風もなく長閑な朝で、日差しが柔らかい。「いい天気ですね」、のんきに十九百さんに話すと、
「明日から海が荒れてくるようです」
まさかと思うほどに港から見える沖合は波がない。これから向かう島根は大丈夫だろうか?
『浜勝商店』の建物の前に直売所がある。
港から、ここまでは指呼の間にあって、さっき競り落とした魚貝類がもう到着している。
建物に入るとまず目に飛び込んでくるのが大量の「松葉がに」である。
この台に乗っているのは比較的お買い得品ばかり。小振りの「若松葉(脱皮したばかり)」なら1ぱい1000円ほどで買える。それに立派な「松葉がに」でも5500円は安いな。ちなみの、この格安なものに加えて、水槽には2キロを超える大物で1万円を遙かに超す高級なカニもある。
店頭を見ると冬の鳥取はカニだらけなのだ、と改めて思う。
十九百さんが小振りで赤味を帯びたカニを持ち、
「競り場で話した“ももちゃん”というのがこれですね。ツメがまだ小さいし、ちょっと赤いでしょう。“松葉がに”にはなっておらんのです」
さて、「松葉がに」が冬を代表する味覚であるというのは全国的に有名だが、地元の人たちが、こんな高級品を毎日食べているはずもない。そんな庶民派の味覚が「白はた(ハタハタ)」だろう。
ほどなく店に入ってきた川上寿郎さん(岩美町産業観光課で町の振興に努める)も
「“白はた”はほんまにうまいんですよ。毎日食べても、煮ても焼いてもうまいね」
この時期大量にとれる「白はた」は干物になったり、鮮魚で出回ったりして岩美町、鳥取市の食卓をにぎわすのだ。
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冷凍庫には珍しい「どぎ」の干物もある。『浜勝商店』で作る干物類も非常に美味。当日味わった小振りのイカを一夜干しにしたものには感激した。また食べたいなー。
「松葉がに漁」の副産物なのだろう。「赤えび(関東では“甘えび”。ホッコクアカエビ)」、「しまえび(モロトゲアカエビ)」のタラバエビ課種。それに「もさえび(クロザコエビ)」、「がらもさ(トゲクロザコエビ)」が並ぶ。「もさえび」などはまだ生きていて、そのまま食べてみたいという誘惑にかられる。
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「赤えび(甘えび ホッコクアカエビ)」と「しまえび(モロトゲアカエビ)」が並んでいるのはうれしいね。でも鳥取など山陰でぜひ食べたいのが「もさえび(クロザコエビ)」と「がらもさ(トゲクロザコエビ)」。
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アカガレイに「白はた(ハタハタ)」は岩美町の冬を代表する味覚だ
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「どぎ(ノロゲンゲ)」は鍋物に汁にするのだけど、最近では関東にもお目見えしてきている。新食材として注目して欲しい
まだ、開店前なので他にはアカガレイと「どぎ(ノロゲンゲ)」しかない。これが全部揃うと、どうなるのか見てみたい欲求をおぼえるが限られた旅の時間なので断念する。
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『浜勝商店』のラベルデザインは市場という環境からすると複雑すぎてダメなのだけど、何度も見ているとおぼえてしまうもの。現在もっともよくできたラベル。マークの丸の中は「八(8)」ではなく「ハ(は)」だ。
鳥取市岩美町浜勝商店
http://www.hamakatu.co.jp/
鳥取県岩美郡岩美町
http://www.iwami.gr.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
山陰島根の旅01 鳥取県岩美郡岩美町網代港 後編 後の記事 »
名前でバカにしてはいけません。名品中の名品、和江の「漁協蒲鉾」