我が家の子供に季節の変わり目というか、「何月から何月までが春で、夏で、秋で、冬なの」と聞かれたことがある。
常々、疑問に思っていたことなので、「父ちゃんにもはっきりわからいなー、寒くなったら冬だし、暖かくなってきてサクラが咲いたら春かなー。夏は梅雨明けからだろうし、秋は2学期が始まったらじゃない」と不得要領な答えとなってしまう。
そして最近では秋田の渡辺夫妻(賢さん、なべ婦人)からハタハタがくると「冬なんだな」と思うようになってきた。
だから我が家の姫にも「ハタハタが秋田から来ると冬だぞ」と教えることに決めている。
毎年、師走になると秋田ならではの三五八漬けとなったハタハタが送られてくる。
荷物をあけて、ハタハタ三五八漬けを手に取ると麹の香りとともに、東北の中でも、もっとも東北らしい秋田の冬の厳しさの予感を感じたりする。
そして大急ぎで焼くのだけど、このやや塩辛さと、麹の甘い香りに、無為に過ごした一年の悔悟の念が浮かんでくる。
秋田からくるハタハタには「しみじみ自分の時を取り戻す」そんな力など感じてしまうのだ。
さて今年、秋田からハタハタが届いたのは師走前の十一月二十七日だった。
ボクが自宅に帰り着くと、姫が「父ちゃん荷物が届いているよ」と持ってきたので、押っ取り刀でガムテープをはがす。
なかから出てきたのがパンパンに腹膨らませた、ぴかぴかのハタハタなのである。
とにかく大急ぎで振り塩をする。
お湯が沸いている、熱燗を用意して、串打ちして煉瓦に乗っかっているハタハタの焼き上がりを待つ。
強火の遠火でじわじわと焼くのだけど、この余熱で部屋まで暖かくなってくる。
鍋には昆布が沈んでおり、沸騰する直前にとりだして酒と塩で味を調える。
塩焼きを食べながら、きれいなきれいなハタハタを鍋に沈めて、これが“湯あげ”という料理法だ。
この食べ方は1980年代後半に、秋田市内にある市民市場と日本海に魅せられて二度立て続けに行った。
そのとき市民市場で魚屋のオヤジさんに教えてもらったもの。
このオヤジさんにはいろいろ秋田の魚のことなど教えてもらったものだ。
オヤジさんがボクに声をかけてきたきっかけが、薄暗い店頭に置かれた大振りのハタハタ一尾が千円以上であり、つい驚きの声を出したからだった。
秋田県でのハタハタの不漁は、2001年まで続くのだ。
それまではトロ箱いっぱい幾らというほどに安かったものが、一転超高級魚と成り変わっていたのだ。
塩焼きが香ばしく焼き上がった。
二つ折りにすると成熟のすすんだ“ぶりこ”が飛び出してくる。
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塩焼きは熱い内に手づかみで食べねばならぬ
これをアチチといいながら食べたのは姫だった。
ハタハタの卵巣は未成熟のものの方がこくがある。
しかし成熟したものの方が甘味が強いのではないか?
姫ならずともほっくりした“ぶりこ”は魅力的だし、どんどんハタハタを焼き、焼き上がっては食べるのだけどとまらない。
檀一雄の文章に、太宰治が田舎(青森県)から送られてきたハタハタの干物を焼いては野性的に平らげていくという文章があった。
塩焼(干物でも)を食べるたびに、この文章を思い出すのだけど、思わず箸を捨て、手づかみで食らってしまうハタハタにはそんな野生を蘇らせる濃厚な旨味が存在する。
さて、食べるのに忙しくて晩酌のアテとはならない塩焼きに続いて、次なる“湯あげ”を今度は静かに楽しむ。
この料理、昆布だしに酒と塩で味付けしてあるわけで、ハタハタを汁ごとすくい取って、汁の中で崩しながら食べるもの。
ハタハタの真味と、だしのうまさを一緒に堪能できる。
仕事が立て込んでいるために二杯だけと決めていた冷や酒が三杯となってしまった。
そして、しょっつる(塩汁)鍋、しょうゆ漬けなどハタハタは二日ともたず総て食べ尽くしてしまったのだ。
秋田の賢さん、なべ婦人、毎年のことながら、まことにまことにありがとうございました。
寒さと、忙しさの師走、お身体にお気をつけ下さい。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ハタハタへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki/wanigisuamoku/hatahata.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/
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