立春を過ぎても季節は春とはならない。むしろ東京湾猿島回りには寒風が吹く。そんな春未だ遠しの海に出てワカメをつみとってもらった。面白いのはワカメをつむだけで春めいて感じられるのだ。
「ワカメを干すときは寒い海風が欲しい」と三浦のワカメ養殖をする人に聞いたことがある。すなわちワカメとりの最盛期は寒さも頂点となった2月なのだ(今年の寒さは別)。それなのにワカメに春を感じるのは若竹煮のためだろう。でも生ワカメのうまい2月に竹の子なんてあるわけない。それでも市場には竹の子があるのだけど、これは九州からの促成もの(この言葉は江戸時代からあるはず。間違っているかな)、もしくは中国産である。
生ワカメが硬く長けたときにやっと出てくるのが地ものの竹の子。しかも走りである。3月、4月となって名残の生ワカメは硬くなり苦みを持つ。これを一度ゆでこぼして(苦みがあるので)竹の子と煮るのもいいだろう。ただ、ワカメは干したものの方が味はよい。徳島は鳴門の糸わかめを使った若竹煮が本来の我が家風である。それでも到来した生ワカメに工夫を凝らしてみた。
東京湾横須賀のワカメは軟らかいのが特徴。徳島育ちには思いも寄らなかったのはこの軟らかなワカメの味が素晴らしいことだ。そして煮るのではなく、熱い煮汁にワカメを入れてすぐに火をとめる。煮浸しが生には向いている。竹の子は我が家の家計に響かない中国産。しっかりアクを抜いたもの。
竹の子の苦み、ワカメのまったりした旨味、海の風味。天盛りにする木の芽がないので脇役で中国野菜のコウサイタイを使ってみた。出来上がって、これでは料理屋の料理ではないかと反省したが、うまいので良しとする。
寒風を 一瞬とめる 若布刈り(秋野まさし)
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