よほどのことがないと買わないものに「●●かまぼこ」と言うものがある。例えば「カステラかまぼこ」「豆腐かまぼこ」など。この2種類は言うなればお菓子、豆製品とのクロスオーバー的存在なのであって、発想は面白いのだけど今まであまりうまいものにも出合っていない。ということで見つけてもまったく買い込もうなどとは思いも寄らない。そしてもうひとつの存在が「刺身蒲鉾(さしみかまぼこ)」である。「刺身」=「生」であるのに蒸す、焼くを前提とする蒲鉾とどう結びつくのか、「前代未聞の矛盾した存在」である「さしみかまぼこ」はいったい蒲鉾界にあってどういった存在なのだろう。
それで八王子の「四十物(あいもの)」仲卸で見つけたのを期に聞いてみると、どうやらかなり影の薄い存在でしかないようだ。
「まあ安けりゃ仕入れるけど、意外に単価が高いのよ。賞味期限もわりかし短いし」
「じゃあ、売れないわけじゃない」
「そうだね。ときどき聞いてくる人もいることはいるな。売れる物ではあるかな」
なんだかはっきりしない答えばかりが返ってくる。
仕方なく、2本だけ買ってくる。当然初めて食べるのではない。過去になんども各地で“ついつい”買ってきてしまっている。でも日常的な場所(住まいの近辺)で買うのは初めてだろう。ボクが思うに「さしみかまぼこ」はお土産ものといった概念がある。
今回のものは「山上蒲鉾」という小田原の業者のもの。小田原と言ったら蒲鉾の本場、当然多党競争のまっただなか製品なのだからきっと期待してもいいだろう。
包装はいたって庶民的。真空パックのビニールに「さしみかまぼこ」とあって「しなやか絹仕上げ」とあるだけ。下にある「手造り」なんて模様にしか見えない。
これを取りだして刺身のように切るだけ、とても簡単だ。味付けはやや甘め、魚の持つ匂いはほとんどなく「旨味」だけがある。この旨味は魚のものにアミノ酸調味料が加わったもの。原材料にスケトウダラだけではなくシログチやイトヨリダイが使われているためか、その旨味は安すぎる蒲鉾ほど単調ではなく、ほんの少しイトヨリの味の個性が浮かび上がる。塩分濃度は低めながら、そのまま食べてもいいだろう。
さて、それでは「さしみ」とつく意味合いだが、それは足(練り製品で使う独特の表現で強う弾力)ではなく、プルンとして適度に柔らかいことが上げられるだろう。ボクにはこの無個性な上品すぎる絹ごし豆腐のようなババロア風でもある味わいはもの足りない。やっぱり豆腐は木綿だと言う人には不向きかも知れない。これを食べていてやっぱり薬師神かまぼこ(宇和島市)のじゃこ天のうまさが思い返されたものだ。ボクにとっては練り製品も味わいだなと改めて思う。
ところが一箸、2箸つけてぼんやり考えている間に、「さしみかまぼこ」はすっかり食卓から消えてしまっている。家族はこのプルンとクセのない味わいにはまってしまって、「明日も買ってきてね」という。我が家は9人家族、ボクを除く全員が「うまい」と言っているのだから、「さしみかまぼこ」は人気者だなー。ボクとは大違いだ。
山上(やまじょう)蒲鉾店
http://www3.famille.ne.jp/%7Eyamajou/index.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
つぶ学事始め17 クシロエゾバイ 後の記事 »
改訂記