東京都の北、隅田川をわたって千住にある足立市場を見てきた。残念なことにミニ築地でしかなかったものの、少なからず収穫もあり、という不得要領な市場の旅となる。
さて、東京都中央卸売市場足立市場は日光街道千住大橋を北千住に渡ってすぐ、隅田川に面してある。電車を利用するなら、京成千住大橋駅から日光街道を南に下ることしばし、左手がこぢんまりした入り口となっている。正門前にたどり着いたのが7時過ぎである。この時間なら仲卸が品物を並べ終わっている。
千住に市場が出来たのは古く徳川以前の1500年代の半ば。主に近郊の野菜、また川魚などを取り扱っていた。そして江戸期、明治、大正、昭和とやっちゃ場(青果市場)として名をはせて、日本橋にあった魚市場から関東大震災時に分派してきた東京北魚市場と合わさって1979年まで賑わいのある市場であった。これが、やっちゃ場が同じく足立区入谷(決して江東区ではない)に移転してからはやや低迷しているのであるという。
正門を過ぎてすぐに食堂が並ぶ小さな棟がある。そこを通り過ぎると右手に八百屋、また加工品を売る小さな店舗があり、先に進むと金比羅宮がある。その右手に建物があって、入ってみると妻野菜や昆布、乾物などの店がある。その建物を通り過ぎて正面が水産仲卸の棟である。店舗数は69、そこにあったのは築地のミニ版とでもいったものである。
見回して足立市場ならではといった特色のある店舗は見あたらない。箱単位で取引をする店、特種とこの箱取引を兼ねる店などどの店も築地にあるものと寸分変わらない。また塩干が場内の端にあるのも築地と同じだ。ただし八王子などと比べると遙かに上物が多い。また値段も築地よりも一段安いように感じる。結局2回ほど回って、残念なことにコレといったものに出合えなかった。やはり、ここにあるのはミニ築地でしかない。
仕方なく、優しく声をかけてくれたマグロ屋の『樋倉』さんに「足立市場らしい店はありませんか? 例えば川魚問屋さんとか」と聞くと。旧日光街道沿いに2軒あるという。場内で探すのを諦めて、旧日光街道を北に歩く。この狭苦しい道にクルマが連なり、そのクルマを縫うように、川魚問屋を探すがなかなか見つからない。歩く内に見つけたのが「青物問屋」の古いカンバン。これがあちこちに散見する。これはこの日光街道沿いにやっちゃ場があり、青物問屋が軒を並べていたよすがとして飾ってあるのだろうか? それとも今でも青物問屋なのか?
千住仲町に入ってやっと見つけたのが『鮒輿』。中を撮影させてもらって、創業のことを聞くと、なんと現当主が16代目、創業380年になるという。それなら芭蕉が奥の細道で千住の宿に来たときにも『鮒輿』はあったということだ。
もう一度だけ足立市場にもどって場内をざっと見て回る。すると茶屋が数列並ぶなかに面白い建物を見つけた。これは行商の人たちが下ごしらえをするところ。冷蔵ケースを乗せたトラック、それにバイクで引くリヤカーが建物を囲む。リヤカーには氷のケースがはめ込まれていて、老人がパックつめした魚を並べている。
「これはなんというものですか?」
バカな質問だが、こう言うしかないのだ。
「『りんたく』っていうね」
屋号を聞くと『魚敏』であるという。
「これはもう許可が下りないんだよ。このバイクで引くのはオレの代までだね」
この行商の茶屋で聞いたのはやっちゃ場が一緒にあったときの賑やかだったこと。足立市場の旅の終わりは、なんだか寂しいものとなった。
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