瀬戸内海の鄙びた港を期待して、たぶん30年振りの日生についた。学生の頃一度だけここに来ているのだ。でもいかんせんその記憶がない。あまり魚にも街にも興味がなかったのだから仕方がないか。そして目の前にあるのはあまり鄙びたとも、素朴とも思えない日生の情景である。
この真横から見るとタコが足を広げたような異様な建物はなんだろう? まさか設計者は瀬戸内海の美観をいかに破壊するかを真剣に狙ったのではないだろうな。見ていて不愉快になる。
でもその不愉快さは建物の手前にある建物に近寄って見つけたものによって急速に和らいだ。そこにあったのが大量のヒラである。
大潮の日にヒラは刺し網であがる。本来刺し網はサワラを狙うのだけど、不漁時にはヒラ狙いに替わるのだとも言われている。このヒラを見て、ヒモマキバイさんが箱に並べている人のもとに吹っ飛んでいった。驚いたことに「売ってくれ」と言っているようだ。昨日食べたヒラがよほど気に入ったようだ。ほどなく1本手にして帰ってきた。競り場の入り口には「ぐち(シログチ)」をさばいている女性がいる。そう言えばその昔に来たときは、こんな魚を卸す人がたくさんいた。それに市のようなものはなかったように記憶する。「五味の市」というのは決まった日にだけ開かれるのではなかったか?
さて大きなタコの体内に入る。そこに乾物や煎餅を売る店があり、見つけたのが「白藻」。これも岡山ならではの食用海藻で探していたもの。これを一袋買い。とにかくぐるりと場内を見て回る。観光客、魚を買う人もまばらである。これは日曜日なのに意外だ。
店舗で魚を売るのはほとんどが女性。店の前に氷を置いたステンレスケースなどがあってその上のバットに並んでいる。また活けものが多いのはさすがに漁港ならではだろう。
紙に「大丁」とあってヒイラギ、「つなし」のコノシロ、テンジクダイは「いしもち」。「はりいか(コウイカ)」、「もんごういか(カミナリイカ)」、「真いか(シリヤケイカ)のコウイカ科3種。スズキ、クラカケトラギス、ハモ、「ままかり(サッパ)」、「朱口(メナダ)」、アカカマス、マアナゴ、「めばる(カサゴ)。「べいか」とあるがジンドウイカに見える。「赤下駄(アカシタビラメ)」、シロギス、「天こち」は種を確かめなかった。「たぬきだべ(ハナツメタ)」「こぶと(サルエビ)」「すくもえび(ヨシエビ)」、シャコに「真がに(ガザミ)」、イシガニ、テナガダコ。
場内できんのり丸さんを探すと日生産の板海苔を売る店のオバチャンと話し込んでいる。
東京湾の海苔漁師であり、またNPO「里海の会」の代表として是非とも見ておかなければならぬものだろう。この日生の海苔も買ってくるべきだったと後悔している。
ボクが買ったのは「朱口(メナダ)」と「たぬきだべ(ハナツメタ)」、そして「白藻」。ヒモマキバイさんはもっと買い込んでいるようだ。
最後にお弁当などを売る店で穴子飯とサワラの寿司を買い求める。
日生で見つけた魚貝類の種類はあまり多くはなかった。でも他の土地では利用されない日生ならではの小魚や、甲殻類はたっぷり見ることが出来たのは大きい。またこれら総てが鮮度抜群でうまそうなものばかりだ。水揚げ港でこのような市が開かれるもうひとつの意味合いに、土地ならではの食文化を絶やすことなく継承するという役割もあるように思える。この点では「五味の市」は素晴らしいものである。
ほんの1時間足らずの滞在であった。こんどはじっくり時間を作ってくるのだと、「五味の市」を後にする。
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2007年6月17日 岡山の旅16 日生へ 後の記事 »
白貝で私風サラダを作ってみる