旧きにならってイセエビのフライ

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 八王子総合卸売センター『高野水産』の水槽に小振りのイセエビがいっぱい泳いでいる。
 イセエビはなんといっても生きていないと値がつかない。
 だから取り扱いも慎重だ。
 でもときどき成仏してしまうやつがいて、これがお安く売られている。
 そんなのが5匹。
 社長が「何本か持っていきなよ」というのでちょうど200グラムのを選ぶ。
 なぜ、こいつを選んだかというとまだ微かに動いていたからだ。

 帰宅後すぐにゆでる。
 約3分ほどだろうか、岡上げして、冷めたら殻から身を取りだしておく。
 そのまま冷蔵庫で待機。

 何を作るんだろう?
 ここまでの工程を変だと思った人は偉い。
 現在ではもうめったに作らないであろう、幻のエビフライを作ろうとしているのだ。
 日本橋『たいめいけん』の創業者・茂出木心護は、洋食黎明期の様々な事柄を文章で残している。
 特にエビフライに関して面白いことが載っている。
 1974年初版の『たいめいけんよもやま噺』(旺文社文庫)に“昔のエビフライ”は豪勢な料理であったとある。
 「なぜなら昔の海老フライは伊勢海老を使っていて、ずいぶんと高いものだったからなんです」
 この「昔」というのが戦前(茂出木心護は昭和元年に修業を始めている)、もしくは戦後すぐまでの時期を差すのではないか。
 なぜエビフライの材料がイセエビだったのかは、実のところわからない。
 東京湾では、打瀬船がこの頃まだ健在で、クルマエビがまとまってとれていた。
 それに対してイセエビの産地といえば近くて三浦半島、内房だろう。
 むしろ産地的にはイセエビの方が遠いのだ。

 作り方はまず軽くゆでる。
 生もままでは殻がむけない。
 2、3分ゆでるときれいにくるりと殻がとれる。
 これを少し開いて、背わたを取り、あとはフライにするだけ。

 ほとんど市場であがった(死んでしまった)もので作るのが我が家のイセエビのエビフライ。
 これだって、かなりもったいないのだけど、茂出木心護の語るとおり、なんとも豪勢。
 香ばしく揚がったのをかぶりつくと、思った以上に中はしっとりとして、身は練り絹をほぐすように、ほぐれる。
 甘みが強く、陶然とするうまさだ。
 お父さんとしては情けないが、子供に分けるのが惜しい。

 さて、高野水産の社長が「持っていきなよ、安くするから」といったあがりイセエビ、いったいいくらなんだろう。

2008年3月16日
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ニゴロブナへ
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このページは、管理人が2009年3月17日 08:24に書いたブログ記事です。

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