管理人: 2008年4月アーカイブ

チカの地伝酒焼き

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 最近チカの入荷が増えてきている。根室、網走など北海道のチカは大きくて立派だ。
 我が家では、チカは焼き物にするのだけど、ほとんどが素焼きしてしょうが醤油をつけるという単純なやり方。これをアレンジして「つけ焼き」を作ってみる。
 チカはまず醤油に浸す。焼く10分ほどつけて、この醤油は一度捨てる(所謂醤油洗いに近い)。ここに島根県松江市米田酒造の「地伝酒」を入れて甘味を加える。

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チカを醤油に漬け込んでいると、微かにキュウリのような臭いがする。これがキュウリウオ科である証拠だ。

 この酒は味醂(みりん)のように使えて、味醂よりも甘味が薄く、むしろ醸されたときに風味や、灰汁を使って酸を中和しているためにカラメルのような一種独特の渋みを感じる。
 ここに醤油を新たに加えて、数時間寝かせる。

 後はとにかく強火で焦がしながら短時間に焼き上げる。焼くときは一気呵成に躊躇なくやるのがいい。
 食べるときも同じく、熱い内に食べるのがよく、冷めると旨さは半減する。
 このように、阿吽の呼吸で調理し食べないとダメなものは、家庭でしかできない。
 皿に盛るのももどかしく、手でむさぼり食うべし。

 チカにはほとんどはらわたらしきものはなく、骨もワカサギと比べるとしっかりしているが、柔らかい。とにかくチカを食べるときに箸は無駄だ。
 口に入れた途端、チカの皮目の香ばしさに地伝酒、醤油の香り、次に白身のキュウリのような香りと甘味がほんのり浮き上がる。と、そのまたまた次に旨味と繊維質のほどけるようなホロホロ感も楽しめるわけで、とにもかくにも短時間に口の中をチカの旨味が満たして消える。面白いのは、地伝酒と醤油を使うと「魚を食べただけではなく醸造香を味わった」ように思えることだ。

 最近食品偽装なんて言われて、「アブラガニをタラバガニ」、「アブラボウズをクエ」、「ヒラメの縁側はアブラガレイの縁側」だったなんて喧しい。これに「チカをワカサギ」と偽って販売した例もあるとマスコミに出ていた。
 私、かねがねチカはうまい魚で、チカの見方であることを自認している。チカを悪者、偽物扱いにするなかれ、「チカはワカサギに劣らずうまいのだ。チカをワカサギだと偽る必要はない」と改めて宣言しておきたい。

豊の秋 米田酒造
http://www.toyonoaki.com/jiden.htm
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、チカへ
http://www.zukan-bouz.com/kyuriuo/tika.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 築地の「イリヤマイチ斎藤」で見つけたオニカサゴだが、食べないでなんと九州は鹿児島大学へ送ったのだ。とれたのが鹿児島で、築地まで来てボクに買われて、またまた鹿児島に帰ったことになる。
 これがオオウルマカサゴであることが鹿児島大学の本村浩之先生の同定で判明した。我が国で2個体目だという。しかも最大の個体。
 どうやら大きな発見となったようだが、ボクにとって、うまそうなカサゴが目の前から消えただけ。

オオウルマカサゴ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/fusakasago/oourumakasago.html

これが我が市場魚貝類図鑑の掲載種 掲載種 1975となる


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場内の生け簀でおよぐヤリイカ。これが買えるのだからうれしい

“市場”が大好きだ。でも改めて考えるに“市場”って何だろう? それは現在の観念でいうところの卸売市場など公設市場だけではなく、魚が水揚げされる「河岸」、それから通りの名前だったり、また単なる店舗の集合体であったりする。ようするに人々が何かを求めに来る(買いに来る)物資の集散地でもあるし、人が集まる場所自体でもある。すなわち多様な意味を持つ言語と解釈して欲しい。
 だから萩魚市場前に建っている『道の駅 萩しーまーと』も間違いなく“市場”である。新しく作られた“市場”で、これほど人の集まる場所も少ないだろう。この市場の歴史は浅く、建設されたのは2001年のこと。場内は清潔で、また、驚くのは無駄な飾り付けなどは皆無に近い。それなのにどこか有機的で暖かみがある。
 どうして、これほど親しみやすい空間なのかというと、回りにたくさんの食べ物が置かれていて、その密度が高い。また多様性があり、入るといろんなものが目に飛び込んでくる。驚くべきは、これほどの多様性のある“市場”であるのに清潔無比であることだ。場内に腐食した有機質の臭いがまったくない。

 2月のもっとも観光客の少ない金曜日に、ボクは『道の駅 萩しーまーと』をグルグルまわり、その面白さに夢中になった。今回はこの新しいのに、なぜか懐かしい、そして回ってみるだけで楽しい『道の駅 萩しーまーと』の魅力を考えてみたいと思う。
 ここだけの話であるが、萩には行ってみたい場所が数え切れないほどある。幕末の歴史は面白く、高杉晋作、吉田松陰、伊藤博文の足跡はもとより、その美しく古めかしい城下町自体に惹きつけられるだろう。
 でも萩に来て「食べたいものは」と聞かれると、ぜんぜん思い浮かばない。そん不得要領な状態で『道の駅 萩しーまーと』にくるとやっと萩が漁港であり、新鮮な日本海の幸に溢れている街であることに気づくだろう。
 それほどに『道の駅 萩しーまーと』の水産物への貢献度は高いと思う。

道の駅 萩しーまーと
http://www.axis.or.jp/~seamart/


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 一年でもっともマアナゴの少ない時期だ。このようなとき悪戦苦闘するのが『市場寿司 たか』である。
 格安で江戸前寿司を提供しているので、ちょっと材料が値上がりすると手が出なくなる。
「おまかせに(おまかせ握り)に穴子がなけりゃ困るよな」
 なんてぼやく日々が続いている。そこで登場してくるのが「煮いか」である。
 不思議なことに今年は「ばらいか」が少ない。これはスルメイカの若いもので、市場に入荷してくるときに、並べないでどさっとランダムに放り込まれてくるものだ。「煮いか」にはこの小振りのスルメイカがいちばん向いている。
 仕方ないので、産卵期の大振りのスルメイカを「煮いか」に。今年は「ばらいか」がないせいか下氷のスルメイカも高い。
 そんなこんなで仕込んだ「煮いか」が煮穴子ほどには人気がない。これほどうまいネタもないだろうと思うのに、なぜなんだろう。答えは知名度がないためだ。「煮いか」は古くから基本的な寿司ネタのひとつだが、市販品もなく、最近では手間がかかる(本当はかからない)といって作る寿司屋が減ってきている。
 だから、だれも知らない寿司ネタになってしまったのだ。
「オレの手間はただみたいなもんだからさ」
 売れない「煮いか」を握りながら、たかさんがぼやく。

 ぼやきながら握られた、「煮いか」のうまいこと。たかさんが作るのは“煮る”のではなく、軽く煮汁に通す程度である。当然スルメイカは柔らかく、甘味などはツメでおぎなっている。このスルメの味わいがいいのである。ふわっと来るのはなんだろうね。スルメイカが持つグリシンなどの旨味だろうか、そして甘味、香りのようなものも感じるが心地よいものだ。

 ふと、マアナゴは当分とれなくてもいい、と思うのであった。

市場寿司 たか
http://www.zukan-bouz.com/zkan/zkan/rink/gest.html
八王子の市場のことは
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スルメイカ
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/tutuika/surumeika.html


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 関東はイワガキを食べるという意味合いでは先進的な土地柄である。
 これは古くからイワガキを食べていた銚子に近いからである。
 だから今でも関東でもっとも珍重されるのは銚子産のイワガキだと思う。それが徐々に崩れてきているのが、日本全国から来るようになって顕著に見えてきている。千葉県、秋田県、山形県、鳥取県などの限定した地域から、現在では北海道を除く、ほとんどの地域からイワガキが入荷してくるようになっている。
 そして地域だけでなく、天然から養殖への転換も図られているように思える。

 築地場内を歩く。岩手県大船渡、島根県隠岐海士の養殖がたっぷり入荷してきているなかに、富山県新湊産の天然イワガキを発見した。長野水産の店頭でのこと。「一個でも売ってくれるか」と聞くと大丈夫だというので買い求めてきた。そのときボクのクーラーバッグにはいくつものイワガキが入っていたのだ。
「ウチは養殖イワガキは仕入れないんだよ。だから今年最初のイワガキがこれ」
 築地場内にはこのような店がまだまだありそうだ。ボクとしてはこのようなこだわりは聞いていて気持ちがいい。大好きであるといっても過言ではない。

