沼津の『カネマル笹市』とのつきあいも、そろそろ3年目となる。せっかく定期的に通いはじめたのだから、沼津という土地柄のこともいろいろ調べたくなった。そこで避けて通れないのが、この地が「鰺の開き生産量日本一」だということ。
ボクとしては、なんとかして鰺の開きの製造工程、歴史などを調べる端緒を得たかった。そこでじっくり半日ほども見学させてくれたのが『カネマル笹市』である。
海辺の町で干物作りが盛んである。これは一見当たり前だけど、最近では「海に近い」から干物産業が出来上がるという方程式はなりたたない。いちばん大切なのは流通面での優位だ。沼津は九州からくるトラック、鉄道がここで一時停車するところだった。また消費地である関東に近い。もともとかつお節やしらす加工のノウハウがあったこともあって、いつの間にか干物屋が群雄割拠することになった。
『カネマル笹市』でのマアジの加工はいたって昔ながらの手作業だ。大きな机に向かい合い、黙々と正確にアジを開いていく。あとは塩水に浸して、乾燥させる。ここでいちばん問題になるのがマアジの確保だ。国産でいちばん優れた干物用マアジはどこでとれるか、それが長崎県壱岐、対馬、山口県、島根県あたり。
「よく関アジなんていいますけど、干物原料には向きません。値段もあるけど、意外に太平洋側のアジはうまくない」
二代目は自ら長崎、山陰などに出向き、原料を仕入れる。
冷凍されたマアジだけど、国産にこだわっているのが『カネマル笹市』だ。「この国産か? 大西洋産か?」というのはボクにはまだまだ理解できないところだが、多少高くなっても国産でなければならない、というこだわりが『カネマル笹市親子』のマアジの開きを食べるとわかるように思える。
たくさんの干物屋がある沼津、その中心である志下の地で、3代つづく干物会社を経営するには、「何か特別なもの」がなくてはならないわけで、『カネマル笹市』の場合、いいものを少量、家内工業的なシステムで作ることで、それを達成していることになる。
『カネマル笹市』製造のマアジ開きを焼き、また食らうと、しみじみうまいと感動できる。なにしろ大西洋(輸入)のアジにはない上品な脂がほどよい甘味を感じさせてくれる。きめ細かな繊維質の身には背の青い魚の持つ旨味がたっぷり入っている。
皿に残るものはほんの少しの皮と頭、中骨だけとなった。これを熱く温めた片口に寄せ集めて熱湯をそそぐ。この骨湯を飲んだら、よりマアジの開きの実力を感じるはず。
五十路を超えてから、思わぬ壁にぶち当たっている。それは体の不調であったり、精神的な行き詰まり感であったり。そこで今まであまり考えたことのない「健康維持」という言語が日夜ボクの脳みそから去らない。そしてマアジの開きの骨湯を飲むとき浮かんでくる「癒し感」にほんの小さなものだが救いを感じている。徐々に進むボクの体内での機能(臓器)不全を間違いなく遅らせている。
カネマル笹市
http://www.kanemarusasaichi.co.jp/index.html
マアジの開きの工程などについて
http://www.zukan-bouz.com/zkan/zkan/dokuhon/kakumokuji/kanemaru.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
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