北海道に「焼きつぶ」というのがあって名物であるという。それで函館にいったときも真っ先にたのんだのが「焼きつぶ」である。これが冷えていてまずいものだったが、貝殻だけは持って帰ってきた。これが1987年のこと。図鑑でみて北海道の「つぶ」とはヒメエゾボラのことだったのかと早合点したのは恥ずかしい思い出となっている。そしてまた青森駅前市場でわざわざ買ってきたこともある。
考えてみると関東の市場にも見かけない日はないくらいに入荷してきている。わざわざ土産に買ってくるほどのこともない。また北のものといった思い込みがあって、茨城県で見たときには「意外」な感じがしたが大型の魚屋のオヤジは「ここいらでいっぱいとれる」という、考えてみれば生息域なんだから当然である。
色や形は多彩である
さて、このヒメエゾボラが市場では「青つぶ」と呼ばれている。日本海、茨城県以北の浅い磯から100メートルの水深ふきんにまで棲息する。もっとも値の安い「つぶ」の仲間である。産地は岩手県福島県が多い。意外に北海道からの荷が少ないのは値が安く商売にならないためだろう。
この「青つぶ」、東北北海道では庶民的な「つぶ」として親しまれている。「Neptunea」の仲間だから刺身でもいける。貝殻が硬いので割った方が早い、またエゾボラ同様穴を開けてもいい。身を取りだしてこれまた「Neptunea」であるからテトラミンのある唾液腺を取り去る。あとは塩もしくはよくもみ洗いしてぬめりを取り去り刺身にする。甘味がありコリっとした食感が楽しめてうまい。
またヒメエゾボラといったら何と言っても「焼きつぶ」である。我が家ではまず殻のまま軽く茹でる。身を取りだして唾液腺を取り去る。そしてもう一度貝殻に戻して焼き、酒醤油で味つけする。
北海道を旅したときに、ヒメエゾボラを前にして、
「これ食べると酔っぱらったようになるでしょ」
函館の朝市での話だけど、
「あんたなら2個くらいは大丈夫っしょ」
そんなことを言われたが、ここは安産第一でいく。ただし、このテトラミン、戦前戦後の物資のないときアルコール代わりに食べて、酔っぱらった状態になり、酒を飲んだつもりになっていたそうだ。まあ、そんなに危険なものではないのだろうか?
値が安くて、味のいいヒメエゾボラも知っておくとお得な「つぶ」である。真つぶ(エゾボラ)が1キロあたり2500円もするときに、かたわらで600円〜700円で売られている。市場でこれを買って帰る調理人をみると「やるな!」と思う。そんな店はおすすめだな。
市場魚貝類図鑑のヒメエゾボラへ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/ezobora/himeezobora.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
「オレは魚屋が好きなんだ」西八王子『魚善』 後の記事 »
ページを追加