 帰り着いて、持ち帰ったイワガキを総て剥き、並べて食べてみた。
 他のイワガキに関しては別項を立てるとして、この富山産のイワガキが素晴らしかった。
 まずは養殖のイワガキ(岩手県大船渡、島根県隠岐海士産)よりも旨味が濃厚である。それなのに舌の上にあって決して重くはない。これはイワガキの身に適度の弾力性があり、鮮烈な苦み(本当に苦いのかわからない)がくる。この苦みと旨味が合わさって、甘いように感じるのはどうしてだろう。
 まさに濃厚で、1個でも満足度大なのに、不思議と、もうひとつ食べたくなる味わいである。

 結論としては富山県新湊産のイワガキは非常にうまい。これなら「毎日でも食いたい級」である。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、イワガキへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/pteriomorphia/kaki/iwakaki.html


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 どうやらボクの市場食堂の見識に誤解が生じているようなので、しっかりとした定義を書いておく。

 まず理想の市場飯とはなにか? というと2つある。
1 市場の労働はきつく腹がへるのでたっぷりして、盛りだくさんなもの。例えば、カツ丼あり、親子丼ありで、注文するとすぐに出てくる。別に市場になくたって魅力を感じる店。そしてできるだけ料理は手作りしていること。船橋の市場には、おいしいか、おいしくないかは別にして、こんなタイプの食堂が多い。
2 例えば魚市場なのだから、その日競りにかかった新鮮な魚を、日々使うこと。いろんな魚貝類を使いメニューを固定化しない。また出来るだけ手作りする。例えば築地にある『たけの』、『かとう』。

 すなわち市場にあって理想の食堂は「うまい店」であることは当たり前として、「市場に来る人は魚に詳しいのだから、いい魚を安く用意している店」。それに加えるに、「魚に飽きているだろうから丼物や定番もの、お総菜の充実している店」などがいい。
 そしていちばん嫌いであるのが、中途半端な店。奇をてらっているのか、背伸びをして市販のもので飾る、もしくは市販のものを“中心”に使って(市販の食材を使うことが悪いわけではない)、受けを狙う。
 また実際には市場を歩いていない店主の店。
 最後に勝手な思い込みかも知れないが、市場人に嫌われる市場の食堂はダメだな。
 実際に市場で働いている方はどうお考えなのだろうね。その内、出来るだけインタビューしてみたいと思う。


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 温暖化のためだろうか、さごち(サワラの若魚)が市場に溢れている。しかも鮮度的にもすぐれたものが少なくない。こんなにまとまって入荷してしまうと、さごちに飽きてしまったという料理人も多く、値段は安めで安定しているようだ。
 これを寿司ネタとして使う場合、酢締めにする、あぶる、という二通りの方法がありそうに思う。それでまずは実験。「あぶる」というのを試してみる。

 寿司職人、渡辺隆之さんに「あぶる」から始めようではないか? というと首をひねって、「やめようよ」という。
「『さごちのあぶり』は生のまま握って上からバーナーで焼くんだろ。ガスであぶったら皮がとれるだろ」
 我が家でなんどもやっていると言って、実際に寿司ネタを作ってもらう。

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 思ったよりも簡単に出来る。ネタの切り付けも難しいというほどではない。

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 しかも、である、これが非常にうまいのだ。皮目の香ばしさがあって、身は熱を通したためにとろっとしている。
「色がよければねー」
 たかさんの意見では血合い肉が「うまそうに思えない」のだという。

 まあ、いいではないか、これなら誰が食べてもうまいと思うに違いない。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サワラへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/sawara/sawara.html


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 慌ただしい日々が続いており、毎日が戦争のようだ。それでなにが困るかというと、煮いかや、自家製のこはだ(コノシロの幼魚の酢漬け)を作る暇がないということ。
 八王子魚市場のあんちゃんから、開いたこはだを買う。
 本来は持ち帰って振り塩して30分ほど、後は酢洗いして、1時間ほど甘酢(ほんの少量砂糖を加える)に漬けるというのが我が家風。寿司屋で作るのは、塩をして、水洗い、酢に数分漬けて出来上がりとなる。我が家族はやや酢が利いたものが好きだし、子供はほんの少し甘く感じる方がいいようなのだ。
 今回は、慌ただしい土曜日だったので、いきなりぽん酢である「ゆずほの香」に漬け込んでみた。それで5分。もったいないけど、一度ぽん酢を捨てて、新しい「ゆずほの香」をかけ回して1時間(時間はこはだの脂ののりで決まる)。

 これが思った以上に、うまい“こはだ”となっていたのでビックリした。「ゆずほの香」の塩分はぽん酢としては低い方だが、漬け込むことからすると充分すぎるほどだ。だから「ゆずほの香」で漬けた“こはだ”には漬け醤油はいらない。単にワサビだけ添えて食卓に出す。

 これは困ったときの定番的な“こはだ”作りになりそうである。

米田醤油店
島根県松江市東本町3-58 電話0852-21-3591
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 八王子魚市場『源七』の閉店は痛手だ。多摩地区はかつては山間部というか、海から遠く、水産物の文化を持たない。そこに千葉県)船橋を本拠地とする店があるだけで、どんなに八王子魚市場全体の価値を高めていたか計り知れない。市場というのは“食べ物”を売るだけではなく、食文化を与えて暮れる場所なのだ。

 どうして『源七』が閉店することになったかというと、市場の半分がパチンコ屋に成り下がってしまうからだ。例えば、東京都のカジノ建設を反対する愚かな人たちがいる。なぜ、この人達が愚かかというと、カジノは入場させるに制限を儲けることが可能だ。前科とか、自己破産とか、謝金の多い人とか、ある一定の制限で正しい博打場(へんな表現だが)たりうる。
 対するにパチンコ屋というのは悪質である。入場にまったく制限がなく、郊外にでも繁華街にだってニョキニョキ建ってしまう。博打を根絶することは難しいし、動物としての人間の本能から、なくしてはならないものだろう。でもパチンコ屋の多さには辟易する。しかも市場を狭めて、こんなものを作るなんて、ほんまにパチンコ屋憎むべし!

 さて、閑話休題。
 残念無念に思っていたら、ひとつだけ救いがあった。それは、あんちゃんが八王子魚市場に居残ってくれたことだ。
 季節季節のアカガイのこと、こはだ・なかずみ(共にコノシロ)のこと。これを聞ける相手がいてくれるうれしさは掛け買いのないもの。あんちゃんの仕込んだ「こはだ」が買えるのもうれしいねー。
 さて、明日もあんちゃんと立ち話しに、市場に行くのだ。

八王子の市場に関しては
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 水産棟に入ると、競りは終了している。残っている物が積み上げられることもなく、きれいに片づいた先に仲卸の灯りが見える。
 仲卸の数は39、これは東京足立市場に近いのではないか、どこかしら似た雰囲気がある。また足立市場は青果が分離して活気が落ちたと言われているが、こちらはまだまだ市場内に喧噪感があって賑やかだ。
 仲卸の作りは最近のものと違い、あまりはっきりした仕切がない。だから床に台を置いて、平面を作り、そこに荷が並んでいる。その平面的な一面が一店舗ということになる。

 とにかく手前から見て歩く、ウニ、むきえび、パック詰めのアサリに鮮魚も豊富である。後々わかることなのだが、場内の仲卸はみな店舗が大きく、取り扱う水産物の種類も多い。
 ヤリイカに九州のチダイ、首折れサバ、養殖マサバ。また鹿児島県産のクロホシフエダイがあるのが面白い。この一店舗目の水産会社は新潟県佐渡島に本拠地があるのだという。
 見て回るどの店舗も規模が大きく、置いてあるものは多岐に渡る。鮮魚、塩干、惣菜、冷凍物、練り製品などが雑然と(そう思える)並んでいる。すなわち一店舗でほとんどのものが揃うのだ。

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 きんき(キチジ)、ニシン、マコガレイに青森産のなめたがれい(ババガレイ)、北海道からの八角(トクビレ)。無造作に床に置かれた魚を見て歩く。

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 安達さんに案内されているとはいえ、店と店の区分がわかるようでわからない。
 細い通路を通り抜けると、いきなり目に飛び込んできたのが大きなアカムツで1キロ近くある。値段がキロ当たり13000円というのが凄い。「このアカムツすごいね」というと千葉県内房にある竹岡であがったものだという。

