2007年2月18日アーカイブ

 1か月ぶりの築地である。時刻は7時半。近年、築地は一般客が早朝から押し寄せて、賑やかなことこの上ないのであるが、今日は人出が少ないようだ。いつものように波除神社、海幸橋をわたって場内に入る。場内はいつものようにターラーが凄まじい勢いで行き交い、激しくハンドルを切り、人と物の間をすり抜ける。積み上げられた発泡の山、古くさび付いた製氷所。
 場内水産棟はここからちょうど扇のように奥に向かって広がっていく。その要に一番近い入り口から入っていく。入った途端に【日本丸大】でちりめんを買っておく。ちりめんはいつも徳島から取り寄せているのだが、ちょうど切らせているのだ。築地場内にあって、ちりめん、しらすの品揃えではこの店がいちばんではないか。ここで買い求めたのが産地不明ながらキロあたり2700円という手頃なもの。これを500ほど買い求める。ちなみにスーパーなどで売られるちりめんの最小単位は30グラム袋、やや大きいもので60グラムなのである。比較して500グラムという分量がわかるだろう。築地場内ではあまり小さな単位で売ってくれない。ちりめんなら最低でも300グラムくらいを買う。

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 場内を見て歩くに、今週の荒天を繁栄して、全般に値段が高いようであるし、まためぼしい魚がほとんどない。そんななか【丸半佃寅】に北海道江差からのイバラモエビ。当地では「鬼えび」である。これは甘エビなどのタラバエビ科ではなく珍しくモエビ科。身がしっかりしていて甘味がある。見ているとご主人らしき人が「それは昨日のだ。ダメダメ」という。さすがに築地は「いいものを売りたい」という気概がある。

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 そのまますすむと【飯田水産】という店でヒメコダイを見つける。この店、いいものおいているな、と感心してヒメコダイを撮影すると。「撮影はだめ」だという。どうもこの店は一般人お断りの店であるようだ。
 活けのトリガイ、クロアワビ、タイラギを見かける。アカガイも豊富にある。さすがに築地だなと思うときである。

 その先に【角に十の字】。ここは珍しくマカジキを扱っているのだ。ちょうどマカジキを解体していて、これが土曜日でなかったら買って帰りたいものである。マカジキは今でこそマグロの陰に隠れているが、その昔は赤身の刺身と言えばマカジキという時代があったのである。

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 魚がないせいなのか、今日の場内は人が少ない。そのぶんじっくり見てまわれるのである。佐島からのワカメ、秋田からの黒メバル、青森からのウスメバル。

 三陸からの“かじか”ニジカジカが目につく。【小島】という店でニジカジカを見ていたら中にギスカジカを見つける。キロ/700円であるので、これを購入する。最近、ギスカジカが八王子に来ないのである。同じく【小島】で冷凍ばちの切り落とし500円も買う。本日の場内歩きのテーマが「マグロ500パックを買ってくる」というもの。

“このこ(マナマコの卵巣)”の袋詰めを【丸富】で見つける。一袋3300円は安い。ロシアからの輸入甘エビ類を解凍して売っている店で東サハリンの種名のないパンダルス属の“ぼたんえび”を見つける。あとは三陸底引き網での“ぶどうえび(ヒゴロモエビ)”。

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 ぼんやり歩いていると、不意に声がかかる。気がつくと【大音】さんの店の前。
「これなんでしょうね」と見せられたのが“青ひらす(ホワイトワレフー)”のスモーク。これは千葉県市川市の三洋食品の作ったもの。なかなか美味なので、【大音】さんに取り扱ってみたらとすすめる。

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 キンメダイ、ヒラメ、オニカサゴにカサゴ、アカムツにクロソイ。なんでも揃ってはいるが珍しいものめぼしいものが見つからない。マハタ、キジハタ、オオモンハタ、アオハタ、クエなどが多いのは冬らしいともいえそうだ。なかには20キロを超えるクエもある。またなかでもアオハタの多さは群を抜いている。

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これは総てアオハタ

 そろそろ疲れたなと思っていたら【高梨】の前に来ていた。その店頭にあった能登産“甘エビ(ホッコクアカエビ)”の値段がすごい、なんとキロ/27000円なりである。
「一本で500円くらいになるんじゃない。二本ならちらし寿司が食える」

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 確かにその通りだがこれは見るだけで満足。他には“鬼えび(イバラモエビ)”、“ぶどうえび(ヒゴロモエビ)”“ぼたんえび(トヤマエビ)”。どれも半端な値段ではない。

