干潟を上流に向かう足が重くて土手に上がる。羽田を目差す飛行機の羽が透明な青い空にキラリと光る。対岸にはモノレール。こんな景色、子供の頃は憧れていた気がする。
上流、高速大師橋のすぐ下流に明らかに工藤夫婦が魚を追いかけている。上がっていた土手を大急ぎで下って葦原を抜けて走る。網を持って駆け回っているのが工藤孝浩さん、そして岸で奥さんが獲物の入ったビンを持っている。
鮟鱇さんとふたりで岸辺にたどり着くと工藤さんが網を上げてきた。岸辺に網を置き取った生き物を拾い出すのだ。驚いたのは、この奥さんの獲物を見つける能力である。見つけたものはみんな「ニョロニョロ」と言ってのけるのだけれど、小さなイサザアミひとつ見逃さない。ちなみに奥さんは貝が専門だという。
一見長閑そうに見えるが川風がビュンビュンと冷たく、身体が凍り付いてくる。こんなときに工藤さんの野生の血は明らかに活性化されている。冷めないのだ。岸辺から太股くらいの深さのところまで行き、網を構えて一気に岸辺まで押し上げてくる。泥とともにすくい上がるのは、厳寒の日のためか少ない。
網から見つかるのはマサゴハゼ、アシシロハゼ、エドハゼに環形動物、イサザアミ。どうしてこの小さなハゼを同定できるのか? 凡人にはとても真似のできない領域である。
気が付くと漁る人を見る長靴は深く干潟に取られて動かない。こんな深い岸辺を、どうやったらあれほど素早く動けるのか、つづきさんが千葉の海人なら、この人、神奈川の川人ではないか?
そんな哀れなこちらに気が付いたのか、「もう上がりましょうか」ととても新鮮極まりない笑顔で言ってくれる。土手を上がって公園にいたのが中本賢さん。工藤さんが透明で薄型の水槽にエドハゼを入れて見せると、どう見てもふたりとも少年にしか見えない。
エドハゼ、イサザアミを見せてもらっていると、中にある環形動物を専門家という男性に進呈している。残念ながらお名前を失念してしまった。これがカワゴカイであるというのをお聞きしただけでも収穫大である。
工藤さんにイサザアミを少し分けていただき、今回の会は終了した。
小島新田の駅までは鮟鱇さんと歩く。考えてみるとシモフリシマハゼを捕まえて喜んでいるのだから、鮟鱇さんも不思議な人である。川崎駅までご一緒してお別れする。
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海には春が ニシン