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 航空便のマダイ、東京湾産でも最上級のスズキ、値段もさることながら、こんな店があるというのは柏のすごいところだろう。

 千葉県は水産県でもあり、アサリ、ノリ。東京湾のスズキにメダイにマダイ、外房の「いなだ(ブリの若魚)」、イセエビにアワビ類と豊富である。年間を通すと地物とも言えそうな魚が見られるはずだ。
 また各店舗に置いてあるシジミのほとんどは茨城県涸沼産である。そこに青森県産があって、西日本の島根県産などは見られない。

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 場内を歩いていると、店頭にずらりとマガキ、イワガキが並んでいてなかに島根県隠岐のものがある。これが『柏渡力』という店。
 ボクのバッグに「ぼうずコンニャク」というのを見つけたのか、よく見てますよと声をかけてくれる。
 この店の実力など築地場内にあっても引けを取らないものと見受けられた。

 見て回ること、1時間半ほど。魚の少ない時期なのに、思った以上に荷がある。また高いもの、安いものと多彩なのもいい。
 不思議なのは鮮魚店の数に比べてマグロ屋のが少ないことだ。置いてあるマグロは本マグロを始めて、なかなか素晴らしいのだけど、この市場で目立つのは鮮魚である。
 塩干・惣菜の店を見ているとさすがに千葉県産のものが多い。ここでの主流は銚子産の干物類だ。そこに先ほど旅した島根の海産物を探すがなかなか見つからない。唯一見つけたのが浜田市の「山がれい(ヒレグロ)」の干物である。

 市場から出ると遙か向こうに高層マンションが幾棟も建設中となっている。あれは明らかにつくばエキスプレス柏の葉キャンパスあたり。この『柏市公設総合地方卸売市場』にもっとも近い駅である。
 今、見てきたあまりに有機的な市場の情景と対照的ではないか、考えてみると現代人はあのように無機的なものしか作り出せないようになってしまっている。その無機質な人間が、無機質な言語である「食育」なんて言葉を作るのだ。まったく愚か者め! せめて時代の子供達を無機質な生き物に変えないためにも市場の役割は大きい。柏市の市民よ市場をもっと大切にしろ!

 さて『柏市公設総合地方卸売市場』水産棟の実力は思った以上に高い。例えば、電車を使えば築地まで1時間足らずでたどり着けるだろうけど、そんな必要性は、この品揃えを見るとないように思える。近年地方市場が抱える問題点は丹念に市場まできて品揃えする魚屋、地元のスーパーなどの凋落に起因する。それに加えるとしたら、市場で「自分の目で見て魚を仕入れていく」優秀な板前が少なくなっている。
 市場というものが、いかに食に置いて重要な役割を担っているか、食材を知れば知るほど痛感する。食に関わる人々は、市場をもっともっと活用せねばならない。

柏市公設総合地方卸売市場
http://www.city.kashiwa.lg.jp/cityhall/sosiki/B_KEIZ/KEIZ_KOU/kashiwa_ichiba/Index.htm


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 海老名の海老さんから、たっぷりと山椒(さんしょう)の葉をいただいた。
 自宅の庭に山椒の木があるなんてうらやましい。
 いただいた山椒の葉をむしり取り、まな板に置くと、小山のようになった。

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 これを八王子総合卸売センター『総市』のさぶちゃんから買い求めたカツオの中落ちとたく(ボクの言語は関西系なので、煮ると炊くは分けない)。

 その昔、市場の仲卸というのは、それこそ買い求めていく人が、箱単位だったり、最低でもカツオなら1本だった。それが最近では、「おろしてくれ」とか「半分ほしい」とか、どんどん専門家(魚屋、料理店)といっても少ない単位で買うようになってしまっている。
 そんなこんなで仲卸で板前をやっている、さぶちゃんの目の前には中落ちが山になってたまっていくことになる。
 その小山を「いくらだい」と聞くと、「100円でいいよ」。
 市場の楽しみはこんなところにある。

 中落ちは、まず湯通し、冷水にとり汚れを落とす。
 水からあげた中落ちの水分をよーく、よーく拭き取る。
 深めのテフロンフライパンにたっぷりの味醂(みりん)と水を入れて煮立たせる。ここに醤油(しょうゆ)を入れて味加減を整える。
 煮汁が何度か煮たってきたら、中落ちを入れる。煮汁がよく馴染んできたら、大量の山椒を加えて、アルミホイルの落としぶたをして、後は一気に煮上げていく。
 この料理の肝心なところは、「勢い」だと思った方がいい。煮汁は常に中落ちを覆うように火加減を強くする。
 最後に煮汁の粘度が上がったら落としぶたをとり、煮汁をからめるようにして出来上がる。
 煮汁の残り具合も微妙なもので、完全になくなるとダメ。我が家では、鍋のまましばらく置き、またなんどもなんども煮汁をからめて鉢に盛る。

 料理店ではないので、天盛りは気恥ずかしい気がするが、青い山椒をこんもりと。
 カツオの山椒だきは「季節を食べる」如く感じるものだ。

 海老名の海老さん、香り高い山椒をありがとう。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
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 マテガイという二枚貝は、とても味がいい。別に珍しいものではないのに、意外に流通にのることがない。だから希に見つけると必ず買い求めることにしている。

 北海道南部から南、ほとんど日本各地の干潟に棲息。細くて一見平たい棒杭のような形で、泥に縦にもぐり込んでいる。
 東京湾にもまだまだたくさん棲息するありふれたものなのに、どうして市場にあまりやってこないのかというと、ときどき泥臭いのがいるのと、輸送に弱いせいだと思われる。

 八王子魚市場特種で海水入りの箱の中で元気に水管を伸ばしているのを、見つけてひとつかみ買ってくる。
 大分県の北部周防灘に面した宇佐市からきたもの。このあたりには干潟が多く、ほとんど国内では消滅したハマグリの希な産地でもある(大分県のハマグリの種に関してはいろんな説がある)。
 会計をしていると、寿司屋の富さん(八王子上壱分町『寿司 富』)から声がかかる。
「これ、どうやって食べるんだい。バター焼きにしたらまずくてダメだったよ」

 このマテガイをどう料理するかというと、水洗いして、丸のまま強火で焼く。終始強火で短時間に焼くのがコツで、まさに単純極まりない、料理とも言えないような料理法が、マテガイのいちばんうまい食べ方なのだ。けっしてバター焼きなどにしてはいけない。
 焼き上がったら、生醤油かだし醤油を回しかけて、あとは食べるだけ。
 ほんの少しだけ、泥臭く、また貝の持ち味である海の香り、甘味があっておつな味。これはもうおかずではなく、酒のアテとしかいいようのない一品である。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マテガイへ
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 冬眠から覚めた海老名の海老さんから新鮮なフキを頂いた。
 まだ「出始めであまり大きくないし、少ないんだけど」と軽く一束もらったのが、なんとも春を盛りと感じさせてくれて喜ばしいものだな。
 フキの入ったビニール袋を手に通り抜ける雑木林は、芽吹いた葉がかなり大きくなって、まさに「山笑う」の候となっている。

 フキの茎は北海道産アサリと一緒に混ぜご飯の素をつくる。
 アサリは蒸し上げて、殻から外す。

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 フキは塩刷りしてゆでて、皮を剥く。
 フキの葉はゆでて刻んで、水にさらす。
 フキの葉の濃い緑が、我が家でいちばん大きなボウルに広がってきれいだ。
 姫が「なんだこれは」と脇からつまんで、おもむろに口に入れて「父ちゃん苦い」と顔をしかめている。
 フキに加えるのは冷蔵庫にあったニンジンとシイタケだけ。
 フキもニンジンもシイタケも刻む。

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 アサリを蒸したときの汁は使わない。後々のみそ汁などに使うとして保存。

 テフロンフライパンにほんの少しの太白胡麻油を入れて、野菜を炒め、酒、味醂、少量の水を入れる。
 野菜が酒、味醂、胡麻油でしっとりしてきたら、アサリを投入。
 具材に甘味がつき、馴染んできたら島根県益田市桐田醤油店の甘い濃い口醤油を加える。
 混ぜご飯の味付けは出来る限り単純にするのがコツ。
 こんなものにかつお節だし、アサリの煮汁を使う人がいるが、明らかにやりすぎだ。
 うまければうまいほど、食べて重く感じるのだ。
 フキの香りが生きてこない。
 混ぜご飯の素は手早く、単純に作るべし。

