わたしアブラボウズの見方です

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静岡県沼津市沼津魚市場にて。千葉県銚子産

「あら(クエ)」の本場、福岡県福岡市の業者が「クエと偽ってアブラボウズを販売」したという事件で我がサイトにも問い合わせが多々ある。
 長年、魚貝類を見てくると、いろんな形でアブラボウズが活躍しているのに出くわす。例えば魚屋の冷凍庫にアブラボウズの頭がごろんと転がっていたり、半身がマグロのように切断されていたり。これをどうやって売るのだろうか? いろいろ想像を巡らせると、たぶんお弁当屋だとか、切り身での販売に回るのだろう。
 知り合いの業者から、このアブラボウズのコロを格安で買い求めたことがある。たしかキロあたり800円ほど。これが5キロほどであり、すべて切り身にしてそのまま保存してもらい、ときどきとりだしては家庭内食品偽装をやらかした。

「いいメダイがあってね。今日は照焼にするから」
 なんてわざとらしいことを言って、食卓に出す。
 大振りの立派な切り身は
「立派なメダイね」
 なんて反応が返ってくる。
「脂がのって素晴らしいわ」
 こうなると家庭内食品偽装もしめたものだ。我が家ではアブラボウズだろうがメダイだろうがうまければいい、と言うくらいの食の教育(食育って言葉大嫌いなんだけど)をしているつもりなので、これは家族がメダイといっても違和感を憶えないかどうかの実験のつもり。

 ちなみにアブラボウズを販売禁止にしている市場があるが、個人的には反対する。アブラボウズの油分はバラムツなどとは違っている。バラムツのはワックスエステルでちょっと食べ過ぎると下痢や皮膚への障害を起こすが、アブラボウズの油は普通の魚にあるものと同じで「食べる量に注意すると害はない」。ようするにバラムツで中毒するのは「事件」だが、アブラボウズの場合は無知と不注意、もしくは今回のように詐欺行為による「事故」でしかない。
 例えば市場で「アブラボウズは油が多いので食べ過ぎると下痢しますよ」という注意して売れば問題はない。後は買った人の自己責任だ。このアブラボウズを販売禁止にしなけらばならないのも個人営業、対面販売の魚屋・商店が減少したことによる。「みんなスーパーばかりで買い物しないで魚屋や個人商店を大切にしようよ」。
 この国は不思議な国で“好きでメタボになっている人間”に「メタボを解消しないと逮捕するぞ」なんてやるし、シートベルトをつけないのは運転している人が危険なもので、誰にも害のあるものでもないのに、罰金をとる。そのくせ、本当に責任をとらなければならないこと、人間は責任をとらない。もっと大人社会、成熟した社会にならないとダメだな。
 ということで「アブラボウズをアブラボウズとして売る」のは「食べ過ぎに注意してください」と明言してやるかぎりなんら問題がない。煙草の箱に「吸い過ぎに注意」と書いてあるのと同じだ。油っぽいのが好きな人、あっさりしたものが好きな人、ひとそれぞれで、好みで食べればいい。「好み」という点では煙草と比べると何千倍も罪がない。アブラボウズの販売を禁止するなら、もっとより身体に悪い煙草の販売を禁止すべきだ。

 この家庭内食品偽装以来、家族は
「あのときのメダイは美味しかったね」
 それを聞くたびに冷凍庫から在庫を出してみそ漬け、照焼、煮つけなどを楽しんだものだ。
 アブラボウズはほんまにうまい!

