2008年6月アーカイブ

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 梅雨の最中の6月11日、島根県島根半島馬島へ定置網の水揚げを見に行った。
 まだ明けやらぬ松江市内を出るときには小雨、馬島に着くやいなや驟雨沛然となる。
 その湿度100パーセントの中、定置網の選別が行われた。
 大漁であった。たくさんのマアジに混ざり、無残にも放り投げられていたのが、これまた無数のアオイガイの中身だ。
 雨空は銀色であり、なぜか海水と雨水が混ざり合う地面がやたらに明るい。
 そこに青白く浮かび上がるのがアオイガイの美しい貝殻であり、その脇で蠢くのが貝殻の主である。

 アオイガイの仲間カイダコ類は国内には3種。
 貝を背負う軟体類というとオウムガイの方が有名であろうが、こちらはむしろイカに近く、アオイガイはタコの仲間である。
 美保関では家庭の玄関に飾られている、それほどに美しいアオイガイの貝殻だけど、選別を急ぐ漁師さんにはやっかいな存在でしかない。

 この美しい貝殻と、貝殻から抜け出した完全にタコとしか見えないものをたくさん拾う。
 そのまま八王子北野八王子総合卸売センター『市場寿司 たか』に送り、調理しておいてもらったのだから、これは言うなればアオイガイを丸投げしたようなものだ。
「いちばん忙しい金曜日にさ、荷物が届いただろ。そこにびっくりするくらいたくさんのタコがあって。汚れた貝殻がこれもいっぱい」
 島根から帰り着いて、アオイガイの握りを撮影するべく店内に入るやいなや、たかさんの怒りのお言葉が吹き出してくる。
「やっとゆでてたら、うまくもなんともない」
 やはり「うまくないんだな」。
 確かに握りにして、ちっともうまくない。
 持ち帰り、酢みそ和え、バター焼きにしても同様だ。
 どうやら身に水分が多いようだ。

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バター焼きがいちばんうまかった

 翌日、まだ怒りの冷めない、たかさんに
「人間初物を食うと80日長生きするって言うだろ」
「初物違いだろ。オレは80日寿命が縮まったよ」

 断って置くけど、アオイガイはそんなにまずくはない。
 水っぽいタコだと思えばいい味なのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アオイガイへ
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 さて、昨日は築地場内荷受けの見学に行ってきた。なかでも目に付いたのが島根県浜田市から来た「どんちっちあじ」。これを場内で買い求めてきて食べてみた。

 予め書いておくと、「どんちっち」とは浜田市など島根県石見地方に伝わる石見神楽をさす幼児言葉。もっとつきつめていくと島根県は西部が石見地方、東部が出雲地方。この両地方では人間性も風習も、また産物も大いに違っている。
 島根県でも西部沖でとれるマアジの脂の乗り、身質が極めてよく(日本有数)、これをブランド化するときに石見神楽をさす“どんちっち”という言葉を使ったわけである。
●注/島根県東部のマアジの質が向上してきているという。実際に食べてみてもそう思われる。これは温暖化などのためだろうか? 科学的な調査をお願いしたい。

 1匹120グラムから130グラムほど。マアジではもっとも望ましい大きさ、いちばんうまい大きさでもある。
 これを場内の『富士恭』でキロ当たり900円にて買い求めた。

 卸すなり、手に強い脂がこびりついてくる。頭を落として片身に包丁をいれたら、やたらに重い。
 巻き網でとったものとは思えないほど鮮度がよく、刺身に充分つかえる。
 あとは単純至極、適当に切り、しょうが醤油で食べるだけだ。

 画像を見て頂きたいのだけど、室温にて皮下の脂質が溶け出しているのがおわかりだろうか?
 液化した脂が照明にキラキラと光る。
 これを口に入れると、トロっと溶け出してくるのはクロマグロの大トロを思わせるが、酸味が少なく、甘味を強く感じる。
 また脂が強いのに嫌みがなく、たくさん食べることができるのもクロマグロとは違っているように思える。
 脂の甘味を感じたあとにしっかりマアジの個性を感じる。
「どんちっちあじ」のうまさに圧倒される思いだ。

 さて浜田市浜田漁港に揚がる巻き網のマアジをブランド化するにあたって、この「うまいマアジであることを照明する根拠」を求めた。そして脂質に注目して測定する器械、方法を編み出したのが島根水産技術センターである。この県の技術センターと浜田市、また漁業者によって誕生したのが「どんちっち」ブランドなのである。すなわち、「どんちっちあじ」の特徴はなんといっても脂質が10パーセントを超える脂ののったマアジであることを科学的に証明して出荷しているところにある。
 さて「どんちっち」を整理すると、「近海浜田市西部沖でとれた、脂ののったマアジ」ということになる。
 この「どんちっち」の意味合いをどれくらいの人が知っているだろう。現在のとこと「どんちっち」という言葉だけが先行して、「島根県」「浜田市」「脂質の高い」「鮮度のいい」という肝心なことまで行き当たっていないように思える。

 閑話休題。
 今年ほどマアジをたくさん食べた年も少ない。北は新潟県、南は鹿児島県まで、うまいマアジもあれば、がっかりしたものも多々あった。ようするにマアジは見た目で味を判断しづらいものであるようだ。
 そこに「どんちっち」の価値が急浮上してくる。
 最後に今回のマアジは浜田市の「裕丸」が浜田西沖合でとったものであることを明記しておく。

浜田の水産ブランド どんちっち
http://www.city.hamada.shimane.jp/kurashi/nousui/suisan_don.html
島根県水産技術センター
http://www.pref.shimane.lg.jp/suigi/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マアジへ
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ウミタナゴ科を新論文にそって整理・改訂

アカタナゴのページを作成
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マタナゴのページを作成
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掲載種 1983


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 ここのところ「まんちょう」をよく見かける。
 買おう買おうと思いながら、なかなか買えないでいる。
 今朝だって、夜明け5時から大忙しで、画像の保存、メールの返信、はたまた雑用色々をこなして、市場に行き、旗野農園で今期最後のトマトを買い、そしてまた外出の時間が差し迫る。
 それでも八王子綜合卸売協同組合『マルコウ水産』クマゴロウのところで「まんちょう」を見つけたら素通りできなかった。

 買ったのが95グラム。
 クマゴロウが「100グラム以下はお売りいたしません」なんて言う。
 それじゃ、「じゃあただでくれるのかな?」というと、「100円置いておけ」という返事。
 キロ当たり1200円なのだからおまけはおまけだな。
 クマゴロウありがとう。

 持ち帰って、縦横に切れ込みを入れる。
 酒とすり下ろしたニンニクを合わせて、これをからめる。
 そして塩コショウ。
 塩一味、塩七味唐辛子、塩山椒というのもいいね。
 ガスレンジに餅焼き網を3枚のせる。
 ほとんど直火に近い形で、ものすごく短時間で焦がしながら焼く。
 できるだけ短時間に焼き上げるのがコツ。

 表面は香ばしく、中はジューシー。
 このジュから強い旨味が感じられて、しかもあっさりしている。
 この料理法が「まんちょう」のもっとも最上の味を楽しめる。

 さて、考えてみると「まんちょう」というのが何であるのかを書いていない。
 漢字は当て字で「万腸」、すなわちマンボウの腸の焼き鶏風である。
●器は倉敷市の武内立爾作

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 ギンダラは関東に出てきて初めて食べた魚だ。
「たら」なんだから鍋にするか、というので切り身を買ったのだが、「安かったから買った」記憶がある。
 これがかれこれ30年以上も前になる。そのギンダラが冷凍にもかかわらず高級品になってしまったと思ったのはここ20年ほどだろう(2008年現在)。
 現在でも市場ではなくてはならない魚のひとつで、棒杭のようなのがカチンカチンに凍り付いて横たわっている。これがキロ当たり2000円前後だろう。冷凍魚としてはもっとも値の張る魚になってしまっている。

 北洋でのサケマス、タラ、メヌケ類に混ざってとれても最初は真っ黒な見た目の悪さから、目立たない魚であったもの。(北洋漁業の初期というと1950年代半ば)
 それが徐々に漁獲量が増えて、食卓では見慣れたものとなったいたのだ。
 だからギンダラといえば北洋(アラスカ、カナダ、ベーリング海)のもの、まさか国内にはいないだろうと思われていそうだ。でも少ないながら、三陸、北海道では揚がる。
 漁場がそれほど遠くないので生のまま水揚げされるわけで、これが珍しいためもあって、凄い高値がつくのだ。
 2008年6月12日、巨大な石巻魚市場に、たった一匹揚がったギンダラは3キロ上。
「1万以下では手に入らないぞ」
 とは言っても、今手に入れないと、次回は何時になるかわからない。
 尾形清雄さん(『天佑丸冷凍冷蔵株式会社』社長)にお願いして、地元の仲卸である『カネキ』さんを紹介してもらい、なんとかこのギンダラを押さえることができた。
 やはり値段は1万円に非常に近い。出費は痛いがうれしいのが倍するものだ。

 持ち帰って、刺身、煮つけ、塩焼きにしてみた。
 渡辺隆之さん(『市場寿司 たか』)にカマをあげたのだけど、「うまかったよー。やっぱり生は違うね」というのを聞いてから、我が家でも塩焼きに。
 刺身は大トロの白身、煮つけは思ったよりも絹のような繊維質の白身で濃厚な旨味があってよかった。
 そして塩焼きだけど、焼きたてのうまさは無類のものであった。
 白身からしたたり落ちてくるのは透明な脂なのだ。
 大量の大根おろしをのせて食べると、ずば抜けてうまい。
 脂にコクがあって、その割に嫌みではない。そこに独特の旨味。
 ギンダラの塩焼きの欠点は「冷めるとうまくない」ということだけだ。
 脂が強いのでたくさん食べられないのも難点だろうか?

