そろそろゴマサバのうまい季節となってきて、いままで脇役で甘んじてきた役者が主役となる。これなど歌舞伎の中村仲蔵もかくのごとしではないだろうか。真冬のゴマサバは風格がある。
さて別の表現をすると「化けた」という。それまで平凡で一段下にみられていたものが、ぐんと飛躍する。そんな飛躍の前兆を感じさせられたのが24日に買い求めた三重県産のゴマサバだ。
八王子綜合卸売協同組合『総市』、小振りで2本250円なり。これを仲卸のまな板で下ろして、一塩、紙にくるんで持ち帰る。
三枚に卸しながら、身を指でなぞると少ないながら脂があって、指先がざらっとひっかかる。
塩はそんなに強く振っているわけではない。おおよそ3時間も寝かせて、水洗い。水切り、ペーパータオルでよく水気を拭き取る。
その間に海老名の海老さんにいただいた柚をたっぷり搾る。完熟して明るい黄がまばゆいばかり。果汁には香りよりも、酸っぱい中に旨味が加わってきている。
柚の果汁に何も加えることなく、ゴマサバを入れる。柚は醸造酢と比べると酸度が低いように思える。だから食べるまで、漬け込む。食べるたびに柚酢の中から取り出すという次第だ。
夕方まで約6時間漬け込んだものを、しめ鯖同様、血合い骨を抜き、薄皮を取り去り、へぎ造りに。これを皿に盛り、また食べる直前に柚をたっぷり振るのだ。
柚は完熟してきており、香りは控えめとなり、むしろ果汁自体に旨味と微かだが甘味が加わってきている。この果汁のなかで軽くゴマサバの身を洗うようにして食べる。ワサビはほんの少しだけ。しょうゆはちょっと浸すだけでいい。
この柚の香の爽やかななかにゴマサバの旨さも、そして脂からくる甘味も一緒くたになって口中を満たしてくれる。これは文字には書けない味わいで、キーを打ちながらもどかしい思いになる。
とにかく、そこにあるのはゴマサバの味でも、柚の香りでもない。季節そのものだ。
毎週のように柚を持ってきてくださる海老名の海老さんに感謝。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ゴマサバへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/gomasaba.html
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