去る、7月15日は台風4号が北に通り過ぎたばかりだった。意外に明石大橋に風は吹いておらず瀬戸内海は穏やかに見えた。淡路島から明石側に渡り、明石市までは小一時間もかかったろうか? ナビを見ながらなんとなく明石市街を目差し、気がついたら明石駅まで来ていた。この駅の手前に小さな市場を見た。明石と言えば「魚の棚」であるが、今では観光化されている。こちらの方が地元に密着している市場かも知れない。思ったものの、不慣れな土地であり、後ろ髪を引かれながら通り過ぎる。
岸壁にたどり着いたら、そこが明石の漁港だった。交番があって駐車場の位置を聞く。港は昼過ぎ、当然、昼網の漁船が次々に入港してきて水揚げが始まっていてもおかしくないが、いかんせん台風一過とあってはいたしかたない。
駐車場に向かう道路沿いに行列が見える。明石焼きの有名店であるようだ。今回の明石行の目的はは太郎の「明石焼き」が食べたいだったので、目的の店をいきなり見つけたことになる。ところが駐車場からその角の店の前に来たとき、あまりの行列に太郎が「やめよ、他にも店はあるでしょ」と消極的な判断をする。後々考えると、これが大失敗だった。
とにかく魚の棚を歩く。魚の棚というのは江戸時代から続く海産物を扱う商店街。水揚げ港のそばに自然に市場というか商店街が形成されていったものと思われる。
水揚げは朝と昼。これは瀬戸内海では共通のこと。水揚げされるものはそんなに多彩ではない。水深が浅いことと、水温などの点から魚貝類の種類は限られるのだ。むしろ魚の棚=「所謂瀬戸内の魚貝類が見られる典型的な場所のひとつ」と考えるべきだ。
商店街は観光客で混雑していた。頭の上にはアーケード、それでやや薄暗いのが落ち着けていい。商店街のところどころに古い家屋が残っているのも好ましい。ただし、やはり観光地化された店舗もあるし、観光客のために改築してしまったという店もある。でもいずれにしろ決して本来の姿を失っていないと見た。
ボクが見たいのは魚屋、太郎は明石焼きの店を探す。
台風のせいか魚屋に魚は少なく、かなり店頭は寂しい。でも意外に陸送されたもの(他の産地からの魚貝類)が見られないのはさすがだ。一部店舗に陸送もののケガニ、甘えび(ホッコクアカエビ)、イクラやクジラのベーコン、バイ(これは明らかに日本海のもの)があった。ただしその量は少なく、とれないときには我慢するという魚の棚の良心が見えた。そう言えば明記しなかったが、この日は連休の真ん中、観光地魚の棚としては書き入れ時だろう。
当日見た地魚を見た順に羅列する。クラカケトラギス、キュウセン、サルエビ、マアナゴ、クルマエビ、メイタガレイ、マアジ、カサゴ、アカニシ、イシガニ、シャコ、マダコ、コウイカ。種類的には豊漁となっても、この二倍にはならないだろう。でも豊かで新鮮な魚の棚は見られなかったことには違いない。残念。
また練り物、焼き穴子、イカナゴの釘煮、げんごべいの煮物(「げんごべい」はイカナゴのやや大きめのものであるようだ)などみなうまそうだった。
さて太郎にとってはとにかく明石焼きなのである。でも昼過ぎで混んでいる店が多い。そのなかに一軒だけ空いている店を見つけた。腹が減っているというのもあるが、太郎が「ここでいい」と入ってしまう。この店、オバチャンが一人で切り盛りしている。中に入ると明石焼きの定義など書かれており、なんだオバチャン自体がうるさそうに感じられる。
とにかく一人前ずつお願いする。待っていると、このオバチャン店頭でお客らしい人にいろいろ講釈を垂れているのだ。この時点でボクはこの店はまずいのではないかと予感した。そしてやってきたのに、まずダメ出しをしたのは太郎自身だった。姫もギブアップ。
まずいものは早く片づけるに限る。姫の食べ残しを処理して店を出る。うまいまずいは個人差はあるだろう。でも我が家の三人はだめだったなー、この店。
午後も長けてきた、急いで駐車場に戻る。するとかたわらで太郎が泣いているのだ。確かにあの生の粉なっぽさは寛容な太郎をしても耐えられるものではない。駐車場まで来てこの話をすると、改めて管理のおじさん達がおいしい明石焼きを挙げてくれた。もちろん、さっきの店は入っていなかった。
泣いていた太郎が、一言、
「父ちゃん、うまいものを食べようと思ったら人気のある店がいいね。我慢して並ばなきゃだめだね」
これから帰途、名神、中央と、サービスエリアに寄るたびに太郎が焼け食いに走ったことは言うまでもない。
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2007年9月5日 改訂記