2015年5月20日アーカイブ

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 五城目町に中心地というものがあるのだろうか? あるとすれば朝市のある夕下町周辺だと思う。ここに道幅の広い県道があり、この道沿いに料理店が数軒並んでいた。

 夕方、酒を飲むために町を歩く。最初、この『松竹』の外観のあまりにも素っ気ない造りなのと、それでいながら「料亭」という文字を嫌い通り過ぎる。

 かなり歩いてもこれといった店が見つからない。それで仕方なく入った。

 店内に入ると、いかにも店舗造りのプロというか、実はなにも考えていないヤカラたちが無理矢理規格どおりの店の設計を押しつけたといったもの。このようにその土地らしさ、よさをダメにする店造りはやめた方がいいと思うな。

 そこで待っていたのが、「いかにも秋田のおっかさん」といった雰囲気をいっぱい発散している女将さん。肌がきれいでふっくらとして、実に魅力的。

 女将さんはボクがカウンターについてもせっせとミズの皮を剥いている。酒の注文だけ聞き、「次ね、北島三郎がでっから、歌終わるまでまって」という意味のことを言ったと思う。

 この女将さんが下ごしらえをした青いミズの入った「だまこ」汁が実によかった。ただしこの店のすごいところはラーメンもあれば丼物もある。お弁当もあるというところだろう。秋田県という明らかに鄙の地のバイタリティーがこんなところにも横溢している。


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 鉄鍋に入った具材の主役は「だまこ餅」。これはご飯を半殺しにして丸め、表面を焼いたもの。ほかには朝市にも並んでいたチシマザサの竹の子、ねぎ。これに女将さんが下ごしらえしたばかりの青いミズが入っていたが、これが初夏の「だまこ餅」の代表的な具材なのだろう。この上に、ごぼうや豆腐や季節外れの舞茸も入って賑やかかつ豪華である。汁は鶏ガラと鰹節だしを合わせたしょうゆ仕立てで、まったりと優しい味。

 この汁が実に味わい深い。塩分濃度もほどよく、あくをよく引いているのか苦みもない。「だまこ餅」はむっちっとしているが、ご飯の粒感も残っていて、甘味がある。そしてなによりもこの鍋を支配しているのが、青いミズの香りである。シャキシャキとした食感がして野生を感じさせてくれる香りが鼻に抜ける。

 ここで問題となってくるのが「きりたんぽ」と「だまこ餅」の違いである。この二つは基本的に同じもので、形が違っているだけに思える。「きりたんぽ」は古くは単に「たんぽ」で秋田だけのものではない。また「きりたんぽ」は秋田県北部大館市などで作られていたもので、秋田市や八郎潟周辺、男鹿では「だまこ餅」を作るのが一般的であった。

 八郎潟に面した五城目町は「だまこ餅」の本場に当たるわけで、この地で「だまこ餅」を食べることができたのもうれしい限りではある。


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 名駅にもほど近い那古野というところはまことに不思議な区画だ。名駅の高層群が見えようかというところなのに円頓寺という昔ながらの商店街がある。そこから路地に入り込むと仕舞た屋や古い食堂があり、もっと狭い路地に入りこむと地蔵尊のほこらがあったりする。

 この円頓寺商店街のいちばん外れにあるのが『五条』。正確には「どて焼 五条」なのかも知れない。もつを豆味噌で煮込んだ、「どてやき」、「みそおでん(これも「どて焼」と言うらしい)」、「串かつ」、「焼き鳥」などがある。酒は主に焼酎と日本酒。一品は総て300円以下。「串かつ」は1本70円と非常に安い。

オヤジさんは愛想がよく聞くと丁寧に対応してくれるが、女将さんの無愛想振りは稀に見るといったところ。


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「串かつ」は豚肉を串に刺し、フライに揚げたもので、名古屋居酒屋でもっとも重要な品のひとつ。値段は、高くて1本100円前後、安いとこの店のように70円ほどしかしない。これなら子供にも買い食いできるはずで、きっと駄菓子屋などにもあるのではないか? 要するにいたって下手な料理である。

 名古屋ならではと思うのが、この「串かつ」を「どて焼」の煮汁(豆みそで作ったソースのよう)に浸して出してくれること。

 これは明らかに名古屋の居酒屋の基本中の基本、「どて焼」の鍋が店の中央部というか、分かりやすいところにあり、揚げたての「串かつ」を「つけてみてもおかしくない」状況にあることから自然発生的に生まれたものだろう。

 ちなみに「串かつ」はいつ頃、どこで誕生したのだろう。例えば「とんかつ(揚げ油に泳がせるように揚げる)」の誕生が明治の終わり頃だとして、この料理店の料理が、「串かつ」というより簡便な形に変わった、その意味合いを探るといいのだと考えている。ようするに「串かつ」の誕生は屋台などの屋外的な料理提供の場から生まれたに違いない。

 さて、名古屋で「串かつ」を食べるときは、必ず半分は「どて焼」の煮汁に浸したもの、半分はソースにする。どちらかを選ぶとすると、よそ者のボクには「どて焼」に汁につけていただくことになりそう。

 この『五条』でもソースと「どて焼」を半々でお願いする。この「どて焼」の汁が色の割りにはあっさりして、少々脂っこい「串かつ」と相まって飽きの来ない味になっている。食べ過ぎ、飲み過ぎに要注意。


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