 清水の舞台から飛び降りるつもりで買ったギンダラ。飛び降りた甲斐があったと思う。
 でも次回、また買えるのは何時の日だろう。

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 大阪鶴橋のとある路地にある『よあけ』には感動した。
 関東出身のやがらさんと、現に東京多摩地区に住むボクが思わず「東京の飲み屋なんてろくなもんじゃねえ」なんて叫んだほどだから、その『よあけ』の素晴らしさのほどがわかってもらえるだろう。

 そこの働き者の店主さんお勧めの一品が「いわしのぬた」。
 ぬたとは「沼田」と漢字を当てる。
 ぬかるんだ泥田のような酢みそを魚貝類と和えたもの。
 そんなものを想像していたら、まったく違うものが登場してきた。
 マイワシを細かく叩いたものに青ネギを散らして、白の辛子酢みそをどろりとかけたもの。
 うまかったかって、あのとき、やがらさんと半分こしたのが未練に思えるほどの味だったのだ。

 これを島根県美保関定置網から持ち帰ってきた(実は拾ったのだ)「小目(ホソトビウオ)」で再現してみた。
 ホソトビウオは脂が薄く、旨味もマイワシには負ける。
 だからたたかないで超薄切りにしてミョウガ、ネギを合わせて信州の麹みそで和え衣を作った。
 薄切りのホソトビウオに辛子酢みそをどろりとかけたものは、梅雨空をはねとばすほどに爽やかな料理となった。
 これまた絶品である。
 我が家の姫が「からいよー」と泣きながら、それでも箸が伸びていた。
 これは我が家に新料理法が伝わった歴史的瞬間とも言えよう。

 しかし、“よあけ”おそるべし。

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 どの町に行っても、頼りになる人がいる、これがぼうずコンニャクの強みなのだけど、石巻市の尾形清雄さんもそのひとり。
 尾形さんとのつき合いは一方的にボクがお世話になっているだけで、これからもお世話になるだけというもの。

 さて「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の規模は大きい。
 市販の地図を見て頂ければわかりやすいのだが、市街図のいちばん大きくて目立つ建物のひとつが「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」なのである。
 尾形さんとは電話だけのつき合いで、だいたいわからないことがあると、いちいちお聞きしていたのだ。
 例えば関東の市場に普通に見られる「ぶわたら(ぶわだら)」というのがある。
 これが「なぜ“ぶわたら”なのだろう」。知る手だてが皆目わからない。
 この頃、いろんなメーカーの“ぶわたら”を食べてみて、たまたまいちばん美味しかったものに「天佑丸」のパーチがのっていた。
 すなわち、そのときいちばんうまい“ぶわたら”を作っていたのが「天佑丸」だということで電話をかけたわけだ。
 もちろん“ぶわたら”に関してはいろいろ調べた。宮城県の各地市役所なんかにも問い合わせたのだが一向にわからない。
 電話はすんなり通じて、「ぶわたらの事など聞きたいのですけど」と言ったら出てくださったのが尾形清雄さん。
「ぶわたら(ぶわだら)」の由来は尾形さんの詳細な説明ですっきり解決したのだ。
 そのときの、あまりに気さくな雰囲気に、てっきり「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の単に社員の方だと思いこんでいた。

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 そして石巻市内に入り、ケータイを入れる。
 市場食堂(石巻魚市場の「斎太郎食堂」)でお昼を食べているというのに押し掛けて、ついでにご馳走にまでなり、名刺を頂いたのに、尾形さんが「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の社長だとは思いも寄らなかった。
 水産会社の一社員だと思っていたので「尾形さんにご馳走になって大丈夫なのかな」なんて考えていたら、同行したヘンリーブロスの江嶋社長が肩をなんども叩いてくる。
「ぼうずさん、あのー、あんたわかってまっかー。名刺に社長って書いてありますよ。尾形さん、社長さんなんですよ」
 このとき初めて尾形さんが「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の代表であることを知ったのだ。
 ここで改めて書いて置くけど、ボクの場合、あんまり肩書きなんて見もしないし、知りたくもない。
 結局人付き合いに肩書き、年齢、性別も関係ないじゃないか、というのが「ぼうずコンニャク流」なのだ。
 尾形さんの場合、電話で話しただけで強い親近感を感じた。初めて会っても、初めてあったような気がしない。

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「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の工場を見学した。その広さ、清潔さ、また最新の器械類に驚く。

 ここで「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の歩みを簡単に書いておく。
 創業は昭和34(1959年)年。
 尾形さんの出身地は現在では石巻市内になる田代島。牡鹿半島には金華山、網地島、田代島の3島が先端部近くに点在する。
 そこで代々、漁業をいとなみ巻き網船を2艘、また北洋漁業にも乗り出していた。
 水産業とくくると尾形さん一族の歴史は非常に古いことになる。
 ここであがる魚の価格安定のために、市内に冷蔵・冷凍施設を作ったのが会社の始まりとなる。
 以後、輸入、輸出業、ぶわたら、漬け魚(これもまたうまい)、干物などの製造販売も手がけている。

 さて、昼過ぎに石巻市内に到着。
 尾形さんにお昼をご馳走になり、3時過ぎにはホテルにチェックインした。
 ここで数時間仮眠をとる。
 疲れがとれたとき、尾形さんが奥様運転のクルマで迎えに来てくれて、夕食も尾形さんにご馳走になってしまった。
 もっと言えば11日、12日ともどもご迷惑ばかりかけたように思える。
 そして「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の製品をいっぱいいただいて帰ってきた。この製品については別項をたてる。

 返す返すも、尾形清雄さん、ご家族の方達、「天佑丸冷凍冷蔵株式会社」の皆さんには感謝。ありがとうございました。

天佑丸冷凍冷蔵株式会社
宮城県石巻市魚町(さかなまち)1の10の8 電話0225-22-3847
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑
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●本ページは宮城県の漁港巡りの旅の続きです。
旅の04へは
http://bouz-oisii.seesaa.net/article/101425416.html


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掲載種 1981


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 島根県島根半島は東は松江市、西は出雲市にまたがる。
 まことに雄大な、そして美しい湾が連なって風光明媚なところだ。
 この岬や、湾にたくさんの定置網(大敷き網)があるのだけど、ここであがる魚貝類が見事。
 なにしろ定置で揚がったものは鮮度も取り扱いもよく、市場でも最高ランクに近い評価を得る。
 加うるに日本海長崎から島根県にかけてのマアジは国内でも最高峰の質と脂をもっている。

 こんなことを書いてきて、先日、近しい仲間から素朴な疑問を問い掛けられた。
「定置網って、そんなにいいものなの」
 考えてみると一般に「定置網」が“うまそうな言葉”であるわけがない。
 そこで説明した内容をここで再度挙げていく。

1 高値をつける、もっとも上位に来る漁法は釣りだ。
2 定置網は釣りものにもっとも近い評価を受ける。
  ときに釣りもの以上の評価を受けることがある。
(注/島根県島根半島などで殺菌冷海水を使った処理をしているなど)
3 最低ランクというか評価が低いのが巻き網。
(注/巻き網の魚が単純に評価が低いとはならない場合がある)

 6月20日、島根県松江市美保関、定置網の沖での網上げ、港での選別を見学していた。
 すると次々に地元の方がやって来て、自由に魚を選んで買っていく。
 ここでは好きな魚を選んで計量してもらい買い求めることができるのだ。
 ボクが狙ったのがマアジ、スズキ、イシダイ、アカカマス、その他サメ類他。
 マアジは中でももっとも大きいのを買い求めることができた。
 この感激は誰にもわからないだろうね。
 選別するときに触っただけで、脂ののりがただごとではないことはわかるのだ。
 しかも定置の方にお土産のマアジまでいただいて、二重の喜びを感じたのだ。

 さて土曜日に帰り着くと、美保関の魚貝類も自宅に届いたばかりだった。
 まずは中アジの塩焼き。
 大アジ、スズキ、イシダイ、ホウボウの刺身。
 一本だけ「小目(ホソトビウオ)」が混ざっていて、これは大阪鶴橋『よあけ』で覚えたばかりの「ぬた」にする。
 この食卓に乗り切らぬほどの魚料理。

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 なかでもノックアウトされるほどに驚愕したのが、マアジの皮下の脂が室温で溶けだしていたことだ。
 これを一切れ口に放り込むと、これまたトロっと口の中に脂が放出される。
 放出された脂が甘い。
 甘いの次に来たのが、これまた強い旨味で、「今期最上のマアジはこれだな」の感が浮かぶ。
 でもこの刺身での感激はまだまだ序の口だった。
 マアジがジュウジュウと炎を上げながら、濃厚な香りを室内にふりまいている。
 これだけは焼きたてでなければ、と食べたら、間違いなくKOされてしまったわけで、あとは言語では尽くせない味わいであった。
 皮目は水からの脂で香ばしく揚げたようだし、濃厚な旨味は舌をしびれさせるほど。

 今回のマアジのほとんどが抱卵していて、成熟が進んでいた。
 とすると島根半島のマアジの旬はあとわずかだ。
 これほどうまいマアジは人生に置いてもあと何回食べられるか、わかったものじゃない。
 できるだけ早く、もう一度食べたいけど、誰に頼もうか?

JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/suisan/
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夜明け前、定置網を目差す船上からの美保関灯台の光

 雨足が海や大地を押しつけるほどに強い。
 さっきまでどんよりと重苦しい雲が一滴の雨粒すら落とさないでいたのに、まるで大きなバケツをひっくり返したような大量の水を落としてきた。
 6月の島根の旅はスコールのような雨に祟られた旅であった。

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 さて、ボクは島根半島での定置網を見るために、島根県まで遠路来たのだ。定置網の視察(この言葉好きじゃない)、市場を見て、そして会議、そして会議。
 今回の島根の旅は、県水産物アドバイザーとしての旅であり、ぼうずコンニャクならではの旅とはならなかった。
 それでも膨大な量の水産物を見て、水産関係者と意見を交わし、また漁師さんとともに笑ったり、生温い雨に苦しめられたりもした。

 途中に広島県三次市での「わにを見る旅」、大阪での「食い倒れ旅」をオマケにしての島根の旅話がここに始まる。

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 気仙沼を9時前に出て、一路、石巻に向かう。
 薄曇りであったのが、強い日差しが出て、蒸し暑くなってきた。
 道の脇の木々、そして花々が美しい。
 道は海沿いに本吉町、歌津町、志津川町を通り過ぎて、山に分け入っていく。
 右手に北上川を見て、河北町、そして石巻についた。

 気仙沼から石巻市まで仮眠時間をとって3時間ほどかかった。
 たぶん普通に走れば2時間弱で到着しそうだ。

 本吉町の港の岸壁で一休みしたのだけど、防波堤釣りをする老人がふたり。
 狙いは「丸たなご(まるたなご ウミタナゴ)」だという。
「今日はまったく釣れない」と言っているようだけど、言葉が通じない。
 水面をキラキラさせているのは大量の「細たなご(ほそたなご オキタナゴ)」。
「ほそたなごを釣らないんですか?」
「針を小さくすれば釣れるけど、あれはうめかね」
「丸たなごはどうやって食べるんですか」
「三枚に卸して、包丁でたたくだろ。そこい酢みそを加えるわけさ。この辺じゃ“たたき”だ」

 港には小さな島があって、海辺に下りると、岩にびっしりとマガキがついている。
 タマキビ、ムラサキウニ、ヨメガサラなんかが見える。海は透明で澄んでいる。
 ほんの20分ほどであったが老人達のウキはぴくりとも動かなかった。


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 何気なく雑誌を見ていたら、グルメ通と言われる人が、「最近は冷凍魚を使うレストランが多いなか、この店はその日仕入れた新鮮な材料を使っていて素晴らしい」というような内容の文章を書いていた。
 その店のコースが21000円からとなっていたので、「この値段で冷凍魚を使ったら犯罪だろ」と思わず独り言がこぼれた。
 最近では安くてうまい料理を提供するには冷凍魚は欠かせない素材なのだ。
 なかでも高い安いがあって、そのときどきの相場にもよるが比較的高値安定なのがカサゴ類である。

 さて、静岡県沼津市沼津魚市場に通っている。この漁港の特徴は駿河湾の深海魚。なかでも競り場を赤く染めるほどなのが、ユメカサゴなのだ。
 これが水揚げ時の値段からして、なかなか高い。でもうまいので、ついつい買い込んできて散財してしまうのだ。このユメカサゴと同属で遙か天皇海山(北大西洋西側)にいるのがオキカサゴである。
 外見からは解凍してしまうと一般の方には両種の見分けは難しいだろう。当然、冷凍鮮魚の差はあるが、それを考慮すると味に差はない。
 このオキカサゴを見つけると子だくさんで貧乏なので思わず買ってしまう。
 鮮魚のユメカサゴ300グラム見当が小売りで1000円を超えるのに、なんと近所のスーパーで同じくらいのが2匹で450円である。

 解凍して、料理することになるのだけど、作るのはマンネリの極み、煮つけだ。
 煮つけに飽きて若狭焼き(酒を塗りながら焼く)にすることもある。オイル焼き(オリーブオイルで焼く)、アクアパッツァにもするけど、やっぱり煮つけがいちばんだろう。

 そう言えば3か月ぶりになるオキカサゴの煮つけがうまいのだ。
 高知県の辛口の酒「亀泉」がクイクイいける。
 いい酒の肴なのである。

 さて、遙か天皇海山からきたオキカサゴ、その目は何を思うのやら。

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主に島根半島、境港でいます。
島根県の水産アドバイザーとしての仕事をこなしてきます。
土曜日には大阪にも寄って帰りたいのですけど、今回は無理かな?
ぼうずコンニャクをお見かけの方は声をおかけください。


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 いつ食べてもうまい。それこそどえりゃーうまい魚というのがある。
 もちろんそんな魚は超少数派なのだけど、ヒゲダイはその最たるものなのである。
 これほどうまい魚であるけれど知名度はすこぶる低い。
 だいたい外見がよくない。和名の如くひげ面である。
 まるで田舎臭いジイサンに見える。真っ黒で小汚い。
 見てくれは悪いのだけどボクの世代以上には懐かしいのではないだろうか?
 顔の部分をよく見て欲しい。
 彼の「やめてけれ」とか「ズビズバー」で有名な左卜全そっくりなのだ。
 ヒゲダイの面を見ているだけで、あのサイケデリック(これも死語だな)な時代を思い出す。
 左卜全はなんと1971年にお亡くなりになっている。考えてみると40年近く前になるのだから知っている人も少なくなっただろうな。

 閑話休題。
 ヒゲダイはイサキ科である。この仲間にはコロダイ、コショウダイ、ヒゲソリダイなど美味な魚がいっぱいある。
 その頂点にあるのがヒゲダイだと言ったら言い過ぎだろうか? いや言い足りないくらいだ。
 その最上級のヒゲダイがなぜマイナーなのか? というとあまりとれないからだ。
 主に定置網などに入るのだけど、だいたい一匹だけぽつんとあがっている。
 そして漁港の隅っこで寂しそうにしている光景を何度も見ている。
 だからこんなに美味であるのに、値段もほどほど、これもまたいいところだ。

 やや硬めの鱗、皮をはぐと透明感のある見事な白身が出てくる。
 特筆すべきは血合いがきれいなことだ。
 この刺身にしたときの美しさはマダイより上だろう。
 そして味も抜群にいい。塩焼きがいいし、煮つけもうまい。
 でもいちばんうまいのはポワレである。
 ポワレはフランス料理で「ポワール鍋で焼いた」という意味。
 でもいつの間にかムニエルに対して、「粉を使わない」という意味合いになっているように思える。
 油に皮つきのフィレを入れて弱火で香ばしく焼き上げる。

 ヒゲダイのポワレは尾に近い方を使う。
 頭に近い方は皮を引く。
 この皮を切り離さないで、そのままにくるりとヒゲダイのフィレを巻き込むようにして塩コショウ。
 我が家ではこれをオリーブオイルで焼いて、皿に盛り、エクストラバージンオイルをかけてそのまま食べる。
 フライパンをデグラッセしてソースを作ってもいい。
 生クリームやフュメ・ド・ポワソンを使ってもいい。
 でも家庭の慌ただしい日常生活で時間がないので単純に。

 これは酒の肴にはならない。あえていうとシャブリなんて合うだろうね。
 でもボクの場合、自宅でワインというのは不似合いなのだ。
 本来落ち着くべき家庭でアンバランスなことをしても無駄である。
 ただただヒゲダイの皮目の豊かな旨味、身のジューシーな、また芳醇な味わいを楽しむ。

今回のヒゲダイは鹿児島県南さつま市笠沙 若潮便です
http://wakasio.seesaa.net/
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ハンバーガーがずれているのは撮影のため

 気仙沼魚市場隣にある「海の市」にはがっかりした。地物だけでは足りないのだろうけど、陸送ものが多々見受けられる。値段も、またお土産などもあまり感心できるものがなかった。ここと「萩しーまーと」の大きな差はどこから生まれるのだろう。まるで月とスッポンに思える。
 意気消沈して目にとまったのが「U-menes(ウ・メネス)」というソフトクリームなどのスナックを売るスタンド。ここにあったのが「もうか(ネズミザメ)」の身を使ったハンバーガーだ。
 サメの肉でフライを作るのが珍しいなんて、一般に思われるかもしれないが、これは良識的な、もしくは定番的な料理。我が家などでは年間何度も作っている。だから「もうかフライ」のうまさはよくわかっているわけで、それでも買ってみないといけないな、と思ったのは「それだけ海の市にがっかりした」せいだ。
「フカバーガー」400円というのはマックが100円なのだから安くはない。きっと日常的に買う値段を遙かに超えているだろう。特に我が家などは子だくさんで一度期に買い込むハンバーガーが20個以上だったりする。これだけで考えると、我が家で「フカバーガー」を購入すると8000円もするわけで言うなれば観光地値段に違いない。

 さてパンが2種類あって選べるのだという。真っ黒な竹墨を練り込んだもの。そして普通のもの。真っ黒なのは鮫肌の色合いを模したものだという。当然ボクも観光客の端くれだろうから、真っ黒なヤツを選ぶ。
 パンに挟まれた「もうかフライ」のディップには豆腐が使われている。
 この「ふかバーガー」がうまかったのだ。
 これなら400円出しても赦せる。
 フライは香ばしく、中のサメの肉も軟らかく、とても滑らかに繊維質だ。淡白でうまい。
 中のディップもよくできている。味がいい。
 これはサメのうまさをアピールする絶品に違いない。

 これだけでも気仙沼に行く価値有り、は言い過ぎかも知れない。
 でも気仙沼に行ったら「ふかバーガー」は食べなきゃね。
 忘れていたけど「ウ・メネス」ってどういう意味だろう?

