八王子魚市場内『海老辰』に「阿武隈川産背焙り鮎」と書かれた発泡があった。
蓋をとるとアユの焼き干しが入っている。
このような特種すぎるものが流通の場にくることは珍しい。
明らかに天然物。
脂のすくない落ち鮎を使ったものだろう。
わらで連にしてある。
「いくらだい」
「千円でいいかな」
「千円か、微妙な値段だね」
値を聞いただけで通り過ぎる。
翌日、それは同じように店先にあった。
ぜんぜん売れていない。
たぶんどのように料理するのかわからないのだろう。
だから千円という値段が微妙に思えるのだ。
たぶん注文を受けて仕入れてきて余ったものに違いない。
普通焼き干しは水で戻してたきものに、もしくは焙って熱燗をそそいで旨味風味を楽しむ。
急激に冷え込んできているので「鮎酒」も一興ではないか。
さて、飛騨焜炉におこした炭を入れる。
火の盛りに、故郷から来た餅を焼き、干し芋を焼く。
これは子供達の楽しみだ。
[夕食にご飯を食べなくてもいい]というのが食卓に開放感を生む。
さて、その内に炭の勢いが衰える。
そこに焙り鮎を乗せて、じっくり待つ。
焦げ目がついてきた頃、酒たんぽで燗をする。
熱燗も熱燗、火がはいるほどの熱燗にする。
器は陶器で厚みのあるもの。
今回のは小坂明さん作の見るからに暖かみのある深鉢にした。
これも熱湯の中に放り込み、とても手で触れない状態となっている。
ここからが勝負だ。
熱湯のなかから器を取りだし、香ばしく焼けたアユを入れ、火燗をそそぐ。
アユがジュっと音を立てる。
ここに木でできた羽釜の蓋を乗せて待つ。
計っているわけではないが、この間が長い。
無限に思える瞬間というのがある。
他のことをいろいろ考えればいいのだけど、時計の秒針をついつい見てしまう。
長い(?)待ち時間のはて、蓋を取ると酒がうっすらと琥珀色を帯びている。
あとは熱いウチにいっきにすすり込む。
思った以上に濃厚な旨味を染み出させていて、酒の中でアユ独特の川の香り、日向の香りが浮き上がってくる。
しかも飲み口はサラリとしてる。
酒はすすり。
口に含み含み飲まなくてはいけない。
この「阿武隈川産背焙り鮎」のいいところはよく焼き枯らしている点。
まったく生臭さがなく、カツオがカツオ節になる如く、「焙り鮎」という乾物として完成しているのがいい。
残ったアユに薄口醤油を垂らして、これもぬる燗のアテとした。
酒は一の蔵「掌」。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アユへ
http://www.zukan-bouz.com/kyuriuo/ayu.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/
正月料理にはもってこい、マグロのやまかけ 後の記事 »
やっと仕事納め
おつかれさまです。
焼き干したアユはおでんのダシにすると良いですよ。アユ自身も楽しめて良い。もちろん、アユ酒も捨てがたいのですが、このところ断酒しています。
うなたろう君、禁酒するには若すぎるとも、その年で禁酒? とも言えそうだね。
あけましておめでとう。