“つぶ”とか“ぼら”、“ばい”とか語尾についてくる巻き貝のほとんどが、エゾバイ科だ。
エゾバイ科には「まつぶ(エゾボラ)」、「磯つぶ(エゾバイ)」、「青つぶ(ヒメエゾボラモドキ)」、「白ばい(エッチュウバイ)」、バイなど食用として重要なものが目白押し。
“つぶ”は別として、標準和名(カタカナ)の語尾に“ボラ”とつくとエゾボラ属(唾液腺にテトラミンがある)、“バイ”とつくと大体エゾバイ属(唾液腺にテトラミンがない)であることが多い、が例外があってまぎらわしい。
まぎらわしいといえば、もっともっとエゾバイ科を深く調べていくと、迷宮に迷い込んだようになってしまう。
そして今回のエゾバイ属2種、エッチュウバイとオオエッチュウバイのこと。
上の画像を見ると、よーくよーく見ると、いちばん上の1個だけ、違っているように見えないだろうか?
この1個だけは貝殻がやや硬く、手ではつぶれない。硬いから貝殻が壊れていない。
後の4つは貝殻自体の膨らみが強く、手で簡単につぶれるのだ。
やや硬くて、よくよく見るとスマートなのがエッチュウバイ、ふっくらとして貝殻が柔らかいのがオオエッチュウバイになる。
ただし、ここまで似ていては一般の人に見分けがつくはずがない。
北陸から、とくに新潟になると、この膨らんだオオエッチュウバイを非常に珍重する。
ときにキロ当たり5000円くらいというのも珍しくないらしい。
新潟では「なんばんえび(ホッコクアカエビ)」漁でとれるもの。
画像のものは「JFしまね」の箱だから鳥取県境港からきたものだ。
「しまね」なのに鳥取県の港なのはおかしいのだけど、境港に入る多くの漁船が島根県籍なので、取り扱いが「JFしまね」となる。
たぶん隠岐(隠岐島町)のバイカゴ漁(ベニズワイ漁の可能性もある)でとれたもの。
さて、ホッコクアカエビカゴ漁もバイカゴも水深500メートルを超えて行われる。
深海に餌を入れたカゴを沈めての漁なのだ。
エッチュバイとオオエッチュウバイは生息する水深が違っている。
エッチュウバイは水深200メートルから500メートル。
オオエッチュウバイは水深400メートルから1000メートル(以上)。
浅いところにエッチュウバイがいて、深くなるにしたがいオオエッチュバイが見られるようになるということになる。
また水深が浅いと「貝殻が硬く、スマート」であり、深くなると「貝殻が柔らかくなり、膨らんでくる」というのがわかってくる。
この2種の巻き貝が本当に独立した種といえるのか、ときどき疑問に思えてならない。
このような疑問は総ての貝(特に巻き貝)に感じることだ。
一つの箱に両種が混ざるということからとれた水深も推測がつく。
水深400メートルから500メートルくらいにバイカゴ(巻き貝をとる)を落としての漁に違いないのだ。
さて、動物学的な話は置く。
エチュウバイとオオエッチュバイの味だけど、ほとんど同じだ。
違いはこれまた硬さだろう。
エゾバイ属の巻き貝は身(足)がやや柔らかい。
これが関東で、エッチュバイの刺身が受けない最大の原因とされている。
関東の人は巻き貝の刺身にコリコリとした食感を求める。味よりも食感なのだ。
対するにエッチュバイは、食感は悪いが旨味はむしろ、柔らかいから強く感じられる。
この柔らかいエッチュバイよりも柔らかいのがオオエッチュバイ。
例えば酒蒸しにすると、一瞬、「マダカアワビの酒蒸し」なんじゃないだろうか? と思えるほどだし。
その味わいは甘みが強く、旨味も適度に感じられる。ようするに非常に美味。
唯一乏しいのが巻き貝独特の磯臭さ、貝臭さだけなんだから、味は万人向きだ。
オオエッチュウバイには、まさに大物、もしくは上物の風格がある。
こんな名品、上物が、価値のわからぬ関東に来てしまうと、とたんに捨て値となって、ボクのような違いのわかる人間を喜ばせるのだ。
漁師の方達には申し訳ないことではあるけど。
2008年5月7日
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オオエッチュウバイへ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/aniwabai/ooetyubai.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/
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