 混ぜご飯の素を作っている間に、フキの葉のゆでて刻んだものが入っているボウルの水をなんども替えアクを抜く。
 なんども替えて、まだ苦いなと感じるほどの状態で水を硬く堅く絞っておく。
 これを太白胡麻油を薄く敷いた行平に入れて、手早く煎りつける。
 胡麻油が馴染んできたら、まずは島根県松江市米田酒造七寶本味醂で甘味をつけ、そこに東京都あきる野市五日市のキッコーゴ丸大豆醤油をからめて手早く水分を飛ばす。
 これで「蕗葉の佃煮」が出来上がる。

 やや少な目に水加減したご飯が炊きあがったら、手早く具を混ぜ合わせる。
 ある程度混ざったら、軽く湯がいた芹を加えて出来上がりだ。
 混ぜ合わせたら、大急ぎで食べよう。

 ほんの少しのフキの香りが、ご飯の中で浮き上がってくるのがいいね。
 フキの風味、渋みはほんまに春そのものじゃあーりませんかね。
 アサリの旨味も存分に感じるし、身に甘味があるのがいい。
 さて、混ぜ合わせて、つぎ分けたら、4合炊いたご飯なんて、ほんの10分ほどで消えてなくなる。
 春を感じる混ぜご飯も、もっとゆっくり食べられるといいんだけどな。
 
 軽くお腹を満たした後の、これも島根県松江市米田酒造の『辛口純米 金吾郎』がよろしいな。

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 アテは当然、「蕗葉の佃煮」となる。蕗の葉をたくと、ひょっとしたら茎の何十倍もうまいのではないか、と思ったりする。

 海老名の海老さん、おいしいフキをありがとう!

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 北海道は根室からオオミゾガイが来た。築地場内にもまとまって来ていたので、根室周辺でホタテガイ漁もしくは「ほっき漁(ウバガイ)」が行われているんだろう。

 この北の代表的な二枚貝の副産物であるオオミゾガイがどうしてこんなに安いのか? 例えばキロ当たり1000円、ときに800円なんてときもある。これではアサリよりも安いではないか? 刺身でよし、焼いてうまし、なのに残念でならない。

 だいたいこの二枚貝は大きくて、しかも歩留まりがいい。当たり前だけど足(舌)に加うるに水管も食べ応えがある。まるでミルクイとウバガイ(ほっきがい)を足して、そのまま二で割らないような貝ではないか、素晴らしい。

 しかも食べてグリシンが多いのか甘味があって、旨味とか貝の風味も堪能できる。ボクは今、オオミゾガイを愛してるんだな、と実感する。

 さて、外見からして地味でうまそうにも感じないオオミゾガイ。もっと知って欲しいものだし、知られたくない。
 これで宮崎県日南市の八重桜そば焼酎を飲(や)りながら複雑な思いにかられるのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オオミゾガイへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 最近築地場内で買い求めるマグロといったら、常にパック入りで500円、1000円が勝負のしどころだと思っている。マグロは買い始めたら切りがない、まず間違いなくうまいマグロを買おうとしたら1万円でも心許ない。毎日毎日通って時には4,5万使う覚悟が必要となる。
 だから子だくさんのボクは諦めた。諦めて最高額1000円までのパックで勝負する。今回の築地行はあくまでも仕事なので、買い物は二の次。ただし帰宅は早いと思われるので夕食のおかず、もしくは肴としてマグロパックを物色する。

 築地場内をくまなく歩く内に、なかなかいいものに出くわさない。「いいな」と思ったら2000円だったり、柵になって5000円だったり、当たり前だ。マグロの良し悪しは額面通りなんだ、と諦め欠けたときに、『伏徳』の店内から「マグロのここ(額をさして)買わないかい」と声がかかる。
 ものは本鮪(クロマグロ)とのことだが、当然冷凍だろう。それでも下手な、ばち(メバチマグロ)を買い込むよりもいいに違いない。「1000円でどうだい」というのを喜んで買い求めてくる。

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 これがアタリだった。八の身は脂が強く、室温で溶け出すほどである。食感は大トロに近い。ただしやはり大トロには筋っぽいこと、旨味に欠けることで及びも着かない。
 それでも一般家庭である我が家では存分にマグロの旨さを堪能できた。まことにうまい。トロっと口の中で溶けるのだが、適度な甘味とミオグロビンからくる酸味がいい感じだ。

 これなら1000円はお安い。よって今回の勝負は我が手にありなのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、クロマグロへ
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築地でのお買い物に関する相談などはこちらへ
http://csi.or.tv/tsukiji/kb/rb.cgi


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 関東周辺の市場はくまなく見て回りたいと思っている。千葉県の場合、千葉市、船橋市ときて今回は柏に行ってきた。

 我が家から柏市までは、中央線、総武線を乗り継いで秋葉原、秋葉原からは、つくばエキスプレスに乗り替えて柏の葉キャンパスで下車する。ここから歩いても10分ほどで市場到着となる。東京都の西部の我が家からだいたい1時間半でたどり着けるというのは、高速を誇るつくばエキスプレスのなせる技だろう。この新しい鉄道は清潔で快適、また北千住あたりまでは地下鉄であるが地上に出てからの景色もきれいだ。

 柏市は千葉県でも北西部にあって、人口40万人ほどの大都市である。さきほど訪れた島根県の県庁所在地松江市が20万人、我が故郷徳島県の県庁所在地徳島市の人口が26万人であるから、いかに柏市が大きいかがわかるだろう。ちなみに隣接する我孫子市、流山市と合わせると、なんと島根県の人口よりも多い。しかも、つくばエキスプレスによって柏市の北部には高層住宅が林立しつつある。これからますます人口は増えていくのではないだろうか?

 これだけの巨大な人口を抱えるのだから柏の市場はさぞや大きいのだろうと思ったら、あにはからんやこぢんまりと小さい。青果、花き、水産と合わせても8万平方メートルほどに納まる。これはちょっと大きなグランドくらいではないだろうか?
 3つの市場の中では青果が大きく、水産物、花きと続く。市場で頂いてきた資料を見ると、年々取扱量が減少しているのが残念でならない。これは流通(食品を中心に)が市場から離れていっている証拠。市場と離れるということは食べ物が文化的なものから、単に商材として無機質なものに変ぼうしているということだ。
 だいたい近年、個人営業の飲食店ですら市場に行かないなんて、ことがあるらしい。ただでさえ、チェーン店に駆逐されているのに、その大型飲食業界と同じことをしているというのも、本当に愚かしい。これから個人営業の飲食店や食料品店、魚屋が生き残るには市場が重要なポイントになるに違いない。

 さて、今回の柏市場見学は市場の管理を行っている柏市役所の安達さんに案内して頂いた。同行するのは仲良しのマジマジ君である。この方、地方の役人さんにしては勉強熱心だし、なによりも素直なところがいい。あまりにも熱心なのでぼうずコンニャクが弟子いりを許すことにあいなった。
 さて、真面目なマジマジ君との柏市場巡りの始まりなのだ。

柏市公設総合地方卸売市場
http://www.city.kashiwa.lg.jp/cityhall/sosiki/B_KEIZ/KEIZ_KOU/kashiwa_ichiba/Index.htm


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 春は海藻がもっとも多種類出回る時期。例えば暮れになるとアマノリの仲間が「岩のり」としてとれはじめ、ハバノリもつまれる。年が明けるとヒジキ、ワカメ、アラメ、トサカノリなど数え切れないほどの種類にのぼる。

 ここで古典を紐解くと必ず出てくるのがホンダワラとミル。ミルを今でも食べるという地域はまだ行き着いていないのだが、その昔の「なのりそ」と呼ばれたホンダワラを食べている地域にやっとたどりつけた。
 場所は島根県隠岐郡知夫里島知夫村である。隠岐四島のなかでもっとも小さな島、知夫里島に「野大根の会」という主婦の集まりがあって、その方達に分けて頂いたのが「神馬草(神葉草)」。これが一抱えもあるような角材状で丸々一キロある。

