五城目町に中心地というものがあるのだろうか? あるとすれば朝市のある夕下町周辺だと思う。ここに道幅の広い県道があり、この道沿いに料理店が数軒並んでいた。
夕方、酒を飲むために町を歩く。最初、この『松竹』の外観のあまりにも素っ気ない造りなのと、それでいながら「料亭」という文字を嫌い通り過ぎる。
かなり歩いてもこれといった店が見つからない。それで仕方なく入った。
店内に入ると、いかにも店舗造りのプロというか、実はなにも考えていないヤカラたちが無理矢理規格どおりの店の設計を押しつけたといったもの。このようにその土地らしさ、よさをダメにする店造りはやめた方がいいと思うな。
そこで待っていたのが、「いかにも秋田のおっかさん」といった雰囲気をいっぱい発散している女将さん。肌がきれいでふっくらとして、実に魅力的。
女将さんはボクがカウンターについてもせっせとミズの皮を剥いている。酒の注文だけ聞き、「次ね、北島三郎がでっから、歌終わるまでまって」という意味のことを言ったと思う。
この女将さんが下ごしらえをした青いミズの入った「だまこ」汁が実によかった。ただしこの店のすごいところはラーメンもあれば丼物もある。お弁当もあるというところだろう。秋田県という明らかに鄙の地のバイタリティーがこんなところにも横溢している。
鉄鍋に入った具材の主役は「だまこ餅」。これはご飯を半殺しにして丸め、表面を焼いたもの。ほかには朝市にも並んでいたチシマザサの竹の子、ねぎ。これに女将さんが下ごしらえしたばかりの青いミズが入っていたが、これが初夏の「だまこ餅」の代表的な具材なのだろう。この上に、ごぼうや豆腐や季節外れの舞茸も入って賑やかかつ豪華である。汁は鶏ガラと鰹節だしを合わせたしょうゆ仕立てで、まったりと優しい味。
この汁が実に味わい深い。塩分濃度もほどよく、あくをよく引いているのか苦みもない。「だまこ餅」はむっちっとしているが、ご飯の粒感も残っていて、甘味がある。そしてなによりもこの鍋を支配しているのが、青いミズの香りである。シャキシャキとした食感がして野生を感じさせてくれる香りが鼻に抜ける。
ここで問題となってくるのが「きりたんぽ」と「だまこ餅」の違いである。この二つは基本的に同じもので、形が違っているだけに思える。「きりたんぽ」は古くは単に「たんぽ」で秋田だけのものではない。また「きりたんぽ」は秋田県北部大館市などで作られていたもので、秋田市や八郎潟周辺、男鹿では「だまこ餅」を作るのが一般的であった。
八郎潟に面した五城目町は「だまこ餅」の本場に当たるわけで、この地で「だまこ餅」を食べることができたのもうれしい限りではある。
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