 市場で売られている、流通しているアブラボウズには二通りある。ひとつは関東なら銚子、宮城などにあがる近海もの。すなわち「生」。はるか遠洋でとれる船内冷凍されたもの。
 冷凍品もうまいことはうまいが、やはり格安のものは「それなり」の味しかしない。
 この魚の真味は近海ものにある。銚子から宮城、相模湾でも駿河湾、熊野灘などにもあがるもので、出来ればあまり大きすぎない10キロから20キロのほどほどの大きさがいい。この刺身は絶品である。これを軽くしゃぶしゃぶにするのもいい。とにかく食べ過ぎない、また肝などを食べないというのに注意すれば、うますぎる魚であることがわかるはずだ。

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 ここで偉いなと思うのは小田原周辺の住民方である。アブラボウズは神奈川県小田原、静岡県沼津周辺で好んで食べられている。なかでも小田原では高級魚であり、寒くなると魚屋にはかならず置かれるものだ。値段も非常に高く、一切れ2000円前後することもざらだ。
 この高値で売られている「おしつけ(押しつけ)」は間違いなく近海産。アブラボウズにも良し悪しがあって、いいものには小田原市民は財布の紐をゆるめる。

 ことほど左様に、物事は勉強しないとわからないこともあるのだ。だいたい人間というほ乳類が、食べるというのは、生命維持のため。生きていくために食べるわけだ。あのとりあえず「ルイヴィトンでも買うか」みたいな下等な買い物を、食べ物でもやってはいかん。だいたい「うまいものだけ食べたい」というのも下等だ。食に関しては、しっかりしみじみ考えて、吟味して、ときに諦めて買うのだ。食は冒険だけど、それ以上に暮らしそのものだ。自分の普段の暮らしが、食に無関心を通しているのに、とつぜん「クエ食べないと、いけないは」なんて思うのは最低である。だからだからだまされる。だましたヤツははっきりいって悪人だろう。いかに不況だとは言え、詐欺行為はいかん。でも消費者が無知であっていいなんて、ボクは思わないけどね。

 さて、こんなことを書いていると、うまい「おしつけ」が食べたくなった。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アブラボウズへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/sonota/aburabouzu.html


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コメント(5)

先日の土曜会でも小田原では高いんですよと言われてましたよね。ご主人がいなくて買えませんでしたが。確か。

好きでメタボになってるヤマトシジミです。なお、体脂肪率だけは21〜22%なので浜田のノドグロ(どんちっちノドグロ)程度に健全です(?)〜ちょっと前振り〜
ぼうずコンニャク氏らしい面目躍如の記事ですごくうれしいなと、率直な感想です。

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TGAさん、本当は小田原よりも沼津の方が安いんです。
こんど我がグループで沼津のものを1本買いするつもりです。
ヤマトシジミさん、ことほどさようにマスコミの影響力は一方的だということです。
クエはルイヴィトンになってしまっている。

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細かいところですが、「味方」ですね。

それはいいとして、自分は和歌山に住んで
いる通りすがりの人間です。その和歌山と
いえば、まさにクエの産地ですが、地元
でも、そう滅多に食べられる魚じゃありま
せんし、滅多に食べたがりません。

なぜなら?

確かに食味はいいけど、神格化されるほど
の魚でもないからです。だから同じ金を
つぎ込むなら、もっと美味しい魚に
費やすということです。

それに、食べてみたらわかりますが、
味が淡泊すぎて本当に味のわかる人しか
わかりません。
だから、店はお客からクレームが
こないように、わざとタレやだしの味付け
を濃くして、美味しく見せかけています。

それこそ昔の人が飽きるほど食って
た松茸やトロと同じで、稀少価値が高まる
となぜか人は美味いと錯覚する、それと同じ
ですね。

あとは個人差もあるでしょうけど、僕も
寒ブリとか、カンパチとかヒラマサとか
脂の乗った魚が好きなので、近海ものの
「おしつけ」はすごく惹かれるものが
あります。熊野灘でも獲れるとのことで、
新宮界隈で扱ってる店がないか調べて
みたいですね。

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熊野灘では流通するほどとれないかも知れません。
小田原、沼津のものもほとんどが千葉から三陸沖のものです。
沼津などには大量に入荷してきます。

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このページは、管理人が2008年4月 2日 12:18に書いたブログ記事です。

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