 地元では水でもどしてみそ汁に、さっと湯がいて酢の物、みそ漬けなどにしている。
 我が家に帰り着いて、ホンダワラ料理にあれこれ、挑戦してみた。
 まずは毎日食べているみそ汁に入れてみる。水でもどす時間は思ったよりも短時間でよく10分ほどもつけておくと後は出しの中に入れるだけ。
 ホンダワラの特徴は香りよりも、シャキっとした歯触りと、食べたときの甘味・旨味。ワカメほどに旨味はないものの、この歯触りのよさに驚く。
 酢の物にするときは水でもどして熱湯でかるくゆでる。これは明らかにワカメよりもうまい。なんといっても合わせ酢のなかでシャキシャキした感触がなんともいえない。ときどきプチっと気泡に行き当たるのもいい。

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 我が家ならではの料理をやってみたくなって、毎日食べても飽きの来ない湯豆腐の副材料に使ってみた。昆布だしに酒塩というのが我が家の湯豆腐の基本だが、ここでホンダワラをゆらゆらさせて、ぽん酢でいただく。これはまさに絶品だ。シャキっとした歯触りが、豆腐を主役から引きずりおろしてしまった。
 天ぷらにする。最近では青海苔(ヒトエグサ、スジアオノリ)などの天ぷらが人気となっているが、香りこそ及ばないものの、味わいはホンダワラの方が上ではないかと思われる。

 さて、ホンダワラは日常的にあってとても重宝極まりないものである。最近ではダイエットとか、美容とか、はたまた健康なんてマスコミではかまびすしい。でもそのどこにも海藻が登場してこないのはなぜなんだろう。たぶん人口的に作り出した商品ほどに「儲からない」ためではないか? この人口的な商品、はたまた薬などの何十倍も健康にも美容にもいい海藻をもっと見直した方がいい。
 例えば、栄養をサプリメントで補うなんて愚かしいとしかいいようがない。むしろ食べて、味わって、楽しめる海藻でミネラル、鉄分などを補給するべきだし、消化できない食物繊維を大量に含む海藻は自然界にある優秀なダイエット食品なのだ。
 最後に、最近疑問に思うのはこれだけ海藻を食べているボクの体重が一向に減らないことだ。

問い合わせ
知夫村野大根の会 電話08514-8-2437
JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/
島根県庁
http://www.pref.shimane.lg.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ホンダワラへ
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 金曜日、築地場内を歩いていたら、いつも立ち寄るイリヤマ斎藤に見たことのないオニカサゴがいるのだ。
 九州産だというそのオニカサゴの大きさがまず大問題。重さにして1キロ以上、体長が35センチもある。こんなオニカサゴは見たことがない。
 値段はと聞くと、「大きいからね、2000円(キロ当たり)はするね」。ここで考えに考えて買い求める。これくらいのオキカサゴならまずいわけがない、帰宅して検索しないと種は判明しないのだからと、「えいや!」と2415円を支払う。
 我が家は子だくさんで貧乏なので、これは痛い出費だ。

 そして持ち帰って、なんど検索図鑑を見ても検索できない。「おいおいどうすればいいんだ」とオニカサゴでも南方系のウルマカサゴを見た経験のある若潮さんにケータイをいれる。
 それでカサゴの専門家、木村浩之先生に問い合わせたら、「その魚寄贈してください」との返事。

 夕食の品数が半分になり、姫は今日は魚が少ないね、と喜んだ。

 これは災難だろうか? それともついているのか?
 とにかく、この魚の正体、なんだろうね?


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 春になると来る日も来る日も貝ばかり食べていたくなる。なかでもその適度な渋みと独特の風味で春らしい気分に浸れるのがバカガイである。
 バカガイとはこれまた直截的な名前だが、この語源は「その昔、東京湾でバカみたいにとれたから」らしい。よく本などに足(舌とも)がだらしなく貝殻から出ているからだという説が出ているが、さすがにこれは間違いだろう。
 この前海である江戸湾(現東京湾)でバカみたいにとれたものだから、庶民はさかんにバカガイを食べた。さすがにすぐ先浜でとれるものだけでは足りなくなって上総からも持ってくるようになり、その中継点が現在の千葉県市原市青柳だったため江戸市中では「青柳(あおやぎ)」と呼ばれるようになった。やはりバカガイよりも「青柳」の方がうまそうで、しかも今まさに柳の新芽が芽吹き始めている。

 今回のものは北海道産の活けバカガイ。貝で「活け」というのは殻付きのまま入荷したもの。
 その昔、大きくなること、貝殻の表面の文様がはっきり出ることから「エゾバカガイ」と別種扱いされていたこともある。
 5つ、6つ、買い求めてきて、剥き。貝柱をとり、足の部分を半割にして、ほんの1、2秒湯通し。

 これがボクの晩酌のアテになる。
 窓を全開にして、ときおり吹き込む風を感じながら冷えた日本酒を飲むというのは幸せなもので、そこに一皿の青柳があるのはより幸福感を高める。
 バカガイを刺身にするのは、いたって短時間で簡単にできる。しかも貝の中でも、もっとも安いのがバカガイだとくると、一般家庭でもっとありきたりによく食べられてもいいと思う。

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 なぜ4月にマイワシのフライかというに、魚の状態が不安定で少ないからと答えるしかない。当然、マイワシの脂の乗り、身の状態もいろいろで難しい。そのせいだろう、この季節に刺身を作る気になれない。

 それでおかずにするため、安いものを見つけたら、市場で手開きにしてくる。
 作るものは天ぷら、フライに蒲焼き。ムニエルなんかにもするんだけど、あまり凝った料理は合わないようだ。
 不思議なのは、あまり脂ののっていないマイワシでもフライにすると、ややふわっとして柔らかく、ジューシーになり、表面の香ばしさと相まって見事な一品になる。

 こんな料理を作るときは慌ただしい日に決まっているので、つけ合わせなんてどうでもいい。子供にレタスをちぎらせて、最近気に入っているキューピーのタルタルソースをそえるだけ。

 さて、ボクは普段ビールをあまり飲まない。それでも子供達の大好きなイワシのフライを作るときにはお父さんもビールとなる。ここでの注意点はやや多めに作ること。我が家は子だくさんなので2キロほどもマイワシを買い込んできてフライにする。

 イワシのフライを作ったぞ、山も笑い、お父さんはビールがうまい。

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 ヒガンフグ(関東では「あかめふぐ」)が各地でとれ盛っている。関東には茨城や千葉から、関西でも鳥取でも島根でもとれてとれて困っているのではないか。
 この和名の由来はそのものは、ずばり「彼岸頃にさかんのとれるため」なのだけど彼岸をとうに過ぎた4月になってもたっぷりあがる。
 ぱんぱんにふくれたお腹には白子もしくは真子が詰まっているけど、これは捨てなければならない。ヒガンフグはもっとも毒性の高いもので、真子、皮などを食べるとすぐに彼岸へ旅立つことになる。
 素人はフグ調理師、プロにお願いして、食べた方が無難なようだ。
 ボクは八王子総合卸売センター『高野水産』のフグ調理師の前で卸して、最終的にはいろいろ毒の除去なんか手助けしてもらった。ここまですれば間違いなく安全である。

 これを持ち帰って、リードペーパータオルに包み込み、一日寝かせる。
 これを焼き切りにしてぽん酢で楽しむ。

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あまりに定番的な食べ方ではあるが、やはりうまいな

 残りは島根県の郷土料理「煮食い」にする。

 焼き切りぽん酢は、まずいはずがない。ぱんぱんに真子を持っていたのに、身にも旨味が残っているし、甘味がある。また直火であぶった身のしっかりと堅いのに驚く。これはまさに絶品だね。

 その焼き切りに加えるのが、「煮食い」というもの。島根県出雲地方で「へか焼き」、岩見地方で「煮食い」、益田などでは「いり焼き」という。すなわち醤油(しょうゆ)味の鍋である。
 これをヒガンフグで作ったら圧倒的なうまさだった。
 あまりの美味におののくとはこんな状況を物語っているようにも思える。

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 ブルっと骨から抵抗しながら外れていく身。この身を噛みしめたときの充実した旨味。なんだこれは……、期待以上ではないか。

 長い間だ魚を飽食してきたのに気が付かなかった。
「ヒガンフグは彼岸過ぎまで食うのだ」

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 知人に八王子の魚屋がいて「『どっちの料理ショー』ってやってるだろ、あれがいちばん嫌い。金いっぱい使って材料集めてさ、つくりゃうまいに決まってるだろ」。数年前の会話だけど、今でもおぼえていて耳から離れない。究極の素材を求めて東奔西走。いったい幾ら使ったのだろうね。
 ボクはと言えば、いい素材でうまい料理を作るというだけのコンセプトは大好き。その最高の素材で最高の干物を作ったというのが「白いか 活〆一夜干し」というやつ。
 隠岐諸島は暖流と寒流がせめぎ合うところで、日本海一の好漁場。そこでとれる白いか(ケンサキイカ)は味のよさでは最高級のもの。

