いったい「たらこ」とはなんであるのか? 「親の顔が見たい」というならば、鷹を生むトンビの親、スケトウダラさんが「私恥ずかしながら親なんです」と名乗り出ることになる。
なんだ、タラ「子」というから「たらちり」「タラの昆布締め」の鱈かと思えば、練り製品になってしまう「あんたのようなヤツが親かいな」というのは酷だろう。スケトウだって好きですり身になっているわけじゃない。それに鮮魚としてもうまいのである。
これがマダラの子。なんだか表面が薄汚れていて、見ていて迫力がある
じゃあ、正真正銘の鱈、真鱈の子はどうなんだいというと、これが不肖の子なんである。市場での評価はかなりの下段。だいたい白子があれほど優れているのに、真子の安さはヒドイじゃないか? 白子はキロあたり5500円もするのに、真子は1000円しかしない。かの「たらこ」だってキロあたり4100円だからマダラ子の4倍なのである。
その価値4分の1の「真たらこ」が大好きな人がいるらしいと気がついたのが今週になってから。八王子綜合卸売センター『高野水産』が毎日仕入れてくる一箱を、そのままごっそり持っていく。誰なんだろうと気になって張り込みを開始。
すると意外やいたって普通の食堂のオバチャンなのである。
「バカね。わたしゃ、生まれが山形だっすから。この煮つけたのが好きなんだよ(ここんところ波線を描くように高低をつけて読んで欲しい)」
お客にも好評で小皿に入れておくと真っ先になくなるんだという。それを脇で聞いていたのが秋田出身の寿司職人。
「そうだ。子供の頃食べていた“たらこ”は“鱈子”でもマダラのこだったすね」
なんだか二人してうれしそうだ。
“真だら子”は決して“すけそう子(スケトウダラ)”のようにきめが細かいわけでもないし、旨味が強いわけでもない。「でもコックリした味がいいんだー」という。
それならと一腹、買ってみる。この一腹がなんと500グラム近くある。キロ当たり1000円だから、こんなにたっぷり買い込んで、500円玉でおつりが来る。
作り方は鍋に砂糖、酒、みりん、醤油を煮立たせる。煮立ったところに一口大に切った「真たらこ」を放り込む。煮汁は酒が多めで全般に甘めにする。食堂のオバチャンが「甘い方がうめーよ」というのに素直に従がったのだ。鍋を適度に返しながら短時間で煮上げる。残念だったのは“真たらこ”を一度期に入れて丸まらなかったところだけ。
この煮たらこがうめー。うまくてご飯が進みすぎ。なんといってもやっぱり甘くホッコリホッコリした優しいのんびりした味わいがいい。煮つけをほぐして、ご飯にまぜまぜして“真だらこ飯”にしてもうまい。
さて、ボクが思うに今の世の無機質でギスギスした都会人には、北国のホクホクと暖かい味わいが救いとなる。間違いない!
市場魚貝類図鑑のマダラへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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