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 気仙沼漁港に入った途端、あまりの大きさ、そして居並ぶサメの膨大さに圧倒されてしまった。
 それは漁業と言っても、企業的な、また日常とは縁遠いものに思える。
 呆然と立ちつくす我らに、救いの神となったのが佐藤さんである。
 現地仲買に努める佐藤さんは遠洋もの、地物など気仙沼にあがる総ての魚貝類を熟知している。

 市場の中央で呆然と立っている、我々に浅黒い背の高い男性が近づいてきた。
 下げた札に佐藤とあり、なんだかほっとするやら、うれしいやら。
 メカジキ、マカジキ、少ないながらクロマグロがあがっている。
「佐藤さん、この本鮪(ほんま)高いでしょうね」
「いやあ、今は安いですね」
「もうか(ネズミザメ)」の場を超えて、北に向かう。
 遠洋の場所は圧倒的に魚の量が多く、その割に人影はまばらだったのだ。
 北の端には地物が並んでいて、小魚、ホヤ、ホタテなどを囲んで小さいながらも人盛りがしている。
 なんだかやっと気仙沼という土地にたどり着いた思いがする。

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 ホヤもホタテも気仙沼周辺、大島などで養殖されたもののようだ。
 ミズダコ、活けの「川がれい(ヌマガレイ)」。
 タヌキメバル、メバル、エゾメバルにケムシカジカがあって、その先にウミタナゴが並んでいる。

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三陸ではウミタナゴは細かくたたいてみそで味つけする。千葉県のなめろうをウミタナゴで作るのだ

 サツキマスに大きな「大介(マスノスケ)」がある。

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この辺りでとれるマスノスケ(キングサーモン)のことを「大介」と呼び、非常に値が張る。そして非常に美味である。

 マンボウの身、腸、肝。
 小さなゴマサバ、ヤリイカ、マトウダイ、ヒレグロ。
 フグが入ったコンテナーをのぞくとヒガンフグ、ゴマフグ、マフグ。
 麦いかサイズのスルメイカがたっぷり。
 クロソイ、「ぎはぎ(ウマヅラハギ)」、カナガシラにカガミダイ。
 サワラは大小あって、ずばぬけて鮮度のいいものがある。
 ケガニはまとまってとれている。

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 気仙沼ならではというのが「もうかの星」、心臓である。
 これはサメの水揚げ港だけにあるもの。
 このまま生で刺身に、焼き肉風にもなる。

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 ちょうど「めじ」を並べているところなのだけど、総てクロマグロである。

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「もう少ししたら定置網が入ってきます」
 佐藤さんに言われて、いちばん奥の生け簀を見て回る。
 ヒラメ、マツカワガレイ、マコガレイ、ババガレイ、ケムシカジカ、「はも(マアナゴ)」などがいて、手前にキタムラサキウニが小山になっている。
 三陸産のキタムラサキウニは味がいいので有名だ。

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 面白いのは机の上にゆでたホタテガイ。パック詰めになっているのだけど、うまそう。

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 競り場で1パック買い求めるわけにもいかず、ちょっと我慢する。こういったものを買い求め、すぐに食べてみるのが私流なのだけど。

 そのうち定置網の船が入ってきた。
 水揚げの量はそんなに多くはない。
 活けのヒラメ、ホウボウ。「よど(イカナゴの大きくなったもの)」がなんだか三陸らしい。
 大きくなったイカナゴは安くて養殖魚の飼料などになるが、本当は鮮魚で食べてもうまいのだ。

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「よど(イカナゴ)」は飼料になってしまうのだが、刺身にしても干物にしても美味。

 大方、水揚げが終わったとき、ワカサギのようでそうではなく、ウルメイワシでもないものが出てくる。
 なんとこれがマダラの稚魚であるという。
「これもエサになるんです」
 と佐藤さん。
 でもこれを唐揚げなんかにするとうまそうだ。

 6時に市場に到着して、はや8時を回っている。我ながら疲労困憊なのだけど、クルマを運転してきた江嶋さんの顔には余裕が見られる。若いというのは凄いことだ。

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 都心から東北自動車道をまっすぐ北上、一関インターから一般道で真東に太平洋に出る。
 一関インターを下りると、とたんに甘い香りがしてくる。これは明らかに植物の花の香りに違いないが、いったいなんなのだろう。
 この気仙沼に向かう道が美しい。
 気仙沼は宮城県でも最北の町である。
 今回はヘンリーブロスの江嶋力さんと一緒だ。
 考えてみると通り過ぎた奥州市(旧水沢市、江刺市他)、一関市は14日に大型地震(岩手・宮城内陸地震 2008年6月14日8時43分)に見舞われているわけで、自宅でニュースを聞きながらも感慨深いものがある。
 気仙沼市に入るとすっかり夜は明けて、やや蒸し暑く感じるほどだった。この日(11日)予想では梅雨入りの予定だった。

 気仙沼漁港魚市場に到着、クルマを下りて競り場に辿り着くとむっとするような異臭を感じる。
 それは血液と腐敗臭の混じり合ったもので、臭いの素は探さなくても目の前に延々と大量に転がっている。

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 血まみれの「もうか(ネズミザメ)」である。
 大目網(巻き網)などでとったもので内蔵を競り場で抜くために、血まみれとなる。またこの血まみれであることが鮮度のよい証ともなるという。
 体長1メートルから2メートルはある「もうか」が行けども行けどもつきない。
 また取りだした肝臓が集められて洗浄されている。その光景が市場の喧噪の中で、逆に静謐に思える。
「もうか」の場所からほどなくのところに、ヨシキリザメの山が続く。頭を落として内蔵を除去したヨシキリザメは白っぽくて、江嶋さんに「これがはんぺんになり、おでんのスジになるんです」なんて説明していく。

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ヨシキリザメ

 膨大なサメ類は肉だけではなく、鰭も気仙沼名物の「フカヒレ」の原料となる。
 ヨシキリザメの先にはマカジキ、メカジキ、アカマンボウが並んでいる。

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アカマンボウはマグロ漁など遠洋漁業の副産物

 当然あるだろうな、と思っていたマグロ類はほとんどない。中型のメバチマグロ、クロマグロが隅っこに10本足らずあるだけ。

 気仙沼港は非常に長く、しかも一種あたりの数量が膨大である。
 これら遠洋の水揚げ港ならではの光景だろう。

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巻き網のカツオの水揚げ

 競り場がつきるところで巻き網カツオの水揚げが行われている。
 この水揚げ自体が大型器機を使ったもので、気仙沼の雄大さを感じる。

 江嶋さんが、「この向こうでも水揚げをやっているようです」という。
 てくてく歩いていくと「とんぼ(ビンナガマグロ)」が大量に水揚げされている。

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 大きさ4から6キロほどの小振りのもので大きなコンテナーにベルトコンベアーで投げ込まれる。

 気仙沼魚市場は細長く北に切り込まれた湾というよりも水道といった水辺にある。魚市場から海を見ると、その向こうに常に山が迫っている。その直線的な競り場を南に下り、また北に上るとかなりの距離になる。

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 さて、この大きな気仙沼魚市場の近海魚はどこで見られるのだろう。
 ビンチョウマグロの水揚げを見て、ちょうど「海の市(観光市場)」の前までもどったときに、佐藤さんからケータイがはいる。
 さて、これから気仙沼の地魚を見ることになる。
 
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 夏だな、と感じたのが福井県から入荷してきたホソトビウオ。この小型のトビウオは東シナ海から夏には日本海を北上して行く。
 この国で水揚げされるトビウオの中でももっとも量が多く、またまとまってとれる。
 長崎から島根県などで作られる煮干し、焼き干しの原料としても有名なもの。