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 塩味は抑えめで、白いか(ケンサキイカ)本来の味が強く生きている。干し加減がほどほどなので生イカを焼いたときのような新鮮な歯触りも楽しめる。
「贅沢で幸せな味」
 この一夜干しは、そんな逸品である。

島根県隠岐郡西ノ島町浦郷1451-17 JF浦郷支所
『日本海隠岐活魚倶楽部』
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本日はわけあって
千葉県柏市『柏市公設総合卸売市場』に行ってきます。
どんな市場なのか楽しみです。


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「ホウボウの味が落ちないね」
 寿司職人の渡辺隆之さんが、大振りのを2匹、3匹仕入れていく。よく見ると思ったよりも安いし、鮮度もいいではないか。
 旅から帰って疲れ果てているときに、食べたくなったのが魚の煮つけであり、「なにを煮つけようか」迷っていたところなのだ。
 最近、魚が少なくて、迷う以前にものがない。それでマグロ屋で八の身でも買ってこようかと思っていたところだ。
 ホウボウを買い込んで、八百屋で若ゴボウ(秋まき)に浅葱(あさつき)を見つけて、これまた買ってくる。

 ホウボウは食べやすく三枚に卸し(子供のためである)中骨を外し、頭を梨割り、これを湯通し。
 鮮度のよさから、予め味醂(みりん)、醤油(しょうゆ)、水の煮汁を煮立ててから放り込む。煮汁が魚を覆い尽くすように回ってきたら、下ゆでした若ゴボウを加える。
 そして最後に浅葱を加えて出来上がりとなる。

 島根県松江市『米田酒造』の味醂「七寶」がなかなかいい。疲れたときに煮つけが食べたくなるのは、この甘味が欲しいからかもしれない。
 ホウボウ自体にも脂があって、甘味を感じるが、これにまた本味醂がより上質の甘さをつけ加える。

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米田酒造
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 岩手県大船渡市赤崎産養殖イワガキ、島根県隠岐郡西ノ島波止で養殖されたものを兵庫県相生市にある『あけぼの海産』が出荷したもの、同隠岐郡中ノ島海士で養殖してCAS冷凍して送られてきたものの3種を食べ比べる。
 最近、隠岐で養殖したイワガキの味は太平洋側、能登半島などのものとは全然別物ではないか、と思うようになっている。それを確かめる意味合いでも同時に3種を食べ比べてみる価値はありそうだ。

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右から、海士町養殖ものをCAS冷凍したもの、真ん中、西ノ島波止養殖、左端、大船渡産養殖イワガキ。
値段はCASが小売値で一番高く、他は同じくらい。小売値と仲卸値段なので比べられない

 まずは大船渡のイワガキである。岩手県でのイワガキ養殖は10年ほどの歴史を持つ。2008年の春に市場でよく目にするようになって、何度か購入した。
 味わいはやや濃厚で渋みがある。身の弾力はやや弱く、強い旨味が口を満たす。これが関東でのイワガキの基本的な嗜好に一致するもので、仲卸では「銚子(関東での高級品)の方が濃厚だが、いい味だ」という評価がされている。

 隠岐西ノ島はイワガキ養殖発祥の地。波止のものはまさに隠岐のイワガキそのもの。太平洋側のものが濃厚な生クリームのように感じるのに対して、新鮮な果実を味わうような感触をおぼえる。渋みも薄く、後味がいい。また身に弾力があって、これも心地よい。旨味自体は大船渡よりも低い。

 海士のCASは隠岐でとれたもので、当然、生きているものを急速に冷凍したもの。これがやや濃厚な味わいで、渋みもほどよい。旨味は大船渡と西ノ島波止との中間的なものに思える。知らないまま食べさせると冷凍物だとは気がつかないだろう。このCASの持つ意味合いは離島と言うだけでなく、味わいからも注目するひつようがありそうだ。年間を通してうまいイワガキが食べられるというのも「好きな人には」たまらないかも。

 太平洋側と比べると隠岐のイワガキ養殖での出荷までの年数は長くかかるという。これは隠岐海域が清浄であるためである。この少ない栄養分の海、また離島ならではの荒天にもまれて長く育てるために味わいはあっさりして、シコっとした弾力を持つのだろう。この対決は、好みの問題となるだろうけど、飲食業者とも話してみて一致したのは大船渡のは一個食べるだけで満足するが、隠岐のものはもの足りず、もう一個となるということ。またCASのイワガキは数が少なかったので、ボクと寿司職人のたかさんの評価である。

島根県隠岐郡海士町『ふるさと海士』島風便
http://www.ama-cas.com/index.html
あけぼの海産
http://www.akebonokaisan.jp/syohin/index.html


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 見た目はいかにも平凡で、中身は見当がつかないが、値段はそこそこするし、どうにも気になるものが、島根県隠岐西ノ島の船着き場に置いてあった。これを作ったのが前日(隠岐の旅の最初)にあった知夫里のお母さん達だというので買い込んだ。

 話は横道に逸れるが知夫里島知夫のお母さんは、その昔(今も)とても美しかったのだという。島を訪れて、女性の美しさに驚かない旅人は一人もいなかったということだから、知夫里は美人の産地でもある。この「美しい」は島でとれる海藻や魚、貝で作られていることは間違いないようだ。

 買い込んだのはたった一袋で、そのまま島後(島根県隠岐郡隠岐の島町)を目差す。その連絡船で一緒だったトーボさんがぽつりと、
「これ、作っているところに立ち会ったんですけど、ものすごくたくさんサザエが入っているんです」
 おいおい、どうしてそれを早く言わないの。トーボさんのいちばん悪い面が「大切なことは後で言う」なのだ。遠ざかる西ノ島を見ながらたっぷり後悔する。もっと買っておけばよかった。

 そしてじっさいにご飯を炊いて「まぜっこ」したら、もっともっと後悔してしまった。取り返しがつきません。

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 なにしろ炊きあがる、そして「まぜっこ」する。太郎が味見する。そして勝手に茶碗にてんこ盛りにして食べだしたら、ボクにはあまり残らない。そのほんの少しの「まぜっこ」ご飯がうますぎる。

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 1袋で3合のご飯というけど、混ぜ込んでもあまり色がつかない。「あれ」、ご飯は2合でよかったんもだろうか? と思ったけど、サザエや野菜の味つけが濃いので混ぜご飯の味としてはちょうどいい。たぶん2合にしたら具とご飯の割合はいいはずだけど、やや濃厚な混ぜご飯になるかも。結局、これは好みだろう。
 なんといっても醤油で煮あげたサザエがうまい。当然、煮汁にもサザエの旨味が入っていて、たまらぬうまさである。これでお代わりがないなんて、本当に不幸だ!

問い合わせ
知夫村野大根の会 電話08514-8-2437
JFしまね
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島根県庁
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島根県水産課
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●ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サザエへ
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明日は松江魚市場、それからよしなしごとをこなして、
昼過ぎには大田。大田で「煮食い」をご馳走になり、大田泊。
翌日は境港。夜は宴会。
明後日は松江市内、松江に夕方までいて、
それから大阪に回り、大阪泊。
翌土曜日はまささんと大阪の市場、商店街に遊び帰ってきます。
私を見かけた方は声をかけてください。
また大阪の市場巡りは参加者募集中。


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 ボクの知る限り、アメフラシを食べるのは千葉県大原と島根県隠岐郡隠岐の島町くらいだろう。その隠岐島後(どうご)隠岐の島町津戸というところでアメフラシを食った。それこそたんとたんと、丼いっぱいくらい食べたのだから、ぼうずコンニャクとしてはアメフラシの味わいに関して語る権利を得たというべきだ。

 その前に、アメフラシとは何か? というと軟体類だからタコとか貝の仲間で、手短に言ってしまえばウミウシの親分のような生き物。磯で遊んでいると、それこそ両手一杯くらいの大きさの黒いヤツが、動いているのか止まっているのか、わからないくらいに水中をたゆたっている。春にはいつも大小2匹でなかよくランデブー(これは古くはデートという意味)している。オスとメスというか夫婦仲良くうらやましい。面白いのは木の枝なんかでチョチョイとつつくと紫色の液体を吐き出す。これがフワリと水面近くで雲のように見えるから、「雨降」と呼ばれている。
 アメフラシのことを隠岐の島町では「べこ」という。「べこ」とは広辞苑でひくと東北地方での牛のことで、「形が牛のようである」ための呼び名かもしれない。

