洋食界のスターのくせに知名度が低いというアンバランスな料理がイカリングである。「それじゃスターじゃないだろう」と思われる方、あなたは食卓での何気ない箸の動きを見ていない。我が家の定番料理のひとつがイカリングなのだが、いたって人気が高い。最初になくなるのに落語家に例えるならトリとはおかしだろうか。まあトリをとる真打ちでは今はなき金原亭馬生、一見平凡だがなんど聞いても味が深いというか飽きないところが似ていると思うのだ。
そんなイカリングをいざ作るとなると、これがなかなか難しい。難しいというのは材料選びから始まる。ボクとしてはコウイカ類、アオリイカなんておすすめなのだが、どれもこれも一食分で1000円前後の、いやいやもっと原材料費がかさむ。ということでは困るので普段作るなら冷凍物のアオリイカでもいいし、アカイカ(決してケンサキイカではない)をおすすめする。もしも開いていたらおいおいリングに作り直す芸当もやらかすが、これは別の機会に。
でも、こいつらがなくてもスルメイカだってうまいのである。スルメイカというのは重宝なもので、げそもエンペラも足も、捨てるところがない。しかも刺身でもいけるのだけれど、何気ない日常のお総菜にしてすこぶるつきにうまいのである。また食育というのが叫ばれているが、世に中にあっていかに「惣菜」というのが重要か、もっと平凡なところから始めろよとお役人さんにももの申したい。
スルメイカの胴は刺身、イカリング、炒め物などに、げそとむいた皮(これは捨ててはいけない。煮物以外にもみそ汁に入れると味が深くなる)は何と言っても煮物に、エンペラは酢みそ合えがうまいし、ワタは凍らせてルイベ、またげそなどとワタ焼き、ワタを使った鍋にもなる
さてスルメイカの表面の皮を剥いたら、輪切りにする。輪切りにしてなんども裏表くるくるしながらよく薄皮をとる。とったらこんどは水分をこれまたよく拭き取るのだ。そしてラップをしないまま小一時間冷蔵庫で寝かせよう。こうするとより無駄な水分が飛び、揚げているときにはねない。
今回は長年疑問に思っていたイカの身は裏側、すなわち内臓に向かっている方を内側に向ける方がいいのか? それとも生きているときとは反対に外側に裏返す方がいいのか? を試してみた。乾燥パセリの付いているのが表は表、ついていないのが裏側をくるりと表に返したもの。
作り方は簡単、身に塩コショウ、粉をつけて、卵と少しの小麦粉でとろみをつけた衣をつける(イカのフライのときにはこのとろみが必要。卵だけよりうまく揚がる)。これにパン粉をまぶして180度くらいの油で短時間揚げる。
出来上がったら裏も表も変わらなかった。また普通に揚げてスルメイカは確かにやや硬いものの子供にとっても気にするほどではなかった。
また冷凍のロールイカや高級なコウイカを使うよりも味はスルメイカの方がいいのではと思ったのである。驚いたことに熱を通したときのスルメの旨さというのは高級イカを超えてしまいそうだ。シャワサワと口の中で咀嚼している内にイカの甘味が吹き出してくる。そこに香ばしーい揚げたパン粉の香り。
「父ちゃん、これじゃ足りないぞ」
子供は無邪気なことを言うのである。今回使ったスルメイカが3ばい。これが食卓にあった時間がものの5分でもないのだ。とするとこの2倍使っても10分持たないわけでスルメイカならお財布の心配はしなくてもいいけど「父ちゃんの輝かしい青春時代はどうしてくれるんだ」、といいたい。「あんたもう青春じゃないでしょ」と言われると五十路なので返す言葉もないが、「年を取っても燃えているんだぞ、父ちゃんは」と言いたいのである。
閑話休題。
手間はかかるものの、その煩わしさを忘れるほどにイカリングというのはうまい。面白いのはビールにも焼酎にも、そしてもっともっとご飯にも合うのである。今週末もスルメイカでイカリングを作るぞ!
市場魚貝類図鑑のスルメイカへ
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/tutuika/surumeika.html
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