魚の卵にもうまいまずいがある。例えば、マゴチの卵巣はうまいのに、イサキはそんなにうまくない。そう言えばキンメダイもそんなにうまくない。対するにニシン目はほとんど例外なくうまい。ニシンにマイワシにコノシロに、と産卵期の子持ちはそれなりに楽しめる。
そして木の芽時ともなると大量にあがるサワラの、真子がこれまた非常に美味なのだ。サワラの卵巣は、ボクが改めて言うまでもなく、岡山県や香川県などでは昔から、春から初夏への風物詩的な食べ物である。また香川県では唐墨にするのだけど、なかなか高価で手が出ない。
さて、4月から5月にかけて、市場ではサワラを卸している光景をよく見かける。関東の料理人は、この真子の真のうまさを知らないのだろうか、「真子はいらないよ」なんていたって淡白に身だけを持ち帰る。ということでサワラの真子をあっちこっちからいただく時期なので、我が家ではこれを惣菜風にコックリ甘く辛くたきあげる。
煮方はいたって簡単至極。
サワラの卵巣は細長いので4、5センチ幅に切る。
熱湯を用意して、ここに落としていくと、ぱっと花が咲いたようになる。
これを冷水にとり、布巾に上げて水分をとっておく。
鍋に味醂(みりん)、酒、ほんの少しの砂糖、濃い口醤油を煮立たせて、少し煮詰める。
沸き立った煮汁の中に卵巣を放り込んで短時間・強火で煮あげるのだ。
煮上がる寸前にもう一度味醂(みりん)を回しかけ、一煮立ち、そしてしぼりショウガをふる。
今回は天に針ショウガを盛ったのだけど、季節からして木の芽(サンショウの葉)の方がよかった。これでは我が家で勝手に作っている季語事典には載せられない、残念、無念。
このような魚の卵巣の甘辛い煮つけは、食卓での滞在時間がやたらに短い。
いつもだいたい10分もかからず消え去ってしまう。
太郎が、「父ちゃん、今日はおかずが少ない」と文句を言うのはこんな一品を作ったときだ。
サワラの卵巣にはまったくクセがない。甘味があり、調味料の甘味と合わさって、より濃厚で複雑な甘味となり、ザラリと崩れた卵粒(たまごのつぶ)が舌の上でより細かくつぶれてコックリとした風味が浮かぶ。
これほどの美味であるが、酒飲みにとって残念であるのは、サワラの卵巣の煮つけは酒の肴である以上に、ご飯のおかずだということ。家族のおかずを減らしてまで、酒のアテとするわけにもいくまいね。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サワラへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/sawara/sawara.html
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http://www.zukan-bouz.com/
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ほんまにうまいなカサゴちゃん