マイワシ一匹3000円?

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「お父さん、イワシが一匹3000円だってニュースやってるよ」と子供が呼びに来た。忙しいのでニュースは見なかったが、本当に3000円という値段がついていたんだろうな? と昨今のイワシの値段を見ていてそう思った。先月の八王子でのイワシの最高値は4000円(1キロあたり)である。この同じ日のキチジ(きんき)のキロ当たりの値段が3800円だからそれを上回ったのだ。ちなみにキチジはもっとも値の張る魚の代表選手である。
 気になって築地の尻高鰤さんにマイワシの最高値を聞いてみた。すると「相対取引(競りをしないで話し合って値を決める)ながらキロあたり7500円見当かな。まあこれで突出した値段が出ても(キロあたり)8000円だろうね」という。この高値を呼ぶマイワシというのが大羽イワシと呼ばれる大型のもの。24〜5センチ、230グラムから250グラムのもの。これなら5キロで25匹入っているわけで1箱4万円として1匹2000円である。これは荷受け(全国から魚貝類を集めてくる会社)での値段であり、仲卸(卸)で利潤を乗せる。高すぎる物にはあまり利潤は乗せられず、けっして得にはならない商売であるが、1匹2000円代の前半、2500円くらいにするとして、小売りでは3000円以上になる。とするとニュースは正しいということになる。でも正しくないんだね、これが。
 だいたい1匹250グラムというのは特別なマイワシである。築地だと店先に飾って拝みたいくらいの代物。この特の上の特上でマイワシの値段を考えるのはおかしいのだ。この特上の真下はせいぜいキロあたり3500円(魚体もやや小振りなので一匹700円)ほどだ。しかも春から初夏はマイワシの味がいちばん落ちる時期。産卵期の大量に漁獲しても卵を抱えたまずいマイワシが出回る。そして産卵後、脂も漁獲量も落ちているのが今なのだ。この時期に特のつくマイワシを食うなんて愚か者だ。賢い料理人は当然そんなものはやめて、旬とは関係しない、しかも味のいい小イワシ(小羽 50〜70グラム15センチ前後)でよしとする。これならキロあたり600〜1200円である。仮に高値の1000円だとしても高くて一匹70円なのだから、初夏には小イワシを食えということだ。そして6月下旬にはマイワシの値段も沈静化する。うまい時期に、あまり無理をしないで食いましょうね、うまいものは。
 渡辺栄一の名著『江戸前の魚』に「マイワシの旬」という項がある。そこにいちばん脂ののってうまい時期は6月下旬から1月までとある。しかも漁獲量と合わせてもマイワシは夏から秋にかけての魚なのだ。またマイワシは一定の周期性をもって豊漁、不漁を繰り返しているとしたら、今がどん底。マイワシを食べる時期にもっと気を配れば一匹3000円のマイワシに驚く必要もないというのがわかる。
 また、この高値に浜は決して喜んでいるわけではない。結局とれないのだから、浜の寂しさは変わらない。この詳細は気仙沼のmakoさんのブログにも出ていた。しかし浜値でキロ/5500円というのはダレが買うんだろうね。

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アングラな魚日記
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このページは、管理人が2006年6月 6日 08:37に書いたブログ記事です。

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