2007年1月17日アーカイブ

 食品表示の「ブリ」というのは標準和名のブリのことでもいいし、出世魚の行き着いた頂点としての「鰤」でもいい、と言う意味合いから曖昧な言葉なのである。でも一般的には「ブリ」といえば成長した大きな魚に対して使って欲しい。それではどれくらいから使っていいのか? これが曖昧で困る。困るけど、曖昧でいいんではないか? とも思われる。そんな現状があるのだ。
 関東では「→わかし→いなだ→さんぱく→わらさ→ぶり」となる。この“いなだ”とか“さんぱく”とか“わらさ”とか言う言葉を主に使うのは相模湾などではもっぱら釣り人たちだ。そして相模湾での“わらさ”も“ぶり”もとても小さいのである。ちなみに体長50センチを超えるか超えないかでも“わらさ”という船頭も実在する。これに対して市場では北海道から来るものなどは70センチ級でも“わらさ”と表示されている。だから仲卸に並んでもそれを踏襲する。でも真横には鹿児島の養殖“ぶり”があって、これがほとんどサイズ的に変わらない。変わるのは太り具合くらいなのである。
 そして三協食品のずばり「本ブリ照焼」の原材料に「ワラサ(北海道産)」としっかり明示されている。たぶんこれを仕入れて、その見事な魚体に「これはブリだな」と誰かが決めてしまったのだろう。ボクとしてはこの決めた人は「見る目がある」と思う、偉い。北海道は北上するブリの行き着くところ。ここらあたりで膨大な小魚を飽食してまん丸に太り、南下し始める。そしてまたまた小魚を食いながら腹に身に脂肪を付けていくのだ。だから体長からすると“わらさ”と呼ぶには大きすぎることも多々ある。また確かに佐渡島、富山などまで南下した、それこそ大ブリとは比べようもないが、ある程度脂ものっているのだ。これなら“ぶり”だと出荷しても誰も文句は言えないだろう。魚というのは最近では売るための様々な努力や工夫が必要である。だから「本ブリ」とは名付けたり、と感心する。
 なにしろ南下する以前とは言え、天然のブリなのである。決して飼料を食べている養殖物ではなく野生の小魚を追い回し、健康にすくすく北の海を泳ぎ回っていたもの。これに「本」をつけて照焼としたところに意味がある。「本」には養殖ものではない、という意味合いもあるだろう。
 最近ではブリも“いなだ”クラスは売れないで困っている。これを開いて干物にしたメーカーがあってこれがうまかった。また加工食品の世界では“ぶり”以前のブリは格安だし、工夫次第ではいい商材になるのではないか。
 こんなことを考えながら、じんわりと焼いて「本ブリ照焼」を食べてみる。これはなかなかいい味なんである。確かに脂は少なく、そこから生まれ出す甘味に欠ける。でもそれを補っているのが上手な味つけである。

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三協食品 宮城県塩釜市新浜町3-27-25

市場魚貝類図鑑のブリへ
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 新年あけて、成人の日も終わった中日のこと。やや寂しい八王子魚市場で富さんに会った。新年の挨拶を交わして、暫し立ち話。この富さんの話が面白いのである。しかも若い頃に渡り職人をしながら自分の寿司屋を建てた人だから腕の方も、たかさん曰く“ピカイチ”だという。
「富さん、寒いね。この時期、子供の頃どんなもん食ってたわけ、新潟でさ」
「そうだな。粕汁だな。新潟じゃな、よく“すけそ”食ったんだ」
 二人の足元に青森県からのスケトウダラが並ぶ。
「田舎じゃな、あんまし鱈(マダラ)は使わないでな。“すけその粕汁”作ったの。これ買って帰ろかな。粕汁食いたくなっちまった」
「へえ、富さんが作ってたわけ」
「バカ言え、お袋さんが作ったの。朝なんか学校(がっこ)行く前に食べるだろ、これがいいんだ。寒いからね新潟は」
「へえ、粕汁は食べるものなの」
「そうだね。野菜いっぱい入ってたの、こんなくらい(手でお椀の形を作る)。思い出すよな粕汁のことでさ、いろいろさ、子供のときのことな」(富さんの朝青龍そっくりな細い目が遠くを見つめている)
「それと、たかさんから聞いたんだけど、富さんのとこ、中条静夫が常連だったって」
「知らないよ。中条静夫、知らない。誰」
「たかさんから聞いたんだ。違ってたの」
「うちにゃあんまり有名な人こないよ。来るのは、まあ三語楼(今の小さん)さんくらいかな」

 富さんと会うといつも無駄話に移ってしまう。でも粕汁っていうのが四国生まれのボクにはあまりわからない。作り方はだいたい想像がつくのだ。調べてみると『津軽の味』(芳賀文子 津軽書房)にも酒粕と味噌で作るのが載っている。それで我が家でも作ってみることにする。
 冷蔵庫をみると、ぶわたら(マダラ)と塩鮭(サケ)がある。そこに八王子市下恩方『中島酒造』でいただいた板粕。
 まず板粕を昆布だしにつける。粕が柔らかくなったら、ここに白みそ、信州味噌を加える。甘いのが好きなら白みそを多くするのがコツ。鱈、サケは湯通し、野菜も冷蔵庫に残る白菜、三浦大根とシメジ。
 鍋にうるかした粕と味噌を合わせたのも、そしてカツオ節の出汁を鍋に入れる。これを煮立たせてから魚と野菜を入れる。総て煮えたら食卓に。
 富さんが「粕汁は暖けーからよ」と言うごとく汁をすするたびに胃の腑がぬくまってくる。やや薄目の汁に塩鮭や“ぶわたら”の塩気がとてもいい加減である。この一塩の魚がまたうまいのである。野菜もキノコもたっぷり食べて、ご飯にも酒にも手が届かなくなる。
 粕汁を初めて食べたわけじゃない。東京の居酒屋でも陸奥料理を出す店があり、酒の後はいつもこれだったし、大阪では粕汁を名物にする店もある。でもあんまりうまいと思わなかったのはどうしてだろう。それと気がついたのだけれど、「粕汁は満腹になる」のである。

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寿司富 東京都八王子市上壱分方町224-5

中島酒造
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