 この可愛らしいトビウオだけど、我が家でよく作るのが唐揚げとか、たたき。
 今回は目先をかえて、タルタルにする。
 ホソトビウオは三枚におろして、小さく切る。
 玉ねぎ、ピーマン、オリーブの実もみじん切り。
 トマトもコンカッセ(小さなサイコロ状)に切っておく。
 ボウルにワインビネガー、レモン、塩汁(しょっつる)、ニンニク、オリーブオイル、塩コショウを合わせておく。
 トマトを除いた総てをこのドレッシングで和えて、皿に盛りつける。
 周りをトマトのコンカッセで囲み冷蔵庫でよく冷やして出来上がり。
 今回は買い置きがなかったのだけどバジリコ、ルッコラ(ロケット)などがあると本格的な味わいになる。

 我が家では、パンにのせて食べるのだけど、これがビールに合うのである。
 しかもたまのパン食に子供達も喜ぶわけで一挙両得となる。

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 ハガツオは知名度が低く、値段も安い。だけど食べてみると、これがまことにうまい魚なのである。
 難点は鮮度が落ちやすいこと。
 鹿児島県南さつま市笠沙の、わかしおさんから、
「ヒゲダイのいいのがあがったんです。送ろうと思うんですけど、他になにもなくて、小さなハガツオならいっぱいあるんですけど」
 こんな断りをいただいてのハガツオだったが、まだ小さいと言っても、初物は初物。
 長生きは出来そうにないが、今宵は楽しめそうだ。

 これをまずは『市場寿司 たか』に持ち込む。
 そのまま食べて「うまいよ。ほどほどにね」と言うのを聞いて、当然の如くあぶりにする。
 金ぐしを刺して、ガスの直火で皮目を焼く。
 それを氷水にとって握ってもらう。
「旨味も脂からくる甘味もほどほどだけど、いい味だね」
 たかさんがうなる。
 小振りで旨味も脂も少ない時期なのに、なかなかいけるのだ。

 握りで楽しみ、これを自宅に持ち帰り、また同様に造ってみる。
 軽く振り塩をしてあぶり、氷水に落とす。
 これにスダチと、『隠岐の島づくり』の藻塩。
 意外なことに、塩+スダチの単純極まりない造りがずば抜けてうまい。
 アジサイの咲く、梅雨のひるまに、とても程良い味わいの酒のアテとなる。

 これからハガツオはどんどん成長して旨味も脂ものってくる頃となる。
 さて、今年のハガツオもうまそうな。

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 6月10日深夜から、12日まで1泊2日+アルファで気仙沼と石巻を旅する。
「きっと回れるはずだ」と簡単に計画したものの、これが至って強行軍であった。
 実際に東北道を北上し、また帰路を運転したのは江嶋力さんなのでボクにとっては楽な旅であった。
 今回の旅は江嶋さんの商談についていく形のもの。
 江嶋さんに、まずは感謝。

 ボクは疲れないはずだけど、大いに疲れ果てた。
 とにかく気仙沼漁港、石巻漁港は巨大だ。
 気仙沼漁港に延々と並んだ血まみれの「もうか(ネズミザメ)」、ヨシキリザメ。

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血まみれのネズミザメ。血まみれにはワケがある

 ベルトコンベアーで船から上げられる「とんぼ(ビンナガマグロ)」、カツオ。
 遠洋漁業の大型船がそれほど大きく見えない、それほど気仙沼漁港は大きい。

 その気仙沼が小さく思えるほど、石巻漁港は大きく長い。

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 中にはいると、端が見えない競り場に圧倒される。
 あまり入船のない日で魚は少なかったものの、それでも2、3往復するとヘトヘトになってしまった。
 宮城県ならではの養殖のギンザケ、底引き網であがった深海魚、そして定置網。
 念願のイラコアナゴ、生のギンダラがいとも簡単に手に入ったのに感激。

 そして何よりも感謝しなければならないのが気仙沼の佐藤誠さん。
 巨大な気仙沼漁港で佐藤さんの案内がなければ、とてもじっくり魚を見ることなどできなかった。
 佐藤さん、ありがとうござました。

 石巻の尾形清雄さん。
 尾形清雄さんは『天佑丸冷凍冷蔵庫』の社長であるということも知らなかった。

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尾形清雄さん。この笑顔に甘えてしまうのだ。

 だいたい、ボクは尾形さんにいろいろ教わっていただけ、それなのに石巻でのおいしいものをたくさんご馳走して頂いた。また石巻を案内してもいただいて感謝のしようがない。
 尾形さん、ありがとうございました。

 石巻では『石巻魚市場』社長の須能邦夫さんにはお世話になりました。
 魚を手に入れるに当たっては『カネキ』さん、ギンザケのことは向山さんにお聞きしました。

 作家山口瞳の言葉に「旅とは迷惑をかけることだ(正確ではない)」というのがある。
 まことに正しく言い得て妙。ボクの旅は「多くの方達に多大な迷惑をおかけする」、すなわち「迷惑旅行」そのものだ。
 今回の旅で迷惑をかけた方達に、まことに感謝。

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明日は気仙沼、魚市場を見る。
そのまま石巻に移動して、
明後日12日は石巻で水揚げを見ます。
石巻ではおいしいものも食べたいと思っています。
木曜日には帰宅する予定です。
できるだけたくさんの魚貝類が見たいと思っています。


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 その昔、ニシンの卵巣「数の子」を黄色いダイヤと呼んだ。
 今ではキチジ(きんき)を「赤いダイヤ」と呼びたいくらいの高値になってしまっている。
 このキチジを買い求めるのは勇気がいる。それこそ本来高級魚の壁である2000円(卸値でキロ単価)でも安いなと思わず買ってしまうだろう。でもこれがまともなものだった試しがない。それこそ仲卸の店先で数日経ったものであったり、またとった時点でなんらかの問題があるものばかり。
 もしも勇気を振り絞ってキチジを買うなら4000円以下には手を出したくはない。

 そして今回のキチジの値段が4800円なりなのだ。平日で、海は穏やかで魚も多い。
 どこにも魚が高騰する要因がないというときの4800円は手堅い値段だと思われる。しかも1匹あたり500グラム見当の大振りのもの。キチジとしては最上級ではないか。
 買い求めたら、1本3000円を出しておつりが少々。

 この高すぎる魚をどう料理するかというと、まずは半身を『市場寿司 たか』で握りに。
 半身は我が家で皮霜造りで楽しむ。
 普通は三枚に卸した身を主役とする。ところがキチジは粗の方が主役である。
 丸のまま煮つけにするのがいちばんいい。でもこれがなかなか難易度の高い料理なのだ。道具も選ぶ。
 だから身の方は塩焼きか皮霜造り(刺身)にして、残った粗(あら)を煮つけにするのだ。
 キチジの魚としての特徴はなんといっても最強の「煮つけ魚」であるという点。
 もしくは塩焼きにしても最強かもしれない。
 ことほどさように熱を通すことで持ち味が生きてくるという魚も数多く、その頂点にある何種類かの内でも覇者(覇魚)のひとり(一匹)なのである。

 肝心要の肝、粗をかるく湯通し。よごれをおとして水をよく切っておく。
 鍋に味醂(みりん)、酒、醤油、水を煮立てる。
 そこに粗を放り込んで、あとは強火のままに短時間で煮上げてしまう。

 キチジの煮つけを文字に代えるのは至難の業。
 例えば「うますぎる」なんてのは低級だし、「至味」もいやなのだ。
 それで「無言にさせられる味わい」だとしておこう。
 この味わいの中心にあるのは粗からこぼれ落ちてきた旨味、脂である。
 キチジは身にタンパク質が少なく、脂やコラーゲンのようなものが均質に混ざっている。
 熱を通すと、これが少なからず煮汁に溶け出す。
 この煮汁と身と皮と肝を搦めながら口に放り込むのだ。
 甘味が感じられるが、それは味醂からのものよりも粗からのものが圧倒的に多い。
 粘質とも言えそうな皮の、うまさの濃厚であることは言語に直しようがない。
 だから終始無言で食べきるのが、キチジの煮つけなのである。

 残念ながら、きんきの煮つけに合う酒はない。
 さて、お父さんの酒の肴はどこにあるのか?
 それは粗の粗と残った汁で作る骨湯にある。
 これを飲みながら、旨口の原酒のロックというのがボクの理想だ。

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 2日連続でナガウバガイが入荷してきた。
 ナガウバガイといっても誰も知るはずがなく、見たこともないに違いない。
 それでも実際に流通してきているのだから立派な食用貝である。

 今のところ、ナガウバガイを出荷してきているのは福島県相馬市原釜漁港からだけ。ここにはたくさんの底引き網漁船があり、膨大な種類の魚貝類が水揚げされている。
 そこにはキチジ(きんき)、ズワイガニ、ケガニのように主役級のもの、ナガウバガイ、クサウオのように隅っこに隠れて目立たないものまで、ありとあらゆる生き物が市場の床にちりばめられている。

 ボクの趣味からして、主役級よりも脇役に目がいく。
 その脇役にあってももっとも目立たないのがナガウバガイである。
 面白いのは漁港で選別する方達に、ナガウバガイを話しても地方名が出てこないことだ。売れなくてもサブロウは「とどき(ととき)」だし、サメハダヘイケガニは「三度笠」なんて呼び名がある。
 ちゃんと食べられる貝なのに「青柳だっけ」なんて不思議な答えが返ってくる。
 まあ、とにかくあまり売れない貝なんて興味がないようだ。

