トウジンという魚がいて、深海性の、まるで「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる、ねずみ男のような不気味な面構えをしている。まあ、どちらかというときれいな魚じゃない。これを西伊豆では「げほう」というのだけど、たぶん漢字で「外法」なんだと思ったのはボクの独断である。古くは仏教以外の邪教、邪悪なものという意味合い。この悪相から、そんな連想をするのはありそうではないか。
奇妙きてれつな魚だから、人に嫌われて、売り物にはならない魚であるように思われるかも知れない。ところがその逆なのである。この魚、少ないながら一部の業者に非常に人気が高い。なぜならば、例えば、魚屋である知人はこの魚を見つけると必ず買い求める。買い求めたら店頭のいちばん目立つところに、丸のまま陳列するのだ。こうすると道行く人が、立ち止まる、立ち止まる。その日は大繁盛間違いなしなのだとほくそ笑む。またもう一人、フレンチのシェフがいて、この魚のフリットなどをお客に出すのだけど、そのとき、写真をお客に見せて、「こんな魚はめったに食べられません」なんて説明しているらしい。強烈なインパクトを持つ魚というのも商業的価値が大きいということだ。
さて、久しぶりの沼津魚市場だったので、この不気味なトウジンを一籠買い求めてきた。
その大半を八王子総合卸売センター『市場寿司 たか』に置いて、帰宅して撮影。
夕食には刺身にして出した。
刺身にするときに肝心なのが、その肝である。
沼津市戸田村の漁師さんたちはトウジンをみそ汁にする。
「わしらは漁からもどるだら、すっと必ずコイツをみそ汁にするだー。なんせ肝がうまいだから」
戸田の底引きには乗り込んだことがあり、岸壁で待っていた引退した漁師さんに聞いた話だ。
漁師さんは、身はほどほどに肝を集めてたっぷりみそ汁に放り込むというが、ボクなどにはそんな真似はできっこない。それで刺身にして、肝を巻き込んで楽しむことになる。
身の淡白で味わいに欠けるのを、この濃厚な旨味を持つ肝が補ってあまりある。肝には旨味と脂からくる甘味が感じられる。
この身はどうでもいいから、肝ばっかり食べたいと思うのだが、叶わぬ夢のようだ。
さて、昨日が沼津での底引きの最終競り日であった。これから9月まで底引きの禁漁となる。
次回、トウジンの刺身を楽しむのは9月までお預けである。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、トウジンへ
http://www.zukan-bouz.com/taraasiro/sokodara/toujin.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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岩手県からきた「丸がに」をみそ汁に