酒田市の老舗・焼きそば店『米沢屋』は古いビルの路面店で間口が狭い。店に入ると右手にテーブル席、左手にカウンター。カウンターの奥に厨房(鉄板)がある。店の奥に狭い座敷があり、そこにオヤジ4人で座り込むともう身動きがとれない。
この大柄な(ある意味デブな)オヤジ4人が狭すぎる小上がりにいる、という光景が実に滑稽なのはいうまでもない。しかもこの小上がりにはテレビがあり、柱には不思議な切り絵やワッペンが貼ってある。まるで子供のいる一般家庭の居間に迷い込んでしまったようで、旅人にとってはなんとなく居心地が悪い。
さて当店は繁華街にある小さな焼きそば専門店で、外観はなんの特徴もない。この外観を見て、興味をそそられる観光客がいるとは思えない。地元民でなければわからない名店といったところだろうか。ただし繁華街にあってテーブル席のある焼きそば専門店というのは珍しいのではないだろうか。
粉もの文化のメッカ関西で焼きそばは、あくまでもお好み焼きのサイドメニューであって、これだけで店として成立するものではない。焼きそばだけで路面店として成り立っていること自体珍しいと思う。
当店は『米沢屋・中町店』とある。とすると市内に『米沢屋』は何店舗あるのだろう。また、この焼きそば専門店は酒田市内に何軒くらいあるのだろう。そんなことを調べるのも、再度酒田に来たときの楽しみになりそう。
品書きを見ると、これが非常に複雑。とりあえずオススメの「大盛肉玉子」にする。
待つこと暫し。
やって来たのは中華蒸し麺そのものの色の焼きそば。肉と卵焼き、紅しょうがのっていて、刻み海苔が散らしている。
まずはそのまま麺を食べると、しっかりと焼き上げてあるためか香ばしく、塩味がひかえめについている。これだけで十分うまいのだが、地元民の太田さんと加賀谷さんが、さっさとソースをかけているのを見て、ちょんちょんと一ヶ所だけにかけて食べてみる。ソースはいたって普通のウスターソースではないだろうか? 少し甘めに感じられるが、これはソース自体が甘いのか、店で加減をしているのかはわからない。
生のソースと焼き上げた中華蒸し麺は決して融合することはない。四国では天ぷらにソースをかけるのが普通だが、そのソースがけした天ぷらに似ている。「ソースの味」と、その「ソースを絡める物」はまとまりがなくバラバラなのだけれど、意外なことに生のソースの味がなかなかいいのである。これって大発見ではないだろうか。東京都内のお好み焼き、もんじゃ焼きの店では焦げたソースの味と風味を楽しむのだけれど、この生のソースもいい。
酒田名物といっていいのかどうかは不明だが、この「後がけソース焼きそば」はくせになりそうな味。ボクが酒田に住んでいると1週間に1度は必ず足を運んでしまいそうだ。
地元のお二方に聞くと、酒田では昔からソースは後がけであったという。だから単に焼きそばを注文すると、これが出てきていたらしい。とするとかれこれ50年近く前から、この焼きそばがあることになる。
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