 じゃあ、ナガウバガイがまずいかというと、そんなことはなく
「うめえ、け(貝)だよ」
 ちゃんと味の方は地元でもご存じなのだ。

 主に食べる部分は足である。ここを開いて、軽く湯がいて食べる。
 バカガイ(青柳)のような独特の渋みがなく面白みに欠けるが、やはりうまい。
 そして残ったヒモや水管をみそ汁にする。
 昆布カツオ節のやや薄いだしに、ヒモ水管を放り込み。
 湧いてきたらみそを溶くだけの簡単な料理。
 ここに三つ葉を散らして、冷や飯にぶっかける。
 冷たい飯に熱いみそ汁というのがいいのだ。
 後はとにかくジャバ、ザバと一気にかき込むだけだ。

 遠藤哲夫さんの本に『ぶっかけめしの快楽』というのがあるが、まさにぶっかけ飯を食うと独特の爽快感に襲われる。
 もしくは「飯を食ったぞ」という満足感に満たされると言ってもいい。
 ちなみに深川飯というのがあるが、これももともとは貝の産地であった深川あたりで「有り余る貝でみそ汁を作り飯にぶっかけた」というのが発祥である。
 すなわち「ぶっかけ汁」は二枚貝で作るのが王道なのだ。

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「酢みそ合え」と「ぬた」、違う料理なのかというと、同じものだと思っている。「饅」という文字をあてるが、実は「沼田あえなます」が語源だ。ようするにみそと酢でもって沼のようにぬかるむ田を思わせる和え衣をつくり、野菜と生の魚貝類を合わせたもの。また「なます」は醤油誕生(醤油が人口に膾炙する)前、生の魚貝類の代表的な食べ方だった。

 この「ぬた」を我が家では日常茶飯事につくる。
 野菜も魚貝類も季節季節のものを使う。
 毎味水産さんに三河湾のトリガイをいただき、そのままいただき、そしてぬたにして楽しむ。
 季節の野菜はつるむらさきを使った。
 つるむらさきはもともと東南アジアなどを原産とする。
 これが夏野菜としてこの国に定着したのは何時の頃だろう?
 梅雨入りして、ほうれん草やアブラナ科の野菜がとたんに味を落とす。
 そんなときに、まさに救いの神のように出てくるのが、つるむらさき。
 夏に食べて、これほどうまい野菜もないだろう。
 独特の風味は、貝などと取り合わせて、まことに美味。

 作り方は書くまでもないが、酢みそ作りから。
 みそと砂糖を合わせて、すり鉢ですり、すこしずつ酢を加えていく。
 このとき煮きり味醂(みりん)、昆布だしを加えるのは料理屋の料理だから、我が家は単純に作る。
 トリガイは開いて湯がいている加工品だから、そのまま水分をよくとる。
 つるむらさきはゆでておく。
 つるむらさきとトリガイを合わせて、食べる直前に酢みそで和える。
 我が家の悲しいところは辛子酢みそにできないことだ。
 大人としては、なんだかもの足りぬ。
 でも、ぬたは子供達の大好物でもある。

 さて、ぬたを魚に酒を飲む。これほど「酒の味」を浮き立たせる飲酒法もないだろう。
 毎味水産のトリガイは冷凍流通するものなのに貝の旨味、甘味が強い。
 そのまま食べて美味なのだから、ぬたにしてまずいわけがない。
 合わせる酒は高知県の亀泉、この辛口の酒が梅雨のひぬまにうまいな。

毎味水産
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 基本的に毎日だしをひく。中心になるのが昆布+サバ節、カツオ節、めじか節(ソウダガツオ)、マアジ煮干し、ひらご(マイワシ)煮干し、煮干し(カタクチイワシ)の6種。ここにときたまトビウオ、青森県の焼き干し、ウルメ節、マグロ節、冬季限定でハゼの焼き干し、また懐具合のいいときには故郷徳島県の干しエビなんてものも使う。要するに年間を通すと多種多様なものを利用しているのだ。
 最近、よく利用しているのがアジ煮干し。これは小さなマアジをゆでて干しあげたもの。八王子綜合卸売協同組合「やまさん」で買い求めているのだけど、安いし、品質がよい。

 アジ煮干しの特徴はうどん、そうめんなどの汁によく、麺食いの我が家には重宝なものだ。
「そういえば、よく使っているのに、産地や製造メーカーに関して無関心であった」
 そう思って、「やまさん」の店先にあったアジ煮干しの箱を見ると、なんと島根県大田市のものであった。

 島根県大田市仁摩町の「山根商店」。ここに電話番号があって、自宅と鮮魚店の2つが印刷されている。
 どうやらそんなに大きな会社とも思えず、たぶん鮮魚店も兼ねる小さな商店であるようだ。

 さて、ここでアジ煮干しでのだしの取り方を書いておく。
 我が家ではだしをとる6時間以上前、鍋にアジ煮干しをある程度細かくしたもの、日高昆布を入れて、水に浸しておく。
 それを火にかけて、ゆっくり温める。
 だいたい30分ほどで沸騰直前となるように。
 沸騰するかな、というときに火から下ろして、ザルで漉して、だしができあがる。
 うどんのだしにするときは、ここに味醂(みりん)、塩、薄口醤油(しょうゆ)で味付けする。
 かけそばのつゆなら、味醂、濃い口醤油、砂糖で味付け。めじか節、もしくはカツオ節で追い鰹をする。

 ただしアジ煮干しはうどん、そうめんには合うが、そばには合わない。
 隠岐島後に、「隠岐そば」というのがあって、ここではアジ煮干しでつゆを作る。
 でもアジ煮干しでは淡白過ぎてそばの重みに負けるのを、焼いたマサバや、サバの缶詰でおぎなっている。

 島根県には今年はたびたび行きそうである。山根商店に立ち寄る機会もなきにしもあらず。
 大田市の仁摩は底引き網などの漁港があり、それをみて山根商店でアジ煮干しを買い込んでくるのもいい。

山根商店 島根県大田市仁摩町仁万1987-89
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 八王子魚市場に「京都産イワガキ」というのがあって、これが舞鶴湾であがったもの。
 手に取ってみるとテトラについたものではなく、岩にへばりついていたものらしい。
 とても厚みがあり、貝殻の表面はきれいに掃除されている。
 火曜日には同じく舞鶴湾の養殖トリガイのうまさを堪能して、今回はイワガキに挑戦となる。

 軽く水洗いして、貝殻を開けてみる。すると、驚くほど厚みのある身が出てきた。
 こんなとき「イワガキも旬なのだな」と夏を感じてしまう。

 イワガキは貝柱を目がけて貝棒を差し込み、貝柱を切り、フタを開けて、身自体も貝殻から、これまた貝柱を切るようにはなす。
 それから軽く細かな貝殻やなどを真水で洗い流す。

 この舞鶴産のイワガキがうまかった。
 関東では濃厚な味わいが好まれるが、舞鶴産のものは「適度に濃厚」である。
 それよりもなによりも身に弾力があり、ヒモまわりの筋肉はシコっとしている。
 たぶん、舞鶴湾にはよき河川が流れ込み、それでいて海がきれいなのだろう。

 関東に住んで、なにがありがたいかというと、北は北海道から南は鹿児島まで、様々な産地の水産物が食べられることだろう。ただし、その土地土地の魚貝類を食べたからと言って、「その地へ行ってみたくなる」ということは希である。
 今回の舞鶴産イワガキは、その希な例。京都府舞鶴市舞鶴湾に行ってみたくなった。

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 どこを探しても出てこない。広島県の食に関する本。
『聞き書き 岡山の食事』はあるのに広島県はどこに行ったのだろう。
 広島県の郷土料理で煮魚を焼くというのを、調べたいと思っているのだ。

 料理名は「はぶて焼き」。
 これを初めて食べたのが、今から30年以上も昔のこと。
 その頃住んでいた小岩のアパートに友達が、なんと煮魚を持って現れた。
「実家から送ってきたんだよ、魚焼き(器)あるか」
 なんといきなり、その丸のまま煮つけた魚を焼き始めたのだ。
 彼の実家というのが広島県。
 この広島県の郷土料理の名が「はぶて焼き」というのはNHKのテレビ番組で後日知ったこと。
 ちなみに当日焼いた魚は無残にも魚焼き器にへばりついて、ぼろぼろになってしまった。
 でもこれがとてもうまかったのだ。
 魚は広島県での「めばる」、すなわちカサゴであったはず。
 以来ボクにとって「はぶて焼き」は定番料理のひとつになっている。
 ボクの工夫は、金ぐしに刺して焼くようにしたこと。
 またコツは煮つけた魚をひと晩寝かして、身を固くしめることだ。

