鮨忠は八王子市内に8店舗もあり、わかりづらいので、すし屋仲間ではそれぞれ町名で呼ばれている。「横川町さん」と言えば「第二支店」だし、「元本郷さん」と言えば「第三支店」、「元八王子」さんというのもある。「支店」とつくとチェーン店のようで紛らわしいが、それぞれ暖簾分けし独立した店舗なのだ。
8月13日は観音寺のアカエビを使った玉子焼き、「ままかり(サッパ)」の握りを『市場寿司 たか』で撮影予定だった。ところが、たかさんが突然の激しい頭痛に見舞われ、午前中は病院で過ごすこととなった。仕方なく代打になっていただいたのが「元本郷 鮨忠」さんである。
元本郷「鮨忠 第三支店」というのは八王子市内、20号線から秋川街道に曲がってすぐ、萩原橋手前にある。まあ非常に小体な店であり、うっかりすると見逃しかねない。
午後1時過ぎにお邪魔する。店の前に立つとまた思った以上に小さな店である。間口一間ほどの入り口、引き戸をあけると、「ああ懐かしい」というか、とても魅力的な空間が広がっている。入ると5人ほどのカウンターがあり、右に4人がけのテーブルが3つ。とても宴会ができるような店ではない。せいぜい2、3人で夕食を楽しむのが限度だろう。店の最大の魅力はどこにも余分な装飾がないということ、また造りも上品で、なによりも清潔であることだ。
そのカウンターの奥ににこやかな「元本郷」さんが穴子の骨を鉄串に刺している。これを干して、素揚げにするのだという。
「本当は軽く焼いて穴子を煮るときの出汁にするんだけど、たまにゃこんなこともやるのよ。さて今日は何を握るの?」
通称「元本郷」さんは八王子でももっとも高齢な現役寿司職人である。特徴はおだやかで、どこかとぼけた味のある会話がいい。二代目、女将さんの三人で店を切り盛りしている。二代目もこの初代の穏やかさと、また確かな寿司職人としての技を引き継いでいる。
ここで「アカエビのすり身の入った薄焼き玉子」、「ままかり(サッパ)の酢締め」を撮影する。ついでに新子、茹でえび、かんぴょう巻き、薄焼き玉子なども撮影してきた。昼の握りなのでやや大振りであったが、この「鮨忠」の味は素晴らしいものだった。その内、この画像を「元本郷 鮨忠」でまとめるつもりだ。
二代目とは市場で毎日のように立ち話をしている。ケータイをいつまでたってもまともに使いこなせないボクには「ケータイの先生」でもある。今回の収穫は、この二代目の握った新子である。その美しさ、握りの硬さ加減、新子のしめ加減など絶品であった。また「鮨忠」の玉子焼きは薄焼きなのだが、ここのは味醂の甘味が利いていて味わいが濃いのである。すなわち薄焼きでも味に存在感がある。茹でえびもかんぴょうも総て自家製というのも特筆すべきだ。
さて、ボクも五十路となって、そろそろ夕べには「落ち着いた、また舌をして喜ばしい時間を持ちたい」と思うようになってきた。そんな願望が満たされるのは、「元本郷 鮨忠」のようなすし屋かも知れぬ。
鮨忠 第三支店 東京都八王子市元本郷町1丁目26-10 042-624-3135
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