 今回の「べこ料理」を作ってくれたのは、隠岐の島町津戸の浜田厚子さん。漁師を生業にする浜田家でのアメフラシの料理法をお教え願う。
 アメフラシの旬は春らしい。旬の意味には「うまい時期」というのと「たくさんとれる時期」というのがあって、どうやら後者の意味だと考える。
 磯に出て、のんびり波に揺れているアメフラシを拾い、持って帰ったら内臓を取り去る。
 これをゆでる。ゆでるとかなり縮み、煮汁が黒く濁るという。この煮汁のまま一昼夜鍋止め。
 翌日、「べこ」の表面についている黒いものをたわしなどで落とす。きれいになったら適当な大きさに刻んで、甘酢味噌で和えたり、甘辛く煮たりする。

 当日食べたのは酢みそ和えと、煮つけ。アメフラシの身はビローンとブヨブヨして、なかなか噛み切れない。噛んでいると、微かに苦みがあって、これがアメフラシの味だというほどの個性は感じられない。
 この弾力を楽しむのだなとは思うが、酢みそ和えではやや直接的だ。少し食べる分には面白いけど、アメフラシをじっくり味わっているのか、ブヨブヨした歯触りを楽しんでいるのかわからなくなる。

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酢みそ和え。

 対するに、煮物はいい味わいなのだ。ゆでて、油で炒めて、そしてまた醤油砂糖などで煮たせいで噛み切り易くなっている。だから弾力よりも味が楽しめる。また油を使ったためか、酢みそで感じられた苦みがほとんどない。

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煮物。酢みそ和えよりもうまかった。

 酢みそ和え、煮物ともに味付けが絶妙で浜田厚子さんの料理の実力のほどがうかがえた。きっと浜田家のご飯はうまかろうね。「べこ料理」を食べながら、「隠岐のうまいものは外食にはなく、家庭にあり」というのを思い知る。素晴らしい食材に恵まれた土地を旅するたびに思うことだが、いちばんうまいものは地元の方のみのもの。旅人は絶対に食べられない。浜田厚子さんの手料理が食べたいな。

 閑話休題。
 アメフラシを食べるというと、下手物のたぐいだろう、と思っていた。それがどうだろう、食卓にのると、いたって平凡な酢みそ和えであって、煮物である。酢みそ和えはまさしく酒のアテだけど、煮物などご飯にも合いそう。これは自分でも料理してみなくてはならない。

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 アカガイが高い。当たり前だ、いつでも高い。殻付きでキロ当たり2000円を割ることはおろか、3000円以上もする。キロ当たり3000円はそんなに高級かね? と思うだろうけど、貝殻とワタを抜くと、歩留まりは半分くらいだろうか、もっと少ないかもしれない。それでキロ3000円だから手が出ないのだ。
 関東では宮城産なんていうが、関西では瀬戸内海とか大分県産が高級品であり、ちょうど香川県産を見つけたのだけど、値段を聞くのが恐い。それで輸入ものにしようと韓国産の値段を聞いても、「高いよ」なんて返事が返ってくる。

「アカガイを諦めて、ほっき(ウバガイ)にするかな」と思っていたら、八王子総合卸売センター『高野水産』の隅っこに小振りのアカガイがあるのだ、しかもキロ当たり1000円だ。よく見ると大小入り交じり、泥に汚れ、貝殻が割れてるのが目立つ。
 見た目とクリーム状の泥にまみれているので安いのだ。でもこのアカガイをよく見ると、その昔、マルアカガイという標準和名がついていた内湾性の貝殻の薄いタイプであり、味の良さでは定評のあったもの。産地がわからないのがちょっと残念だけど、箱の底の残ったものを袋に放り込む。
「これ全部買うけど、幾らにしてくれる」
 高野社長に太っ腹なところを見せると、
「まあ、仕方ないか、キロ800円だな」
 こんな一瞬が市場通いでの醍醐味である。

 帰り着いて、殻を剥き、泥を落とすと、きれいなアカガイの刺身が出来上がった。我が家用なので中皿にヒモも身の方も放り込んで、ベランダに持ち出して酒のアテとする。
 小振りの身の味わいは濃厚で、アカガイの持ち味である、ほどよい渋みが爽やかである。それに適度の甘味がいいね。

 我が家の外にある桜にほとんど花びらはなく、葉桜となってしまっている。ベランダで受ける風が温い(ぬるい)。

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 島根県水産試験場が作った『島根のさかな』(島根県水産試験場 山陰中央新報社)のアカムツの記事をここに転載する。
……一般に魚の選び方として、色・艶のいいものを選びます。しかしアカムツの場合、天然礁で漁獲されたものは鱗がしっかりついており、色・艶とも申し分ないのですが、脂の乗りは今ひとつといわれています。一方、底引き網によって泥場で漁獲されたものは鱗がはげ、白っぽくなっており、見た目にせんどが悪いのかなと思ってしまうのですが、実は皮下脂肪が多いために白っぽく見えるのであって、決して鮮度が悪いわけではありません。漁師さんに言わせると「のどくろは泥場のものに限る」と言われている。……

 浜田の底引きの水揚げでもっとも目についたのが、この白っぽくて鱗の剥げた「のどくろ(アカムツ)」だった。一見、網で痛んだ、鮮度の悪い魚としか思えないもの。でも手で触れたときの体表のぬめっと重い感触に「これは脂ではないか!」と驚いたのだ。後日、取り上げるけれど、横にあった見るも無惨な汚らしいタチウオにも同じ手触りを感じて、隣にいた地元のキタさんに値段を聞いてみた。
「そうだね。アカムツだったら4000円以上はするだろうね」
 4000円というのは水揚げ値段であって、流通の末端の値段ではない。この見た目の悪い「のどくろ」が高いにはワケがありそうだ。
 そのワケを仲卸市場で聞くと、やはり脂ののりの問題であるようだ。「あんまりきれいな、のどくろには脂がない」のだという。

 その見た目の悪いアカムツに惹かれて、買い求めたくなったのだが、悲しいことに旅の途中。残念無念、後ろ髪を引かれる思いで浜田を後にしたのだ。
 これを後日、キタさんが親切にも送ってくれた。開いた宅配便の中にあったのはまさしく白っぽい鱗の剥げた一見みすぼらしいアカムツであり、やや小振りながら無残な鈍色のタチウオだった。

 さて、このアカムツをどのように味わうべきか? まずは鍋にし、塩焼きにして、煮つけにした。明らかに上物と思える魚に、へたに凝った料理は似つかわしくない。

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 鍋物は三枚に卸した身に熱湯をかけて、残った鱗や、アクを除く。これを酒と水半々の鍋の中でぐらっと煮立てる。煮立ったら浅葱を散らして、ぽん酢、もしくは生醤油でくらう。
 びっくりしたのは口の中に入れたアカムツの身が、ふわっと消えてしまう。消えて、残るのは脂の持つ甘味であって、「ほんまに、魚を食ったのだろうか?」と不安を感じるほど。これをなんど繰り返しても、同じように口の中でとろけていく。天においた肝は、身の脂の強さからして、濃厚な味なんだろうと思ったら、意外にあっさりと上品である。「こまるなー、この美味」。どのように表現すればいいのか言い表せない。

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 このふわりと口の中でとろけるというのは煮つけにしたときにも感じられた。ただし醤油と味醂の作用で、やや身が引き締まって、しっかりとスズキ目の持つ繊維質の筋肉がほどけていく様を感じられる。
 ここで永遠のライバル、煮つけ魚の王様は「きんき(キチジ)かのどくろ(アカムツ)か?」を考えてみる。この問い掛けに誰も返答できるものではない、それほど東西両横綱の実力は拮抗している。

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 さて、我が家で、もっとも夢中になったもの。それは塩焼きだった。この旨さの前兆は焼いているときに感じられたもの。塩を振り、時間を置いて串打ちをしてコンロにかざす。終始強火で、焼き上げる。その表面に脂が大量に浮き上がってくる。そしてコンロに落ちて炎を上げる。その表面の脂にアカムツ自体が丸揚げされるように思える。そして焼き上がったものの香ばしさも唐揚げの持つそれであって、一般概念の塩焼きのそれではない。その旨さはというと、あまりに食卓にあった時間が短すぎて、困ってしまうのだけど、甘味が強く、旨さは濃厚でいながら、身の繊維質であるために、あっさりしている。でもこの美味であることはとても言葉では表し尽くせない。