 今回の「はぶて焼き」の材料はキュウセン。ここ連日入荷してきている。
 まずは煮つけで楽しむ。
 キュウセンの身は柔らかいので、魚のタンパク質を固める作用がある味醂を多く使う。
 水洗いしたキュウセンを湯引きして、味醂(みりん)、酒、醤油を煮立たせたところに静かに入れて、後は一気に仕上げていく。
 キュウセンは関東でこそ省みられない雑魚だけど瀬戸内海ではれっきとした食用魚。
 値段も決して安くないと言う。
 これをひとばん寝かせると煮汁は煮こごり、身が硬く締まる。
 金ぐしに刺したら、表面を焦がすように焼き上げる。
 この「はぶて焼き」は煮魚のうまさと、焼き魚の味わい香ばしさを足し算した料理ではない。
 味はあくまでも煮魚であって、そこに香ばしさが加わったものと考えて欲しい。
 これは美味とも「うまい」とも違う、まことに心和む味わいなのである。
 合わせる酒は出来うる限り安酒でよい。

 語源は、その昔、魚がとれたら大量に一度期にまとめて煮てしまっていたのだろう。
 こうすると保存がきく。
 これを食べるたびに焼くのだ。
 保存して置いたものを、ただ焼くだけでいい。
 これが「手間を省く焼きもの」となって「省手焼き(はぶてやき)」になったのではないだろうか?
 さて、我が家の広島県に関する文献が一向に見つからない。
「責任者出てこい。どうして必要なときに必要なものが出てこないんじゃ。バカもん」
 人生行路の声が聞こえるようだ。

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 最近、島根県浜田市の水産物ブランド「どんちっちあじ」をよく見かける。
 くわしいことは省くが、4月から8月のマアジであり、脂が15パーセントである。
 船籍は問わず浜田漁港に水揚げされたもの。というのが基本的な取り決めとなっている。
 脂の含有率などは県の水産技術センターが試行錯誤の上、測定する器械を開発するなど、島根県一丸となっての取り組みである。

 ただし「どんちっち」がわかりづらい。
 聞けば面白いのだ。これも詳細は浜田市のホームページを見て頂きたいのだけど、八王子市にある八王子総合卸売センター『総市』で売るとき「客に聞かれると困るな」なんて店員がぼやいている。
「大きいのも小さいのも“どんちっち”だろ。何が違うの。教えろよ」
 売場の責任者であるミノルちゃんに聞かれて色々説明したのだけど、
「じゃあ、なぜ“トロあじ”とか“脂たっぷりあじ”にしないんだ」
 わけがわからん、なんてボクが攻撃を受けた。

 個人的には「どんっちっち」は面白いと思う。築地荷受けでも名称だけはすぐに広がったということだし、今現在「どんっちっち」を探す仲卸もいるという。ここ数年で確実に「高値で売れる荷」となるだろう。
 ただし、「どんちっち」の意味合いがわかって買っている人が、どれくらいいるのかというと疑問符がいっぱい湧いてきそうだ。
 この「どんちっち」のラベルで何が欠けているかというと、書かれている、「島根県西部で漁獲された新鮮なお魚です」というのは情けないほどダメ。まったくの無駄コピーだ。
 必要なのは「旬の4月〜8月のもの」、「脂質10パーセント以上でうまいから“どんちっち”マアジなのだ」ということと「島根県浜田漁港水揚」の3つだと思う。
 今回のものは船名「海幸丸」までのっていて魅力的だけど、魚が小さいこと、「ブランド魚」なのだから「関あじ」のように鮮度もいいだろう、と思った人に誤解を受けていた。

 入荷してきて一日経ってしまっていたので、フライと一夜干しにして食べてみた。
 フライは脂がなくてもうまいだろう、そんなことを考えている人、いませんかね。油を使った料理なのに、フライはある程度脂がのっていないとダメなのだ。これはパンにショートニングを加えるのと同様の理由だ。
 このフライが絶品であった。そして一夜干しは脂(油)が体内からにじみ出てきて、表面が揚げ物のように香ばしく仕上がった。当然、こちらもうまかったねー。
「どんちっちあじ」の味は最上級である。

どんっち
http://www.city.hamada.shimane.jp/kurashi/nousui/suisan_don.html
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 八王子魚市場に立派なトリガイが入荷してきていて、一見しただけで「これはただ者ではない」なんて思わせるほどにきれいだし、大きい。
 値段は卸値で1個380円だという。トリガイは原則的に1個で1個分の握りとなるわけだから、ネタの原価が380円プラス税。これは普通のお寿司屋さんではとても手が出ない。
 産地は京都府舞鶴市。箱には「丹後とりがい」の文字があり、脇には「京都 京都ブランド産品」のシールが貼ってある。この箱にしっかり産地や、トリガイに対する意気込みが表示されているのがいい。
 日本海のトリガイというのもあまり目にしない。好奇心から買い求めて食べてみる。

 ちなみに東京湾、三河湾などでは、これほど大きくは育たない。なぜならば毎年夏期に大量に死滅してしまうからだ。すなわち、これらの地方ではトリガイは一年で生育、食べられていることになる。

 貝殻をあけると、足がとにかく大きい。しかも砂、泥などの汚れがほとんど見られない。
 気になってネットで調べると、この舞鶴湾のトリガイは養殖されたものだったのだ。
 さて、個人的には二枚貝などでは養殖、非養殖の味の違いはない、もしくはほとんどない、と思っている。
 とにかく、足を開いて、軽く湯引きして食べてみる。

 大きいから甘味が強いとか、味がいいというわけではない。いたって鮮度のいいトリガイで、当然、甘味も旨味も上々なのはあたりまえだ。
 例えばキロ当たり1000円ほどの小振りのトリガイと比べても味に違いはないだろう。
 あえて違いがあるというと、やはり見ためのよさだろうか。

 値段からして、なかなか手が出ない代物ではあるが、刺身にして美しく、また筋肉に厚みがあるので、食べ応えも充分にある。
 たまにはこのような贅沢もわるくない。

JF舞鶴市 舞鶴市漁業協同組合
http://www.maizuru-kanko.net/menu/food/torigai/
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 岩手県産のマツカワガレイを見つけて、値段がキロ当たり2000円というので、すかさず買い込む。
 マツカワガレイはカレイ科ではもっとも高価なもの。カレイ目ではヒラメを遙かに凌駕する値段をつける。
 八王子総合卸売センター『マルコウ水産』で、なぜキロあたり2000円で売られていたかというと、小振りである、しかも大きさにバラツキがある、そんな理由からだ。
 そのなかでも大振りなのを買うと、ちょうど500グラム弱で千円札でおつりが数円くる。
「じゃあ、また明日ね」
 クマゴロウに声をかける。
 すると、
「いちばん小さいのあげるよ」
 いいこと言うね、クマゴロウ。
 ありがとう。

 大きめのヤツは刺身にして、粗を潮汁に。小さいのは姿揚げにする。
 肝をゆでて添えたマツカワガレイの刺身がうまかった。
 小さくても、さすがにカレイの王様、もしくは王女様だ。
 白身で上品なのに旨味が濃く、シコっとした食感が感じられるのは活け締めならでは。
 潮汁もクセがなく、それでいていいだしが出ている。
 滋味豊かである。
 潮汁を飲みながらも、辛口の酒がクイクイ飲めるのが、ちょっと困ると言えば困る。
 姿揚げだって、さすがに美味だな。
 とくにうまいのが鰭の周辺部。まるでポテトチップスのようにパリパリして、しかも縁側の筋肉が味わい深い。
 小振りのマツカワガレイだけで、「こーんなに夕食が豪華に感じられるのだなー」と、思い知った夜となった。

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 最近、関東ではコイを食べる機会は少ないように思う。例えば明治期や江戸時代には日常的に食べられていたものが、いつの間にか水産物としては隅の方に追いやられてしまっている。東京でのコイを食べる習慣の痕跡を見るのは下町などの居酒屋にしかない。
 また築地などでもウナギやドジョウがあるのに活けのコイが見受けられない。また都心に活けのコイを買える場所がない。
 ボクの基本的な考えは、伝統的な食文化を捨てるな、しかも新しい食文化の開拓も怠るなということ。
 その伝統的な食文化でも淡水魚を食べる文化の衰退が目立つ。

 そんななかにあって山形県寒河江市『丸原鯉屋』さんのコイの加工品は手軽で、しかも美味であることから、淡水魚を食べる文化が衰退する歯止め的な加工品となっている。
 今回のものは知人にいただいたもので「鯉ぶかし」というもの。
 普通、コイの甘露煮というのはウロコをつけたままの丸のコイを大胆に輪切りにして、甘辛い煮汁の中でそれこそ時間をかけてこってりと煮上げたもの。千葉県利根川周辺、茨城県霞ヶ浦周辺などで日常的に食べられているものだ。
 その煮る手前に蒸すという工程を加えたのが、「鯉ぶかし」であるようだ。ただし、味つけは千葉県などのものと比べて軽く、コイの旨味が生きていて洗練されている。

 レトルトなので熱湯であたためると、器に盛るだけ。
 この一切れの「鯉ぶかし」がなんともきれいである。
 切り身から盛り上がるように見えるのが卵。コイの卵は魚類中でももっとも美味なものなのだ。
 卵を箸で割るように取る。これを口に入れるとホクホクして、甘味があるのだけど、これは調味されたものではなく卵そのものからくる甘味で、後から甘辛い味つけが加わってくる。
 味わいは卵よりも身の方が濃くて、皮目がねっとりとして微かにゼラチン質を伴っている。
 さて、味つけには昆布や椎茸も使われている。それなのにコイの味わいが表立って、グアニール産やグルタミン酸などの旨味成分はあまり感じられない。この調和のとれた味つけが好ましい。

