春になるとサバの味わいが途端に落ちる。これが魚屋の悩みの種なのである。どうして味が落ちるのかというとマサバの多くが臨月を迎えるためである。じゃあオスはいいだろう? というと残念ながら夫婦ともども身質が悪くなる。
だから魚屋は「春のサバは腹をさぐって仕入れる」。ちょうど魚屋が首を振って諦めた大きな腹をしたサバを買い込んできた。見た目は太りじしの見事なもの。腹を触ると真子の形がわかる。でも成熟度が低いようで身には脂がのっているのが明確にみてとれる。
さて、脂があるのだから半身はしめさばにする。そして半身だが、なんとか真子を生かした料理にできないだろうか? 例えば煮つけ、みそ煮。ともにダメだろう。マサバの卵巣の味はよくて、その真味を壊してしまう。出来るなら焼きたい。焼いて夕食の一品としたい。
考えていても仕方がない。半身の血合い骨を切り取り、そこに袋状のくぼみを作る。卵巣を埋め込んで振り塩をする。しばし時間を置いてじんわりと焼き上げてみた。産卵前のマサバの身はもろく、なんだか形が整わなかった。卵巣が飛び出てしまうか、と不安を感じながらやっと焼き上げる。
その焼き上がりを、熱い内に口に放り込む。やはり脂がのって、それが甘味となって感じられる。卵巣はほっくりと、こちらも甘味と旨味があって、身の濃厚な味わいにアクセントをつけている。絶品ではないか、この親子焼きというやつは。
春サバはまだまだ脂がのっている。いちばん悪い時期にはいたっていないのである。そして、春ならではの真子の味わいを今こそ堪能すべきだろう。
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