 さて、浜田のアカムツを食べて思ったのだが、魚貝類はまことに奥が深い。これが最上であるという、その頂点がなかなか見いだせない。美味の上には、より美味がある。
 そして、世に美味を追い求める人たちよ、必ずや浜田の「のどくろ」を食べてみるべし。「のどくろを食べずして、魚を語るべからず」なのだ。

 最後に、この美味をお送り頂いた、キタさんに「ありがとうございます。一生感謝いたしまする」。

●浜田底引きのアカムツなどは浜田漁港競り場前の仲卸市場などで買い求めることができる。
JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/
島根県庁
http://www.pref.shimane.lg.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/
●ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アカムツへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/suzukika/akamutu.html


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http://www.zukan-bouz.com/

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 静岡県駿河湾の真ん中で年老いた漁師と、カツオ談義に花が咲いた。
 ボクが「やっぱり脂ののったくだりが好きですね」と言うと、
「そんなことねーな。オラは春から初夏かな。秋になっと刺身じゃくわねーよ。このへんじゃくだり(秋のカツオ)は角煮にするだら」
 どうして秋のカツオを刺身にしないのかというと、静岡県では腹側を皮付きで刺身にする。秋になると皮が硬くなって、皮引きしないと食べられないからだという。
「カツオは皮がうまいだら、もったいねーだよ」

 確かに春のカツオは皮がうまい。皮下の薄い脂を帯びた層は身自体よりもうまいと思うことが多いので、「くだり」よりも「のぼり」ガツオの方が刺身にするによしと、老漁師が力説するのもうなずける。

 さて、本日の皮付きのカツオは千葉県産だというが産地ははっきりしない。八王子総市(仲卸)のさぶちゃん(今年で70歳)が2,5キロの小振りのを4つ割にしていて、その腹皮を500円で買ってきた。
 当然皮付きのまま、柳包丁も出さずに、文化包丁で無造作・適当に切りつけた。薬味はショウガ、別の皿にエシャロット(ラッキョの若いもの)を添えて、若いカツオを食らう。

 やはり脂はほとんどない。むしろその分、カツオの酸味がかった旨味が浮き上がる。皮はほどよく柔らかく、噛みしめると微かに脂が甘味のとって感じ取れる。これこそ爽やかな春を感じる味覚である。脇に添えたまだまだ値の張るエシャロットもぴりっと辛くていいものだ。

 外は満開の桜が、花びらをそこら中に撒き散らしていて、睡眠不足のためかやたらに酒の回りが早い。
 今年は、毎週カツオを食い、皮の硬くなって、脂がのってくるのを確かめよう。きっといつの間にか春は去り、夏となって秋が来てしまうに違いなく、一年ももはや去りにけりなんてなりかねない。まことに五十路オヤジの思いは重い。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/katuo.html


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静岡県沼津市沼津魚市場にて。千葉県銚子産

「あら(クエ)」の本場、福岡県福岡市の業者が「クエと偽ってアブラボウズを販売」したという事件で我がサイトにも問い合わせが多々ある。
 長年、魚貝類を見てくると、いろんな形でアブラボウズが活躍しているのに出くわす。例えば魚屋の冷凍庫にアブラボウズの頭がごろんと転がっていたり、半身がマグロのように切断されていたり。これをどうやって売るのだろうか? いろいろ想像を巡らせると、たぶんお弁当屋だとか、切り身での販売に回るのだろう。
 知り合いの業者から、このアブラボウズのコロを格安で買い求めたことがある。たしかキロあたり800円ほど。これが5キロほどであり、すべて切り身にしてそのまま保存してもらい、ときどきとりだしては家庭内食品偽装をやらかした。

「いいメダイがあってね。今日は照焼にするから」
 なんてわざとらしいことを言って、食卓に出す。
 大振りの立派な切り身は
「立派なメダイね」
 なんて反応が返ってくる。
「脂がのって素晴らしいわ」
 こうなると家庭内食品偽装もしめたものだ。我が家ではアブラボウズだろうがメダイだろうがうまければいい、と言うくらいの食の教育(食育って言葉大嫌いなんだけど)をしているつもりなので、これは家族がメダイといっても違和感を憶えないかどうかの実験のつもり。

 ちなみにアブラボウズを販売禁止にしている市場があるが、個人的には反対する。アブラボウズの油分はバラムツなどとは違っている。バラムツのはワックスエステルでちょっと食べ過ぎると下痢や皮膚への障害を起こすが、アブラボウズの油は普通の魚にあるものと同じで「食べる量に注意すると害はない」。ようするにバラムツで中毒するのは「事件」だが、アブラボウズの場合は無知と不注意、もしくは今回のように詐欺行為による「事故」でしかない。
 例えば市場で「アブラボウズは油が多いので食べ過ぎると下痢しますよ」という注意して売れば問題はない。後は買った人の自己責任だ。このアブラボウズを販売禁止にしなけらばならないのも個人営業、対面販売の魚屋・商店が減少したことによる。「みんなスーパーばかりで買い物しないで魚屋や個人商店を大切にしようよ」。
 この国は不思議な国で“好きでメタボになっている人間”に「メタボを解消しないと逮捕するぞ」なんてやるし、シートベルトをつけないのは運転している人が危険なもので、誰にも害のあるものでもないのに、罰金をとる。そのくせ、本当に責任をとらなければならないこと、人間は責任をとらない。もっと大人社会、成熟した社会にならないとダメだな。
 ということで「アブラボウズをアブラボウズとして売る」のは「食べ過ぎに注意してください」と明言してやるかぎりなんら問題がない。煙草の箱に「吸い過ぎに注意」と書いてあるのと同じだ。油っぽいのが好きな人、あっさりしたものが好きな人、ひとそれぞれで、好みで食べればいい。「好み」という点では煙草と比べると何千倍も罪がない。アブラボウズの販売を禁止するなら、もっとより身体に悪い煙草の販売を禁止すべきだ。

 この家庭内食品偽装以来、家族は
「あのときのメダイは美味しかったね」
 それを聞くたびに冷凍庫から在庫を出してみそ漬け、照焼、煮つけなどを楽しんだものだ。
 アブラボウズはほんまにうまい!

 市場で売られている、流通しているアブラボウズには二通りある。ひとつは関東なら銚子、宮城などにあがる近海もの。すなわち「生」。はるか遠洋でとれる船内冷凍されたもの。
 冷凍品もうまいことはうまいが、やはり格安のものは「それなり」の味しかしない。
 この魚の真味は近海ものにある。銚子から宮城、相模湾でも駿河湾、熊野灘などにもあがるもので、出来ればあまり大きすぎない10キロから20キロのほどほどの大きさがいい。この刺身は絶品である。これを軽くしゃぶしゃぶにするのもいい。とにかく食べ過ぎない、また肝などを食べないというのに注意すれば、うますぎる魚であることがわかるはずだ。

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 ここで偉いなと思うのは小田原周辺の住民方である。アブラボウズは神奈川県小田原、静岡県沼津周辺で好んで食べられている。なかでも小田原では高級魚であり、寒くなると魚屋にはかならず置かれるものだ。値段も非常に高く、一切れ2000円前後することもざらだ。
 この高値で売られている「おしつけ(押しつけ)」は間違いなく近海産。アブラボウズにも良し悪しがあって、いいものには小田原市民は財布の紐をゆるめる。

 ことほど左様に、物事は勉強しないとわからないこともあるのだ。だいたい人間というほ乳類が、食べるというのは、生命維持のため。生きていくために食べるわけだ。あのとりあえず「ルイヴィトンでも買うか」みたいな下等な買い物を、食べ物でもやってはいかん。だいたい「うまいものだけ食べたい」というのも下等だ。食に関しては、しっかりしみじみ考えて、吟味して、ときに諦めて買うのだ。食は冒険だけど、それ以上に暮らしそのものだ。自分の普段の暮らしが、食に無関心を通しているのに、とつぜん「クエ食べないと、いけないは」なんて思うのは最低である。だからだからだまされる。だましたヤツははっきりいって悪人だろう。いかに不況だとは言え、詐欺行為はいかん。でも消費者が無知であっていいなんて、ボクは思わないけどね。

 さて、こんなことを書いていると、うまい「おしつけ」が食べたくなった。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アブラボウズへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/sonota/aburabouzu.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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