午後2時を過ぎて、それでも長浜名物をと歩き、食べ。
また歩き、街の駅というのがあって、
土垂(里いも)が置いてあったので見た目は若干「悪し」だが買う。
急がなくてはいけないのに、蝋燭を売る店があまりにもボクの生家の造りに似ていたので見せてもらい、また郷土料理を売っている総菜の店に寄りなどしていて、一軒の古本屋を見つける。
地方を歩いていて、古本屋に寄らない、なんてことができるわけがない。
『さざなみ古書店』は町家の奥の奥にあり、
ちょっとコケティッシュなオネエサンが本の小さな森の中に座っていた。
なんとなく話がはずみ、この町家が長浜の街をうねうねうねる
米川に面してあり、船着き場があるなどを見せてもらう。
長浜の和菓子店などを教えてもらったのもありがたかった。
さて、問題は「焼き鯖そうめん」である。
『忘れぬうちに伝えたい 湖北町の伝統食・地産食』(湖北町食事文化研究会)にあるものはようするに、若狭から来た焼き鯖(四十物)を素朴に煮つけて、その煮汁にそうめんをからめたもの。
では、長浜名物とされる「焼き鯖そうめん」はどのようなものだろう。
昼下がり、一軒目は準備中、二軒目も準備中。
三軒目の『翼果楼』が営業中で、店の奥にある座敷に座り、
「焼鯖そうめん」をお願いする。
『翼果楼』は「よかろ」と読むのである。
まことに長浜の方達は文字で遊ぶのが好きらしい。
お店のオネエサンに「焼鯖そうめんください」といったら
「●●膳だといろいろつきますよ」的なことを言われた。
どうやらここは完全無欠の観光客相手の店らしい。
単体で待つこともなく出てきた「焼鯖そうめん(840円)」は
「あれっ?」といった代物だった。
たぶん明治期に作られた、なます皿に煮染まった素麺がまるで丈の低いモンブランのように小山を作り、斜め麓に焼き鯖の煮たものがくっついている。
見た目がやたらにわびしい。
体操着で鹿鳴館に出てしまった淑女のような、そんな風情だ。
まずは焼き鯖に割り箸を突き立てて驚いた。
これは加工品のようなものであって料理ではない。
完全に佃煮と言えそうなくらいに煮上げていて、
これはこれでうまいことはうまい。
でも料理とはとても思えない、これはあくまで
加工品的作り方をした物体である。
下のそうめんの太さにも問題がある。
たぶん上等な、例えば三輪あたりのものを
使っているのだろうけど、繊細に過ぎるのである。
総合的な味としてはまあ、及第点すれすれだが、
これを「焼き鯖そうめん」ととらえるのには無理がある。
ちなみにボクが通りすがりの大正生まれの女性に聞いて、
滋賀県の料理の研究書のかずかずを調べて作ったのも見て欲しい。
焼き鯖はあくまでも煮ものであって、そうめんは煮汁にからませただけ。
味わいは素朴で腹にたまる、腹を満たすものなのである。
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