築地など東京では「なめた」と呼ばれているのがババガレイである。主に北海道や三陸から入荷してくるのだけれど、このカレイがくると冬到来を感じないではいられない。
普通、カレイは菱形状であるがこのカレイは楕円形の鈍い形をしている。そして目のある表はだんだらで黒くカレイの色合い、裏側は漆喰のような白、その皮がだぶついてやや薄汚れて見えるので「婆がれい」なのだと思う。大きくなる魚で2キロ、3キロなんていうのが珍しくない。ただ、どうにも見た目では食指は動かない。
ところがこのカレイ、東京では高級魚のひとつである。現在にあってキロあたり2000円を超えてしまうと、なかなかスーパーなどに並ぶことはなく、主に小売りではデパートや特種な魚屋に行くことになるが、このきわどいラインを当然のごとく超えて取り引きされている。また、それ以上に驚くのは岩手県や宮城県人のこの魚への熱狂振りである。今はなくなった釜石の橋上市場では、魚屋のいちばん目立つところに置かれて5000円、6000円と値がついている。それに、数人のおばちゃんがとりついて熱心に選んでいるのであるから、ここではこの魚が主役なのだ。岩手では年取り魚としても使われる。
それでは、どのようにして食べられるかというと、煮つけなのだ。刺身でも、塩焼きでもなく煮つけというのが東北ならではだろう。表面のぬめりとウロコを取り、適当な大きさに切り分ける。真子が入っているので切るときに注意が必要である。それをやや水を多めにした煮汁で炊きあげるのだ。熱を通すとただでさえ分厚く白い身がぶわっと膨れあがるように感じられる。そして皮がしとっとしてくる。これを煮汁ごとむさぼるように食うのだ。絹のような滑らかな繊維質の身が煮汁をすくい上げる。その身と煮汁に濃厚に感じられるのは出しである。ババガレイの旨味が出しとなって煮汁にあり、そして身の方も旨味はありすぎるほどにあるのだ。たぶん、この煮つけを食べると、「煮つけ」というものの価値観が変わるはずだ。
今年の年取り魚は「なめたがれい」にするつもりだ。
市場魚貝類図鑑のババガレイのページへは
http://www.zukan-bouz.com/karei/karei02/babagarei.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
11月21日(月曜)のこと 後の記事 »
11月22日(火曜)のこと