 山形県内陸部の郷土料理の柱ともいえそうなのがコイである。この「鯉ぶかし」などの加工品もいいのであるが、こんど実際に山形で鯉料理を堪能したくなってきた。とくに夏がきて恋しくなるのが「コイの洗い」。この洗いで、山形の淡麗辛口の酒というのは魅力的だ。

 最後に、ボクの個人的な意見に過ぎないのだけど、今、この国で失ってはいけないもののひとつが「淡水魚を食べる文化」である。今時、生まれてから一度もコイを食べていないという人も多いのではないか? その生まれて最初に食べるコイが『丸原鯉屋』の製品だったら、淡水魚食入門もたやすく出来るだろう。

丸原鯉屋
http://www.maruhara.biz/
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 ボクの生まれ故郷は阿波の徳島。その徳島県松茂町からイワガキが入荷してきていた。
 過去に那賀川町のものを見ているが、これが二回目となる。たぶん、探せば徳島の海岸線のどこにだってイワガキはあるに違いない。
 松茂町は丁度徳島市の北にあり、鳴門市の南にある。こんな説明が必要なくらいに知名度が低い。徳島空港がある場所という説明の仕方もありだろう。
 実は徳島市からすると、海水浴の浜があったりして、身近な行楽地かもしれない。ちなみにボクが初めて海で泳いだのが、この松茂町だ。

 さて、徳島県産のイワガキ、箱に入ったのをひっくりかえして選ぶ。すると全体にまん丸いのが多く、やや平たい。これは「岩」ではなくテトラポッドについたものに違いない。
 いまのところ、コンクリートに付いていたからと言って、まずいとは感じたことはない。
 これが八王子魚市場で1個480円であった。この直径15センチやや大振りであることからすると平均的な値段である。
 表面には多種多様な付着生物がおり、貝殻にイシマテガイが潜んでいた。

 貝殻はもろいタイプ。イワガキには貝殻の硬さがいろいろあり、例えば日本海隠岐などのものは天然、養殖ともに非常に硬い。対するに千葉県銚子産、伊勢湾産などは柔らかい。徳島、銚子、伊勢湾の共通点は川の流れ込みがあるということ。海水の塩分濃度や川からの栄養塩などで貝殻がどのように変異するのか、調べたら面白そうだ。

 貝殻が柔らかいために開けるのは簡単至極。ずぶりと貝剥き(貝棒)が入っていく。
 出てきた軟体は貝殻の平たさの割に膨らみがある。
 軟体の汚れや貝殻を冷水で軽く洗う。
 今回はこれも徳島県産スダチを垂らして、一気に口に放り込む。

 イワガキ独特の濃厚な甘味と苦みがどっと口の奥の方に広がる。そこに甘味が追いかけていくのだけど、ここで咀嚼する軟体が適度に弾力とシコシコ感があるのがいい。
 残念ながら他の産地からして突出したうまさは感じられないが、「阿波のイワガキええじゃないか」とうれしくなる。

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 鹿児島県のわかしおさんから見事なコショウダイが送られてきた。『市場寿司 たか』でさばいてもらい、刺身や握りで堪能した。
 これが市場関係者もうなるほどに美味。
 シコっとした身に、程良い甘味と旨味が調和して、朝っぱらから酒のいっぱいも欲しくなるという味わいであった。

 さて、これほどの美味であるのに、知名度が低い。低すぎるのだ。
 関東の市場を見て歩いていても決して珍しい魚ではない。
 八王子総合卸売センター『高野水産』などでは毎日のように入荷をみる。
 それなのに『市場寿司 たか』でネタとして扱うに注文してくれる人が皆無なのだ。

「その辺の中途半端な天タイ(天然のマダイ)よりも何倍もうまいんだけどね」
 たかさんが首をひねる。
 まことにこの国の人は魚にしても野菜にしても、目新しいものを嫌う傾向が強い。
 何時になったら関東でも、コショウダイが高級魚の仲間入りが出来るのか前途は暗そうだ。
 ただし最近、このような状況を見越して、珍しい魚を積極的にメニューに載せている店が出てきているという。
 このような魚は定番魚よりも安く買えるし、またお客の「なんか珍しいのない?」などというリクエストにも充分すぎるほどに応えられる。
 きっとコショウダイなんてのを積極的に仕入れる店って、ある意味、根強い人気を持つのではないだろうか?

若潮便
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掲載種 1978


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 標準和名のニザダイを「にざだい」と呼ぶ人はほとんどいない。ほとんどの地域で「三の字」と呼ばれ。三重県尾鷲市などでは敬愛を込めて(?)「三公」なんて呼ぶらしい。

 冬には美味であるが、夏の三の字には二の足を踏む。ときにもの凄く臭いのがいるからだ。
 今回のものは鹿児島県南さつま市笠沙の、わかしおさんからきたもの。けっして臭い個体には思えないが、包丁を入れるに躊躇するものがあった。それで今回は「丸投げ」することにした。
 さて、丸投げ先は八王子総合卸売センター『さくら』である。
 いたって良心的な中華料理屋である『さくら』を定期的に悩ますのは、誰あろうボクかな? と思っている。なぜならときどき手に負えない魚があると「なんとか料理に出来ませんかね」なんて強引に持ち込むからだ。
 ちょっと困ったような顔をしながら、『さくら』の店主まささんはいろいろ考え苦しみ、いつも絶品料理を作ってくれるのだから凄いね。

 今回のニザダイも、
「思ったより臭いが強くてこまったよ」
 なんて言いながら、2皿の料理になって出てきた。
 片や『さくら』特製スープでの煮込み。片や甘酢煮込みである。
 今回の試食にはちょんまげ切り落とし男のコトヤさんと、たかさんが加わる。
 まず出来上がった中華煮込みに3人とも夢中になった。

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 もちろんスープがうまいから興奮しているのだけど、これほど難敵のニザダイの身がうまいのである。
 たぶん一度揚げた身を、シイタケ、キクラゲや野菜と煮込んだもの。
 説明すると単純だけど味わいは奥深い。
 別に香辛料を大量に使っているわけでもないのに、ニザダイの臭みは皆無。
 しかも、たかさんをして皿まで嘗めさせるとは。
 続いて来た甘酢煮込みも、うまいことはうまかった。

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 ただ、これはニザダイの身の存在感がなくなっている。
 それでもやはり最後にはたかさん、皿まで嘗めていたんだから、優れた一品なのだ。

 夏には問題有りのニザダイが、これほどの美味に生まれ変わろうとは驚きだ。
 さて、次回はどんな難敵を『さくら』に持ち込むべきか、わかしおさんと作戦会議を開く。

八王子の市場に関しては
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html
わかしおさんの「お魚三昧生活」
http://geocities.yahoo.co.jp/gl/komendago
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 オニオコゼが旬を迎えている。活けを買いたいと思うものの、とても手が出ない。ちょっと安い野締めを1本手に入れて、久しぶりに唐揚げにする。
「なーんだ唐揚げか」とバカにするなかれ、オニオコゼの身は揚げると魚ではなく餅に変化するのだ。そして周辺部のびろびろした皮はかき餅のような、カリカリっとした香ばしいものだから、まさに上等の揚げ餅そのものだ。
 しかもだ、そこに魚の旨味がたっぷり存在する。これこそ唐揚げ界の王様そのもの。

 作るのはちょっと大変。
 背鰭を切り落とす。プロは包丁で切り離すのだけど、調理バサミが便利。
 背鰭には強い毒があるので要注意。
 そして背開きにして、ワタを取り、中骨を外す。
 ここでよく水分を拭き取り、片栗粉をつけて二度揚げするのみ。
 揚がったら振り塩。
 背開きにして揚げると、まるでふくら雀のように本体が丸まる。

 このふっくらと丸い身を口に入れると餅っとした食感なのだ。
 中からジュワっとオニオコゼの旨味が吹き出してくる。
 この香ばしいなかに、餅っとした食感の身と魚の旨味が今残一体となったところに、「虎魚の唐揚げ」のよさがある。

 残念ながら、唐揚げは日本酒をやる静謐さには欠ける。
 むしろビールといきたいところだ。

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 福島県相馬市原釜漁港から、それこどダサッっとマドカエゾボラが入荷してきた。見てすぐにはマドカエゾボラなのかユウビエゾボラなのかわからなかった。
 帰宅して「マドカだとは思ったものの」念のために千葉県立中央博物館の黒住耐二さんに見てもらった。結局生息域からして「マドカエゾボラでしょう」となった。
 マドカエゾボラは食用というよりも収集の対象となるものだ。
「これを食べるべきか? それとも貝の収集家に差し上げるべきか?」
 前回、マドカエゾボラを手に入れたときは、たった2個体だけだった。それが今回はどさっとあるのだ。
 これなら差し上げても余りある。いろいろ食べてみようではないか?

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