ボクの沼津行は深夜に魚市場に着いて朝方には帰途に着く、あまりにハードな、そしてせわしない旅となる。そんなとき初めて「双葉寿司へ行きましょう。11時まで待つのは大変なんですが、おいしいんです」とヘンリーブロスの方から言われて、たっぷり駿河湾の美味を堪能した。
沼津魚市場周辺の飲食店は今では明らかに観光地化がすすんでしまって、素朴さはまったくない。この観光地化というのはかれこれ20年くらい前から始まっていたように思えるのだがいかがだろう。それが言うなれば「沼津で地魚を食べる」というのが定着して、休日には行列が出来るようになったのはここ10年ほどのことだという。その沼津魚市場周辺でもっとも初期の頃から「市場の寿司屋」から「一般客相手の寿司屋」に変身を遂げていたのが「双葉寿司」なのだ。それが証拠にこの店の開店は11時、しかももっとも客が押し寄せるのが休日なのである。
そのために少々敬遠していたのだ。「観光地化されたところはよしましょう」なんて沼津っ子飯塚栄一さんになんどもお願いした記憶が蘇る。その「観光地化された」というのが決して悪い方向性ではないというのを思い知らされたのである「双葉寿司の握りの旨さ」がために。
今回は休日のために早めに「双葉寿司」のカウンターに陣取り、ネタケースの彩り、また職人さんとの会話を楽しみながら一時を過ごす。ヘンリーブロスのE氏は沼津に来るや真っ先に「双葉寿司」に飛び込んだ御仁である。彼の若さ故の偏見のなさがうらやましいと思ったのは最初の一かんを食べたときである。
最初の一かんはゴマサバをお願いした。身幅が10センチを遙かに超える巨大なゴマサバであり、驚いたことに明らかにマサバとは違う旨さが舌に感動を打ち付けてくる。
名物の「かまとろ焼き」、「小鰺」、「〆鯛」、「トコブシ」と一手間加えたネタがみなよし。「ハガツオ」、「マイワシ」も脂がのってネタの仕入れの確かさが感じられる。
「これじゃ、ちょっと食べても支払が大変でしょ」
これは普通ではとても聞けないことなのだが、今回は沼津魚市場仲卸の理事を務める菊地利雄さんが一緒なので大丈夫なのだ。
「まさか、普通に握りを食って、足らなきゃ追加してもせいぜい3500円見当。東京の築地よりぜんぜん安いでしょ」
これなら交通費を出しても充分に価値がある。
それで改めて菊地さんに沼津の寿司屋事情を聞くと、
「今では市場関係者に聞いても『うまい寿司屋』はそれぞれ違うんですよ。それくらい沼津にはいい寿司屋が多いんです」
このように沼津に寿司の名店が増えたのも最初に「双葉寿司」ありきであるようだ。
「今じゃ軽く食って10000円なんて店もありますし」
寿司屋が増えて、今では寿司の値段にも高低があり、また仕込み方にも独自の個性がある。これを食べ歩くのも沼津の楽しみ方のひとつである。
ちなみに沼津っ子の飯塚さんに連れて行ってもらっている「たか嶋」もこの店の支店なのである。 「双葉寿司」よりもちょっと気軽に寿司をつまみたいなら「たか嶋」で朝の寿司という手もある。
おそるべし沼津の寿司屋なのだ。
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