まな板の前で「どうしたらいいんだろうね」、たかさん、腕組みしてこまっているのだ。「たかさん、がんばってね。今日朝、大磯にあがったばかり、朝どれだからね」、ボクはかたわらで声をかけるだけで楽なものだ。
まな板の上には真っ黒なクロシビカマス。相模湾一帯では「炭焼き(すみやき)」と呼ばれている。個人的にはどうしてクロシビカマスなんてへたくそな和名になってしまったのか? 残念でならない。絶対に「スミヤキ」がよかったのである。間違いない。それが証拠にこの和名をよく忘れてしまうのだ。それでときどき「炭焼き」の標準和名って「なんだっけな」と思い出せずに苦しむ。この魚、太平洋側では千葉県外房沖からやや温かい地域に棲息する。日中はやや深いところにいて、夜になると浅い場所に来てイワシなどの小魚を追いかけている。見かけも実際にも獰猛な肉食魚である。その歯は鋭く釣り上げたときなど注意しないと怪我をする。
まな板の上のクロシビカマスはとりあえずは三枚に卸されている。たかさん、まずは皮を引いてしまう。血合いの部分に小骨が入っているのはいいとしても、皮から身の方に斜めに太くしっかりした骨が並んでいる。これを皮近くの身をそぎ取るようにするとやっと刺身用のリボンのような冊がとれた。「とすると皮は引かなくて最初から骨を避けて身をそぎとればいいのかな?」っとやっと一本分を仕込み終わる。
まな板の上には大小4枚のリボン状の冊。これを刺身で食べてみる。
「これなんだ」
追って言葉が出てこないようだ。
「うまいよね」
「…………」
「脂かな甘いのは、それに身の食感もいいでしょ」
シコシコとした食感で噛みしめるほどに甘味がくる、それが明らかに脂の味わいだろう。そして身自体のうまみもある。
「これなら苦労のしがいがある」
それを握りで、また帰宅してから煮付け、鍋材料にして堪能した。そして感動した。「炭焼き愛してるよ」と言ってしまった。あまりのうまさに幸せな気分になった。
あまりにうまかったので手に入れた相模原綜合卸売市場「デイトレード」の小田剛さんにケータイを入れてみた。すると「炭焼きはこれからもっと脂がのってうまくなるんです。しかも値も下がる」とのこと。勝手に「炭焼き(クロシビカマス)」は冬の季語にしてしまおうかな。
今回のものは神奈川県大磯の釣りものである。旬は寒い時期。これからどんどんうまくなってくる。
相模原市相模原綜合卸売市場「デイトレード」にて
市場魚貝類図鑑のクロシビカマスへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/kurotatikamsu/kurotatikamasu.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
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あの骨さえなければねぇ・・・
去年、刺身、煮付け、塩焼きで食べましたが、私は塩焼きが一番でした。
半身ずつ分け合った知人はイタリアン向きとの評価でした。
http://www.fromages2002.com/delices_site/archives/2005/11/post_146.html
鮟鱇さん、その通りですね。クロタチカマス科の食用可は骨だらけ、骨が気にならないのは油がこわい。