日本橋三越前駅で下りて、かつお節の大和屋近くの地下鉄出口からすぐ路地に入る。入ってすぐの『六文そば』でげそ天そば。そのまま見当で隅田川を目差すと小舟町になる。ここで雑事。
すぐに終わって、今度はやや南に下っていく。味わいに欠けるビルの間を縫うように出てきて見つけたのが堀留町、三光稲荷神社。江戸時代に爆発的に増えたと言われる稲荷神社、今でもこのような細道にひっそりと見つけられる。この稲荷も薄暗い三光新道にひっそりと寂しくある。ちなみに落語『百川』に出てくる常磐津のお師匠さんが住むのが三光新町。料亭「百川」は日本橋室町であって、となりの小田原町とともに江戸時代に魚河岸のあったところ。
日本橋掘留町にあった可愛らしい建物。昔、絵本で読んだことのあるような光景。この絵本のタイトルが思い出せない
おいおい、この社名、本気でつけたのかよ!
そのまま南下するといつの間にか電信柱の町名が「人形町」に替わる。人形町、そこは都心とは言え別天地をなしている。めくるめく白熱灯、大通りの交差点角にあるのが古めいた履き物屋というのも胸を打つ。
交差点の履き物屋。ここはあくまで「履き物屋」である
大通り沿いに老舗の大きな木造建築、路地に入るとモルタル建築が多い。内海隆一郎の小説の世界が、まさにここにある。「ぼうずコンニャクが人生の挫折(もう挫折している)の果てに、たどり着くのが日本橋人形町だとする。心のおったキズを密かに隠して、ここで小さなアパートを借りる。そして寂しく暮らすのだけれど、この街の優しい町の人たち、また恋に傷ついた美しい女性と出会いがあって………」。なんて、こんなことを言ってると落語「紙くず拾い」になってしまうところが心底人生お笑いの、ぼうずコンニャクなのだ。
夕暮れ時にお総菜を買う。これもいいな
大通り沿いには名だたる老舗が軒を並べている。鶏肉の専門店、確かここは卵焼きが名物。粕漬けの店、漬物屋、人形焼き、そして佃煮屋。そのなんだが高そうで敬遠していた佃煮の『ちとせ屋』に入ってみる。やはり高い。100グラム当たり400〜600円もする。それでもうまそうなので、ついつい、はぜ、雑魚、葉山椒などを購入。支払は2150円。
佃煮の『ちとせ屋』。値段は高いが、味もいい
ぐっと懐具合が怪しくなって、甘酒横町に入る。鯛焼きの『柳家』には相変わらず列が出来ていて、とても並ぶ気持ちになれない。甘酒横町ならではの茶を焙じる芳しい香り、つづらの『岩井』、『双葉屋豆腐店』、寿司図鑑のために『志乃だ寿司総本店』で稲荷ずし。1個80円を12個。
今では希少な「つづら」を作る『岩井』。東京土産に「つづら」というのもいいもんだ
ここ『柳家』の鯛焼きはうまい。うまいけど並ぶのは大嫌い。それでなかなか買えないのだ。午後3時前後はやや空いている
そのまま、のんびり路地を散歩する。我が無駄歩きはだいたい1時間の遠回りを基本としているが、今回の日本橋は半分が仕事なので、もう少し歩いていいはずだ。
人形町の路地裏には敷居の高そうな料亭から、牛肉の『今半』、思わず入って見たくなる居酒屋などが無数にある。そんななかにあるのが、おでんの『美奈福』。ここは確かお持ち帰り、もしくは酒を置かない店なのだけれど、一度買って帰りたいと思いながらタイミングが合わないのだ。今回も一昨日、おでんを食べたばかり、残念。
路地を曲がって曲がって最後に見つけたのが、ドイツパンの店『タンネ』。もうすっかり暮れてしまった路地のそこだけが明るい。入るとビックリするほど可愛らしいお姉さんがふたり。そして、その可愛いお姉さんは「何を買ったらいいのかわかんない」なんて言う、怪しいオヤジに丁寧にドイツパンの説明をしてくれるのだ。うれしいな。たっぷりのドイツパン(10個以上のパン、ケーキ2個で1290円)をお土産に半蔵門線に下りる。
この店のドイツパンは素朴でおいしい
無駄歩きが終わって、こんなことを書くのも変だが、当初、小舟町から谷崎潤一郎の生家跡を目差して歩いたのである。それが稲荷神社の小道を見つけたり、ビルに挟まった古めかしい建物を見て歩く内に見当違いの場所に行き着いてしまった。日本橋は室町、堀留町、蛎殻町、新川(霊岸島)、浜町、小舟町など、どこを歩いても発見がいっぱい。当然、目的地にたどりつかなくても楽しい。だいたい無駄歩きの基本的な性格がコレであって、一度も本来の目的は果たせたことがない。それでもやめられないのが無駄歩きなのであった。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
11月4日(金曜) 後の記事 »
ダルマガレイ科を改訂