「ふくと汁」で酒を飲む。フグのみそ汁の話

0

mafugumiso071212.jpg
●クリックすると拡大

 松尾芭蕉の句に「あら何ともなや きのうは過ぎて ふくと汁」というのがある。この芭蕉の「汁」が現在で言う「鍋」であるとされているが本当だろうか?
 ボクは「鍋」ではなく、文字通り「汁」なのではないかと思っている。だとしたらその「汁」とはどのようなものだろう。勝手な思い込みかもしれないが「みそ汁」に違いないと考えている。(注/松尾芭蕉1644年〜1694年が活躍したのは元禄期。この時代まだ関東での醤油醸造は盛況ではなく、また醤油自体が高価だったなどの考察はここでは置く)
 あまり根拠のない説なので、真面目に考察されても困るのだけど、とにかくボクの直感である。「みそ汁」は日本酒にとても合う。「きのうは過ぎて」を現代語訳すると「昨日は飲み過ぎて」であるから、「汁」はまた酒の肴でもあったはず。松尾芭蕉は「きのう」仲間と一緒にフグのみそ汁で酒を過ごしてしまったに違いない。

 ボクが酒場に行って常々不満に思うのは、鯉料理の店はともかく一般に「酒の肴としてのみそ汁がない」ということ。例えば東北・北海道などの市場の食堂でみそ汁をお願いすると、ジャガイモ、ニンジン、大根などを放り込んだカジカのみそ汁が出てくることがあった。これが何度も煮返して、見た目は決してよろしくない。でも煮返すことで、汁に旨味が出て、とても濃厚にうまいものになっている。そして、このみそ汁を飲むと、ついつい酒が欲しくなる。ましてや「ふくと汁」の旨さはカジカよりも数倍上。だから酒の肴としても断然上なのだ。

 仕事で遅く帰った日、なかなか直ぐに寝付けるわけでもない。そこで日本酒、例えば高知県の『酔鯨 特別純米酒』などをコップに満たして、さてアテは何にしようかな? と冷蔵庫をのぞく。
 見つかったのがマフグのみがき(毒を除去したもの)1匹分。囀りを切り取り、適当に切り、湯通しする。付着した粘液をよく取り去って、昆布とともに水を張った鍋に放り込む。ここに味醂を少々。
 2杯目の酒をコップに満たして、鍋のコトコトいうを見る。待って待って、出しが出たなと思ったら仙台味噌を溶き入れる。この酒の肴としてのみそ汁には麦麹はダメ、愛知の豆麹豆味噌もダメなら、白みそもダメだ。あえて選ぶとしたら江戸の甘味噌、信州の赤みそ、京都の桜味噌、そしてボクとしては仙台味噌がいちばんいい。
 味噌を溶き入れても、もう少し我慢してコトコト煮ていく。そしてやっと椀にとったら、ネギを盛る。決してネギを汁の中で煮てはいけない。

 味噌というのは不思議なもので、濃厚な汁もさっぱりさせる。また味噌自体は旨味もあるのに、その塩味自体は単味に近いように思える。だから酒の肴としては、日本酒の後味を適度に洗い流しながら、また酒をやる、そういった飲み方になる。

 寒に旬を迎えるフグ。汁にすると旨味がたっぷり出る。また旨味をたっぷり放出して、まだまだ身自体もうまい、これが不可思議でならない。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マフグへ
http://www.zukan-bouz.com/fygu/fugu/torafugu/mafugu.html


このエントリーをはてなブックマークに追加

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://blog.zukan-bouz.com/mt-app/mt/mt-tb.cgi/1330

コメント(2)

みそ汁で酒。同感です そしてこの名文とふくと汁の旨そうな事といったら。深夜ですが腹がぐうぐうなってます 我が家でつくれば具はこの半分以下になりそうですが. 

user-pic

竹内さん、フグじゃなくても「つのぎ(ウマヅラハギ)」でもやってみてください。肝も使えますからうまいんです。

月別 アーカイブ

このブログ記事について

このページは、管理人が2007年12月15日 15:58に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「駿河底引き鍋」です。

次のブログ記事は「高野水産社長の持っているのはカノコイセエビ」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。