サケの考現学12 根室市「兼由」の刺身サーモン

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 近年、どこへ行っても見かけるのが“トラウト”もしくは“トラウトサーモン”“サーモントラウト”である。これはニジマスの一世代交配種。すなわち本来この世にないものを人口的に作り出したものである。ただし種としてはニジマスとニジマスの掛け合わせなので「ニジマス」でしかない。そのために成熟しない、また成長を止めたり、早めたりという出荷調整も可能なのだ。

 ちなみに「ます」という概念はその昔、標準和名のサケ以外のサケ科の魚に対して使われたもの。だから「サクラマス」なのであり「カラフトマス」であったのだ。国内でも少ないながらとれるキングサーモンの標準和名にも「マスノスケ」で「ます」が入るし、今は「ベニザケ」だが、その昔は「べにます」であった。
 サケは大量にとれて食べてもうまいものである。だから江戸時代の産地、藩、蝦夷地でのアイヌの人々にとって大切な産物でもあった。特別だったのだ。
 そこにアメリカから「レインボートラウト」が明治期にやってくる。たぶん英語の入ってきた明治初期に言葉の意味としては「トラウト=マス」「サーモン=サケ」の基本は出来ていただろうから、「虹鱒」とすんなり名が付いたのである。ここにまた誤解が生まれる。後々、もっとサケマスの定義を深くするに「トラウト=淡水産」「サーモン=海水産」という意味合いにぶつかる。淡水魚として持ち込んだニジマスはこの点でもわかりやすかったのだ。だから現在での「マスというとニジマス」という概念が純然とある。
 そこにはまさかニジマスが「スティールヘッドになって海に下る」とは知らなかったのが一般的なところだろう。サケのように川で生まれ海に下るのだから当然、海で養殖することもできるのである。でもスティールヘッドをそのまま海で飼うと成熟してしまう。それでは歩留まりも出荷時期も狭いのである。この問題は未だにギンザケには残っている。
 じゃあ成熟しない、また餌を減らしたり、多くしたりの出荷調整に耐えうるサケの品種を一世代交配種で作り出そうとした。それで出来たのが「サーモントラウト」なのである。だから標準和名はなく、どうしても銘記しろとするとニジマスということになる。

 養殖であることから生食しても比較的安全である。ニジマスだから身の色合いは美しく、そして味もいい。チリで養殖して北海道に輸入、そこで骨などを抜いて後は切るだけにしたものが「刺身サーモン」である。
 チリという国は南米のしかも最南端にある。当然、地理的に産地としては遠いのであるが格安のギンザケの生産とサーモントラウトやアトランティックサーモンをフィレに加工するなどでサケ界ではノルウェーとともに二大勢力となっている。現在のところチリではギンザケの生産が主要なものである。これに追随してきたのがサーモントラウト。それが証拠に我が国においても見かける機会が増えていて、市場などでは毎日のように大量に解体されている。
 その上、生食の場合、アトランティックサーモン、次いでサーモントラウト、そしてギンザケというの序列が出来ている。またアトランティックサーモンが刺身、スモークサーモンなどになるのに対してサーモントラウトは生でも塩蔵、また西京漬けなどの加工品にもなる。

 画像は『市場寿司 たか』でのもの。たかさんのところは個人営業の寿司屋ではもっとも格安に寿司を提供している。しかも一人っきりで切り盛りするということで、なかなか激務の毎日なのだ。だから、その手間と、味わいを鑑みて、少ないながら冷凍や加工品を使わざるおえない。それで、とにかく「サケの生」を選ぶときに、散々迷って選んだのが「兼由」の刺身サーモンである。

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 ボクもときどき味を見ているが非常に味がいい。やはりサーモントラウトとしては割高なものだが骨抜きもされていて便利なのである。

 実をいうと回転寿司ではもっともっと多様に養殖サケを利用している。たぶん、輸入ギンザケも、そしてサーモントラウト、アトランティックサーモンも仕入れ値の加減でどんどん使い分けているはずだ。そして本来は一般の寿司屋では主にアトランティックサーモンを使っていた。
「(値段を安くしているから)お昼にはどうしても、サーモン類が必要なんだ。でも種類はわからないね。最近まで生(鮮魚)を使ってたけど、冷凍もある」
 これは本日も含めて都市部の寿司屋の何人かに問い合わせたときに共通する答え。この「サーモン」にサーモントラウトが進出してきているのだ。このときに問題となってきているのが市場などでの取り引きで使われる「トラウト」という言葉。これでは“マス”になってしまう。そしてサケにもマスにも使える「サーモン」という言葉が登場してくる。

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 だから「兼由」の商品名も「刺身サーモン」なのである。ちなみに裏面にはちゃんとサーモントラウトと表示されている。


兼由
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このページは、管理人が2007年2月22日 11:27に書いたブログ記事です。

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