2007年7月30日、1匹10グラム前後の新子

0

sinko070730.jpg
●クリックすると拡大

 コノシロの稚魚が新子なのだけど、この新子ほんとうにうまいのだろうか? なにしろ出始めの新子は重さ3グラム、体長3,4センチといったところ。二本の指で隠れるほどのを研ぎに研いだ小出刃で開いて、これまた丁寧に酢でしめる。これを一度期に4,5枚も箸でつまんで口に放り込んでもいかばかりの味わいも感じることはない。これが8月初旬ともなると7,8センチ、10グラムほどに成長してくる。こうなるとぐっと味わいが増してうまくなるのだ。
 我が家にある『すし技術教科書 江戸前ずし編』(旭屋出版)には〈4センチ〜5センチを「新子」〉、〈7センチから10センチを「こはだ」〉、〈12センチ〜13センチを「なかずみ」〉、〈15センチ以上を「このしろ」〉と書かれている。この数字は動物学的な尾叉長ではなく全長のことであろうから、「新子」と呼んでいいのは走りの時期だけとなる。8月の一匹10グラムのものは、体長7、8センチとなっていて既に「こはだ」だ。

sinko07081.jpg
●クリックすると拡大

 でも今日の市場にあってはこの7,8センチが立派に「新子」で通っている。たぶん10センチ前後までは
立派に新子で通るのではないだろうか? この教科書が出版されたのが1975年のこと。以後の「新子」への認識の変化には興味津々である。

 この1匹10グラムの新子を『市場寿司 たか』で味わう。このサイズだとちょうど2枚づけ(2匹で1かん)となる。その二枚の身はまだまだ柔らかく、口に放り込むとすぐにすし飯と馴染む。そこに魚としての生臭さはなく、すし飯の中からしっかり身の存在を感じる。そして甘味が浮き上がり、旨味もほんの少しだけれど舌に残るのである。
 それでも、
「やっぱりうまいという点では冬の方がいいね。体長14、15センチくらいの」
 冬の「こはだ」は1975年の『すし技術教科書 江戸前ずし編』では「なかずみ」となるもの。今年はこの「なかずみ」を堪能した。
「そうだね。今年の冬にはよくしめた(酢締めにした)ね。うまかった。それでも江戸前寿司に新子がなくちゃいけないね。新子は味じゃないのかもしれないよ」
 たかさんは意外に冷静なことを言う。

 さて江戸前寿司で新子を使うようになったのはいつ頃だろう。その昔、江戸前握りは屋台に作り置きして並べて売られていた。そしてその大きさも今の数倍、とても一口では食いきれないものだった。とすると新子ではネタとなりえないのだ。ひょっとしたら江戸時代の新子というのが今の「こはだサイズ」であり、こはだが「なかずみサイズ」だった可能性もあるのである。だから新子の出始めは二枚づけ、実は「こはだの二枚づけ」、そして一枚づけはまさに「なかずみサイズ」すなわち江戸時代の「こはだ」である可能性もある。それがたぶん関東大震災のあと寿司屋で酒を飲むようになり、握りのサイズが小さくなると共にコノシロの成長段階での呼び名が出来てきた。とにかくコノシロの成長段階での呼び名は時代と共に変化しているはずだと考えられる。

市場魚貝類図鑑のコノシロへ
http://www.zukan-bouz.com/nisin/konosiro.html


このエントリーをはてなブックマークに追加

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://blog.zukan-bouz.com/mt-app/mt/mt-tb.cgi/1238

月別 アーカイブ

このブログ記事について

このページは、管理人が2007年8月 4日 16:54に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「新いか1匹1400円也」です。

次のブログ記事は「エゾバイを煮る」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。