 しかしとれたてのマルアジはうまいのである。思ったよりも脂がのっていたし、旨味もある。
 戸田岸壁の釣り人さん、ありがとうございました。

市場魚貝類図鑑のマルアジへ
http://www.zukan-bouz.com/aji/muroaji/maruaji.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

「たれ」という言葉は水産世界では千葉県での「クジラ」、静岡県での「イルカ」とあって、三重県では「サメのたれ」となる。
 それぞれ材料は違うが、みな干物であり、基本的には塩味のもの。
 千葉県太海にはクジラの解体を見に行って、これを「たれ」用に販売する。それを買い求めに来た人たちに「なぜ『たれ』なのか」と聞くとツチクジラの身をやや薄く真四角に切り、塩水に漬ける。これを干すときに塩水が「たれる」ために「たれ」という名がついたという。どうも静岡県でも同じであるようだ。これが三重県では干したときに「たらして」干すがために「垂れ」だという。
 延喜式や奈良時代の木簡には「鮫楚割」というのがあり、これが現在の「サメのタレ」にあたる。「楚割(すわやり)」とは魚の身を細長く切り、「楚」=「木の枝」のごとくして塩漬け、干したもの。これが中世には「たれ」となる。またこのサメの干物は伊勢神宮、香取神宮、津島神社などの神饌でもある。神饌としての「たれ」は「楚」すなわち木の枝のように細長くするのではなく、塩漬けのサメ肉を長方形に切り、干すもの。これなど現在の「サメのたれ」よりも千葉県の「クジラのたれ」「イルカのたれ」に似ている。
 とすると、本来「楚割」はサメだけではなく、魚全般にわたって「干物」を差し、消費する都、または国府などでの言葉。それに対して「たれ」というのは産地での言葉ではないか。なぜなら「塩たれる」にしても「干すときに垂れ下がる」にしても「作るときの工程」を表している。それが時代をへて天皇家を中心とする中央集権国家が崩壊して、中世になる。地域ごとに統治者が現れて、租庸調などの体制も崩れる。当然、消費地である奈良、京都での「楚割」の言葉は消えて、産地での「たれ」が残る。この生産地での言葉が伊勢志摩に置いて主にサメの干物になり。また静岡ではイルカの干物に対する言葉となる。沿岸捕鯨の地、千葉ではクジラの「たれ」が残った。

sametare0704.jpg

左のみりん干しは「楚割」の形に近く、右の塩干しは神饌に近い

 さて、「サメのたれ」に的を絞る。その昔、三重県では志摩地方で「サメのたれ」が作られ伊勢に送られてきたのだという。それが現在では東紀州(三重県西部)、和歌山県が生産地になっている。これが伊勢地方に送られてきていたのだ。すなわち長い間、「サメのたれ」という言葉も食べるのも伊勢地方が主であり、あまり他の地方では食べられてこなかった。その内、和歌山でお土産で売られるようになり、また消費されるようになって、「サメ」という言葉を嫌い、「メカジキの干物」と称された時代がある。それでは嘘になるとして「勝浦干し」と呼ばれるようになっているのだという。この「勝浦干し」というのも確かめる必要がある。

 この「サメのたれ」が食べてみたくなって、宅配してくれる業者を調べているときに我が甲殻類の師でもある沼津の飯塚栄一さんから「お伊勢参りに行きます」というケータイをいただく。これは好機だと、買ってきてもらったのが画像の干物たち。サメのみりん干しと塩干し、そしてウツボである。
 本来「サメのたれ」は塩干しであって、味醂干しは戦後から作られたもの。でも最近は味醂干しの方に人気があるのだという。また「サメの」と原料名がつくようになったのも戦後のこと。本来はヨシキリザメ、オナガザメ、アオザメ、シュモクザメなど「サメだけで作られていた」もので単に「たれ」と呼ばれていた。これが戦時中、エイでも作られるようになり、下級な「エイのたれ」に対して「サメの」をつけるようになったという。
「サメのたれ」は軽く炙って手でちぎって食べる。これが思いのほか美味である。クセのない、やや旨味の薄い味わいながら、酒の肴に、また塩味のほど良さからご飯にもあいそうだ。味醂干しは塩干しの、ややもの足りぬ味わいを甘味で補ったものだろうが、サメ肉本来の味わいは消えてしまっている。

 サメを干物にするという地方は少なくないという。これも追って調べる必要があるだろう。「たれ」という言葉に関してもそうである。この言葉が残る地域は千葉県、静岡県、三重県以外にもあるのだろうか? 我が課題はまだまだたっぷり残っている。

マルサ海産 三重県北牟婁郡紀北町紀伊長島区長島1189-146
      海老丸 伊勢市宇治中之切町52で購入

沼津飯塚さんからいただく。「飯塚さんの海の世界」
http://www.numazu.to/sea/
参考文献/『鮫』矢野憲一著(法政大学出版局)


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 原釜には底引きなどの水揚げを見に、また小名浜では現地の魚屋さん、物産館などを見て回ります。福島県浜通の美人さんに会えるのも楽しみですが、なによりも底引きの魚たちをたっぷり見てくるつもりです。
 今回は新しい魚の流通を考えているヘンリーブロスの江嶋力さんと一緒。さてどんなものに出合えるのか楽しみである。


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

改訂記

0

呼び名・方言に熊本県を追加
http://www.zukan-bouz.com/zkanb/hougen/kakuti/kumamoto.html
褐藻類コンブ科アントクメのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/kaisou/kassou/konbu/antokume.html
フグ目カワハギ科ツラナガハギのページを作成
http://www.zukan-bouz.com/fygu/kawahagi/turanagahagi.html

掲載種 1896


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、管理人2007年5月に書いたブログ記事が含まれています。

前のアーカイブは管理人: 2007年4月です。

次のアーカイブは管理人: 2007年6月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。