アカムツの焼き切り

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 土曜日の早朝のことだ。
 何気なく『マル幸』の前を通りかかると、冷蔵ケースの端っこになかなかいい感じのアカムツを発見した。
「いいアカムツだな」
「いいだろ」
「3800円(1キロあたり)かー。やっぱりいい値段だねー」
「いい値段だろ。でもまけないよ」
「どこ産」
「“さがら”ってあったけどな。どこでしょ?」
「静岡県の相良なのかな。それは珍しいや。仕方ない買おうか」
 ボクと渡り合っているのが『マル幸』のクマゴロウ。
 まあ、駆け引きの相手としてはそんなに手強くない。
 小振り、280グラムしかなく、それでも1本1000円はする。
 これを少々オマケして“いただく”。
「ありがとうね。またまけろよ」
「いやなこった」
 このアカムツが値段はともかく、この日の寂しい入荷状況の中では唯一よかったのだ。

 アカムツは近年ではもっとも値段の高い魚のひとつだ。
 福島県、新潟県以南のやや深海に生息している。
 そんなに珍しい魚ではない。
 底曳網か、釣りでとるのだけど、産地では姿を見ない日はない、というくらいに揚がる。
 ただ、問題なのは、とにかく非常にうまい魚だということ。
 当然、うまい魚だから食べたい人は多い、その需要を満たすほどにはとれない。
 この需要と供給のバランスの崩れが高値となって現れているわけだ。
 冷静に考えてみるとアカムツのうまさと、秋、旬のサンマのうまさを比べると、そんなに大きな開きがあるわけではない。
 あえて言えば五分と五分。
 ところが方や貴重品、方やワンサカとれるとなると、価格は月とスッポンなのだ。
 なかなか手に入らないものは、よけいにうまく感じるのだろうか? 人間というものは。
 そうだ、忘れていたアカムツが高いのは姿がよいからでもあるな。
 鮮度がいいと身体全体が、まさにルビーの輝き、目がこれまたルビーのようだ。
 あっといかんいかん、またまた書き忘れたが、この魚、近年はアカムツというよりは「ノドクロ(喉黒)」といった方が通りがいい。
 ここで「なんだノドクロかー」と思われた方はなかなか魚に精通している。
 まあ、玄人はだし、とまではいかないが、玄人モドキくらいには思える。
 「喉黒」のいわれは、喉から腹腔まで真っ黒な剥がれやすい色素が張り付いている。
 まるで「墨を飲んだような魚だな」という人もあり、至言。
 美しい姿に真っ黒な腹の内、食べたらうまい、というのもなにやら妖艶ではないか。

 アカムツの旬は寒い時期だろう。
 ちょっと時季はずれながら、脂がのっている。
 意外に味が落ちないのも、この魚の特徴だろう。
 これを焼き切りにする。
 皮目下に旨味があるので、これがいちばん好きな食べ方。
 やはり、脂ののりはイマイチながら、やっぱりアカムツはうまいな。
 皮下に脂と旨味がある。
 これで辛口の酒があって、土曜日の夕べはなかなか充実していた。
 まんぞくまんぞく。
 脇で梅がアカムツの端っきれを食べている。食べ終わって、なおかつアカムツのあったところを何度もなめている。やっぱり梅ちゃんは魚の良し悪しがわかる、天才アイドル猫なのだ。

【アカムツの焼き切りの作り方】
1 水洗いし(鱗とはらわたを出し)三枚におろす。肝は捨てないで取り分けておく。腹骨、血合い骨を抜く。
2 べた塩をする。ようするにたっぷり塩を振りかけるといい。
3 三枚に下ろした身から水分が浮き上がってきたら、水洗い。水分をよく拭き取る。
4 金ぐしを刺して、強火であぶり、冷水に落とす。肝は湯引きして冷水に。
5 刺身状に切る。肝と柑橘類を添えて出来上がり。
 単に柑橘類をかけて食べるのがいちばんうまい。
 塩気が足りなかったら、柑橘醤油で。

2009年6月20日
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アカムツへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/suzukika/akamutu.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


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コメント(6)

こんにちはぼうずさま

先日はお世話になりました。
購入風景を目の当たりにしてましたので、
こちらのブログを読み笑ってしまいました。ご推奨頂きましたので私も購入しましたが、占有出来ず塩焼きになって我が家のおかずの一品となってしまいました。
塩焼きも美味かったですが、焼き切りで食べるのも美味そうですね!今度、試してみます。来月の築地土曜会にも参加させて頂きますので、その際は宜しくお願い致します。

こんにちはぼうずさま

先日はお世話になりました。
購入風景を目の当たりにしていましたので、こちらのブログを拝見し笑ってしまいました。ご推奨頂きましたので、私も買い求めましたが占有出来ず、塩焼きのなって我が家の夕食の一品になってしまいました。塩焼きは美味しかったですけど、焼き切りって食べ方もありですね!
来月の築地土曜会も参加させて頂きますので、その際は宜しくお願い致します。

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こんにちはm(__)m
土曜会なる会があるのですね(^^)/
遠いため参加できませんが、築地行きたいです(ToT)/~~~機会があれば是非混ぜてくださいm(__)m
赤むつ美味そうですね!!いつも楽しみにしています♪
ミリンが本日入荷しましたので、相談室にどうかと思いましたが、写真とコメントアップしました。
場違いでしたら申し訳ございませんm(__)m
ミリン今からお客様へ提供いたします!!夏にぴったりですよ

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ごめんなさい、たっとのお父さん、どのようなご職業かすっかり忘れています。
「ミリン」は味醂ですか、海藻のミリンでしょうか?
気になるな。

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私は博多で魚料理の小さなお店をやっております♪料理人ですよ!
ミリンは海草のミリンです。
魚貝類相談室に写真載せています。
先ほどお客様も帰り、もうすぐ一眠りして4時には福岡中央魚市場へ仕入れです♪

どこにリンク願いをお出しすればよいかわからず、コメントに書かせて頂くことにしました。

 ぼうずコンニャクさんの「寿司図鑑1000かん」を私の写真ブログのリンク先として使わせて頂きました。よろしくお願いいたします。

 先日、本屋で「寿司ネタ手帳」というのを見て買いそうになりましたが、ネットの「寿司図鑑」の方が詳細で種類も豊富。買わなくて良かった〜と思いました。

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このページは、管理人が2009年6月26日 12:56に書いたブログ記事です。

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