と、言ったのは『市場寿司 たか』の渡辺隆之さん。うれしそうに小イサキ(うりぼう)を選んでいる。
「片身1かんには大きいかなー」
半身で1かんが望ましい寿司ネタの世界で、ちょいと大きめに育ちすぎた感はあるが、キロ当たり500円は安すぎる。今年はイサキが高いのである。
さて、今回の小イサキは15センチから18センチほど。イサキの産卵盛期は4月から6月うらいまで、これは昨年生まれたものであろう。これが秋から冬にかけて、今年生まれの、脂ののった、それこそ「片身1かんサイズ」が入荷してくる。だからこの時期は小イサキの前哨戦といったところだ。
市場で見ていると小イサキに手を出す料理人は手練れだというのがわかる。例えば、魚は小さいほど安い。でも小さくても味がいい種がいてイサキなどその最たるものなのだ。
たかさん、これを10本ほど買い求め(これは出来るだけ当日に使い切れる分の仕入れを心がけているから、これでこそ「市場寿司」なのだ)、大急ぎで店にもどり仕込みにかかる。まずはウロコをとらないで頭を落とし、はらわたを取り、三枚に卸す。血合い骨を毛抜きで抜き取り、皮を引く。これをさっと洗って出来上がり。その皮だけもらってくる。実はボクも5匹ほど買い求めているのだ。
帰宅して頭を落として、たかさん同様に仕込む。やはり今回の小イサキは昨年生まれであるようだ。脂が薄い。それで身をペーパータオルに包んでおく。脂が少ないということは、また水分が多いということ。だから水分をほどよく抜いてやるのだ。
夕食時、まずは皮を素揚げにする。小イサキを始め、カゴカキダイ、シマイサキなどの小魚を卸すときに絶対にやってはいけないのがウロコ引きだ。これをやると無駄に身を痛めてしまうし、また小魚で作ることのできる「皮揚げ」ができなくなるのだ。ちなみに「皮揚げ」でいちばんうまいのがシマイサキ、小ダイ、カゴカキダイで残念ながら小イサキは平凡である。でも比べなければ小イサキの「皮揚げ」はまさに絶品、「皮を捨てる」と小イサキの価値自体が半減すると思ってもいい。
ペーパータオルにくるんだ小イサキの身は適度に水分が抜けている。これを片身二等分にして刺身とする。
脂はないものと思っていたら、ほんのりと脂からくる甘味が感じられる。そして旨味は十二分にある。
そう言えば小イサキは寒くなるほど脂がのってくる。晩秋など親を凌駕するほどの美味なのもあって、見つけるたびに一喜一憂するのが、これがまた楽しみなのだ。
晩酌には山形県の「杉勇」、やや辛口である。これを飲りながら、「皮揚げ」と刺身を肴にする。ウロコつきのまま揚げた皮が香ばしい。刺身も意外にいい味ではないか? そこに淡麗な酒がきてこれはまた幸せな残暑の夜である。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、イサキへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki/isaki/isaki.html
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