どうしてこんなものに惹かれるんだろうと仲卸で白地に赤い紅ショウガの蒲鉾を手にとって、自問自答しながらパッケージの裏側をみたら「揚げかまぼこ」とある。でもこれはどうみても揚げているようには見えない。なんだかへんな蒲鉾だ、と思い買って帰ってきた。
もう一度裏側を見ると「いとよりだい、はもその他」とあり、色合いからしてそのまま食べるものなんだなと思ってワサビと醤油を添えて食卓に出した。その味わいは上品で軽い、そして魚の持つうまみも感じる。買うときに感じたように「揚げ」た重さがないのはどうしてだろう。また紅ショウガの意味合いはなんだろう。確かショウガの持つ成分は練り製品を硬くするもの。でも、じっさいにそんなことは気にならなかった。それより色合いの割に紅ショウガの味というか苦みなどが感じられないで肩すかしを食ったようであった。でも、これはとにかくうまい。
とにかく好きな味わいであるが、この蒲鉾、ボクが10年前なら買っていただろうか? 否である。どうも食に関して変に潔癖というか本物志向に走ってしまうのが30代から40代で、そんなに煩わしく「食い物」のことを考えなくていいよ、とアドバイスしてくれる人は皆無だった。そしてこの食に対して無駄に鋭角的な時代というのは多くの人が経験していそうである。この食にこだわるという一見無意味な時間を経てボクの場合、食べ物に適度に遊べるようになってきた。たぶん、定年退職をしたり、またある年齢に達すると多くの人が同じように「食の世界で遊べるようになる」。すると、この「ヤマサ蒲鉾」の紅ショウガがくっきり赤い模様となっている蒲鉾なども「たまには買ってみたい」ものとなるはずだ。
なぜだろう、人間にはこのようなキッチュなものに惹かれる部分があり、それを適度に解放しないといけないのだ。そうしないと朗らかで、また冒険的で、開拓的な人生が送れない。
閑話休題。
この紅ショウガの縞模様くっきりの白い蒲鉾は食料品店では主役ではない。でも、どうにもこの手の商品がないと高品格を欠いた日活映画のようだ。「ヤマサ蒲鉾」というメーカーは極上の鱧や穴子を使った蒲鉾も作っている。そんななか、このような一見キッチュな製品も作るとはさすがに関西のメーカーは凄いのだ。
最後に「ヤマサ蒲鉾」のサイトを見て思ったことなのだが、ボクなど四国でも関東で言うところの「薩摩揚げ」は「天ぷら」と言っていた。それがいつの間にか「天ぷら」というのを「薩摩揚げ」と呼ぶようになってしまっている。いったい今でも四国では「天ぷら」なのだろうか? 前回、大阪に行った限りでは鶴橋でも野田の市場でも「天ぷら」である。和歌山でもそうだった。この「天ぷら」と呼ぶ地域も気に掛かるな。
ヤマサ蒲鉾 兵庫県姫路市夢前町置本327-16
http://www.e-yamasa.com/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
東京仙印商店「にしん切身焼」 後の記事 »
2006年8月17日お盆明けの市場便り