寒くなると関東の市場に目立って増えてくるのが「ぶわたら」。
マダラの加工品で「ぶわ」は腑分けのこと。
すなわちマダラを解体して、身だけにしたもので、「生」と「塩蔵」がある。
今回はスーパーなどでもよく見かける「塩蔵ぶわたら」の話だ。
これが便利で優れものなのである。
マダラ自体はアラスカやカナダからの輸入物ながら加工のメッカは宮城県。
なかでも石巻は目立った存在だ。
もともと宮城県はマダラの加工がさかんに行われてきた。
生の、地先のマダラを解体(ふわけ)して「生ぶわ」、「塩蔵ぶわたら」として、鮮魚としても関東に送り込んでいた。
関東と宮城県の水産的な繋がりは当然、古く明治期に開通した東北本線に行き当たる。
昔、水産物の流通は鉄道が頼りだった。
今のようにトラック輸送にかわったのは、そんなに昔のことではない。
現在でも過去にでも地方の水産物に頼ること大であった東京にあって、東北宮城は一大供給地だったのだ。
当然のこと、「ぶわたら」は関東でも明治期以来の伝統食材であるはずだと想像して止まない。
なぜ関東に「ぶわたら」が入荷してくるかというと居酒屋に“湯豆腐”という品書きがあって、ここに必ず入ってくるからだし、関東の家庭でも鍋物の主流が「ぶわたら」を使ったものだからだ。
この「塩蔵ぶわたら」を使ったものを私流ながら勝手に「関東風湯豆腐」と呼ぶことにする。
「関東風湯豆腐」の出合いは30年以上も前、東京下町小岩で暮らししていたときだ。
居酒屋で湯豆腐をお願いして、やって来たのが野菜も入った鍋物。
そこになにやら見慣れぬ魚が入っていた。
白身魚らしいけどわからない、その正体が「ぶわたら」だったのだ。
四国徳島人にとってマダラの存在は遠い。
湯豆腐といったら、だしのなかで豆腐が浮かんでいるだけ。
単純なものを予想していたので、間違って別の見知らぬ鍋物がやってきたと思ったほどだ。
後々考えてみると、関西の湯豆腐よりも高目となっている。
と言うことで、東京で初めて食べた湯豆腐がうまかった。
以来30年、「関東風湯豆腐」が好きだ。
それであれこれ理想の「塩蔵ぶわたら」を探していて行き当たったのが『天佑丸冷凍冷蔵』のもの。
だから『天佑丸冷凍冷蔵』の「ぶわたら」を見つけるとついつい買ってしまうことになる。
大振りのマダラを使っているため、半身買いでも一キロくらいになる。
当然湯豆腐だけでは食べきれない。
残ったらバターで炒めてパンに合わせたり、塩抜きしてフライにしたり、ホワイトシチューに使ったりと大活躍だ。
面白いものでトマトと煮込んでもうまい。
昔、イギリスとアイスランドでマダラ漁をめぐって紛争が起こり、これを俗に「タラ戦争」という。
マダラが好きなのはこの国だけではなく、ヨーロッパ諸国も同じなのだし、その理由がパンやジャガイモなどとまことに相性がいいためなのがよくわかってくる。
ああ、そうだマダラはご飯よりもパンに合うというのも書いておくべきだ。
さて「東京風湯豆腐」の作り方は簡単極まりない。
ぶわたらは湯通し、そえる野菜は白菜と春菊くらいでいい。
後は主役の豆腐だが、できれば豆腐屋さんの豆腐といきたいな。
だしは昆布のみ。
味付けをするのだけど、酒と少量の塩のみ。
鍋に向かって燗酒をやる。
まずは「塩蔵ぶわたら」を総て鍋に落として、豆腐を泳がせる。
豆腐がふわっと浮いてきたら、豆腐を皿にとる。
ぶわたらも皿に取り、また野菜を加える。
そこにあうのは生醤油で、生姜と白ネギを用意する。
あと、柚、スダチ、一味唐辛子。
この鍋、酒がすすむし、また豆腐の温まる間がとてもよろしいな。
そのうち身体が熱くなってくる。
食べ、呑み疲れて、ふと窓を開けたときの新しい空気の冷たさが気持ちいい。
こんなときに限ってドコドコドコーカンカンカンカーンと中央線が八王子に向かう音がする。
天佑丸 宮城県石巻市魚町1の10の8
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マダラへ
http://www.zukan-bouz.com/taraasiro/tara/tara.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
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