一般に「オコゼ」といわれる高級魚はオニオコゼのこと。
図鑑などでの基本的な名前(標準和名)には「オコゼ」はいない。
つけ加えると東北での「オコゼ」はケムシカジカのこと。
また釣りなどをやっていて、「オコゼだから気をつけて」なんて注意喚起される、その魚はハオコゼだろう。
ここで登場する主役は当然オニオコゼだ。
市場で活けのオコゼを見ると、「夏も遠くないな」と感じる。
本来五月のことだが、最近では四月の中旬に、もうこんなことを思うようになった。
夏と言っても、その気配なのであって、「風立ちぬ」で冬の入り口の秋を感じるのとは違っている。
身体が冬の寒さを忘れたころに、寒がもどってくる。
四月五月の寒の戻りは、まことに身に染みる。
この寒の戻りの春に出てきたばかりの活けのオニオコゼを、魚屋と値段の駆け引きをして一尾だけ買う。
これは味見。
キロ3000円と小振りにしても安すぎる。やはり不況なんだな、と改めて感じる一瞬だ。
これを『市場寿司 たか』で握ってみて、また活けの歯ごたえを楽しむ。
そして本当の「お楽しみはこれから」なのだ。
オコゼを買って、握りを食べたのは午前10時前のこと。
それから半日以上が経っている。
疲れ果てて仕事から帰ってくる。すでに深夜である。すぐには眠る気になれず、かるく酒をあおる。
ここにオコゼが汁となって登場する。
オコゼのあらは湯引きして冷水で汚れを取り去る。
小鍋に水、酒をたっぷり、刺し昆布、オコゼを入れて一煮立ち。
アクをすくって、昆布を取りだし白みそを加える。
ここからアクをすくいながらことことと。
時間は20分くらいかも知れない。
この間にシャワーを浴びて、着替えして。
冷や酒をちびちびやりながら、つゆショウガをふり、碗にオコゼの白みそ仕立て汁をそそぐ。
ここに和辛子があるといいのだけど、今回はなし。
白みその汁がうまいのは当たり前だけど、それ以上に汁の中でトロリとなったオコゼのあらがうますぎて、うますぎて、酒が一瞬とまってしまう。
オコゼの身は柔らかく、ゼラチン質の鰭まわりは白みそと渾然一体となってしまっている。
名状しがたいものだが、あえて表現すると、くみあげ湯葉のような状態で、そこに甘みがあるのだけど、それは魚の旨味からくるもの。また適度に繊維を感じるのだが、これも口の中でほどけるような、とろけるような。
ボクが、これこそ最上の酒の肴と考えているものは、「最上ながら数知れず」ある。
これは矛盾、人生は矛盾だらけなので、その最たるものである。
なかでも、もう一回選抜して、残るだろう最上の酒の肴が「オコゼの白みそ仕立て汁」なのだ。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オニオコゼへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/oniokoze/oniokoze.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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煮貝の「貝」はアワビなのよ