 築地魚市場というのは鮮魚だけがいいのではない。先の【日本丸大】はちりめん干物、乾物。
【近長】には見事な昆布が何気なくおかれている。いい昆布を見ると無理しても買いたくなるのだが、今回は断念。

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【丸蒲食品】には各種すり身。“ぐち(シログチ)”ハモ、“たら(スケトウダラ)”、これを買ってきて自家製の練り物を作るのもいいだろう。

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 そろそろ9時近い頃、マグロの【鈴与】で鮟鱇さんに出合う。その【鈴与】に珍しくコシナガがあって、なんと売れてしまっている。これは残念至極。これはもう何年も探しているもの。寿司図鑑にはどうしても欲しいマグロネタなのである。今年は幸先悪しである。


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『まつ浅』は八王子大和田のいたって平凡なそば屋である。カツ丼もサンマーメンも、もちろんそばだって、味がいいので評判なのだ。でも、この店の通称浅やんを有名にしているのが、食いしん坊釣り師としてなのである。なにしろ「うまい魚しか釣らない」というまっとうな沖釣り師なのである。今時の「釣りはスポーツだ」なんていう風潮は大嫌い。釣った魚をいかにうまく食うかというのが、この男の主題になる。

 その浅やんお勧めは数あれど、最近一押しなのが、「さばのしょうゆ干し」。この作り方が凄まじい。
 まずは秘伝の醤油ダレを作る。「どうやって作るの」と聞くと、「教えるわけないだろ」とけんもほろろ。たぶん、そば屋だからしょうゆにみりんかな。それを大きめのタッパーに入れて大磯の沖合にある「瀬の海」に船出するのだ。この船の本命は当然、マアジ。

「最初にね。アジは必要なだけ釣るわけ(これは自慢である)。今の時期のアジもうまいからね。だいたいそこそこアジを釣って、もういいかなとなる。そしたらさ、うわっかた(浅いところ)を走っているサバを狙うの。今の時期はね、底にいるサバはうまかねえ。上のがいいの。水面近くにカタクチイワシがいっぱい群れているの。これをいっぱい食ってるからかね。上にいるサバがうまいの」
 どうやら「上にいるサバ=ゴマサバ」、「底にいるサバ=マサバ」であるようだ。
「釣り上げるだろ。そしたらさ、すぐに頭落とすの、そして開いて、しょうゆの中に放り込む。まだ身はいかってる(生きている)だろ、しょうゆのなかでクククっと反り返えってくるのさ。しょうゆをすってるんだろうね」

 大変な代物をもらい受けたものである。でも今夜の晩酌、肴はこれしかない。
 夕食の支度が終わり、落ち着いたところでサバを焼く。身の方から焼き始めたら、驚いたことに身がクククっと反り返り始めた。
 これはいきなり海の中から釣り上げられたゴマサバが、「いやだいやだ」と思っている内に、頭をストン、身をばんと開かれてしまう。「私、死んだの」と気づく間もなくしょうゆ地獄に放り込まれてしまって、頭がないので泣くに泣かれない。きっと「私つらいわ、つらいわ」と泣いてるんだろう。それに浅やんのあまりの早業に「死んでしまったんだわ」とわからなかったのかな。成仏できなかったんだろうね。その怨念がこんなガス台の上で蘇ってきたのだ。「成仏しろよ、成仏しろよ」と箸でなだめながら焼いていく。

 焼き上がると、こんがり、こんがり、それはそれは見事である。しょうゆの色合いの表を外すと中には真っ白な、それでいてプックリ盛り上がるような身がはじけている。

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 味わいの表現は難しいけど、しょうゆ味は、それほど強くない。むしろ香ばしさが鼻を通り抜けていく。そして暖冬だとは言え、2月のゴマサバにこんなに脂がのっているなんて。そう言えば高知名物「清水サバ」の旬も真冬だったな。冬のゴマサバ恐るべし。こまったことにサバがうますぎて、酒がすすまない。「佳肴とは言えませんな」なんて三遊亭圓生の長屋のご隠居風に呟いてみるが、「でもうまいね」ともしみじみ思うのである。
 しかし食いしん坊釣り師とは「凄いもの」だと浅やんに感謝するのだ。

●最後につけ加えると、八王子大和田『まつ浅』はうまいそば屋であるのだ。
まつ浅そば店 東京都八王子市大和田町6丁目12-28
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