徳島県人の好きなものをあげると、一・スダチ、二・しょいのみ、三・ちりめん。
じゃないかな?
「しょいのみ」とは「醤油の実」のこと。
「ひしお」とも「もろみ」という地域もある。
徳島県でも「ひしお」もしくは「しょいのみ」という言い方が両立して相半ばしている。
醤油は大豆の麹と、煎った麦で作る。
麹と麦は、発酵がすすみ出来上がったときに、漉して捨てられてしまう。
この現在では捨て去ってしまう、漉して残ったもの、すなわち「しょいのみ」は古くは醤油造りの貴重な副産物だった。
これはボクが実際に経験したことだけど、自家製して醤油を漉すそばからつまみ食いをすると、やめられなくなるくらいにうまい。
それでいつのまにか、「しょいのみ」専用の麹が作られるようになった。
これを瓶などに入れて醤油を加えるだけで手軽に、実にうまい「しょいのみ」ができるのだ。
徳島県では各家庭で作られているものだし、そんな手間がないという向きには出来上がったものまで市販している。
一家に一瓶「しょいのみ」状態が普通と思っていい。
徳島県人の家庭になくてはならないものが、もうひとつ。
それはユズの変異で出来上がった徳島県ならではのスダチなのだけど、このふたつは常に同じ食卓に並んでいる。
なにしろ、こんこ(たくわん)にだってスダチだし、おかずの合いの手には必ず「しょいのみ」になのだから。
これぞ徳島の平均的食卓の風景ともいえそう。
さわやかなスダチの香りと酸味が加わった「しょいのみ」がまことにご飯に合う。
うますぎる! 感動的でときどき涙が頬からポタポタして困るくらいだ。
ただし、ここで問題が発生しているのがおわかりだろうか?
「ご飯=糖質」、「麹=アミノ酸+植物系タンパク質+塩分」、「スダチには柑橘酢+ビタミン」の取り合わせには動物質のものが皆無なのである。
今回、お盆に徳島に帰郷して、「本家 阿波おんな(実は義姉の家)」でその解決策を垣間見ることになる。
そこに、これまた徳島名産のちりめんを加えて、かき混ぜるだけ、もしくは「しょいのみ」に漬け込んでしまう、というもの。
これで三杯飯に「しょいのみ+スダチ」より遙かに健康的な組み合わせが成立したのだ。
めでたし、めでたしだ。
いけるなら、4杯飯も辞さず、いやいや五杯飯だってという気分になれること請け合いだ。
ちなみに「本家 阿波おんな」が作る「おたふくしょいのみ」には大豆、麦にもうひとつ、空豆が投入されている。
ここにより穀物性の高い「しょいのみ」が出来上がったわけで、しかも味わいはとてもまろやかなのだ。
スダチだって、そんじょそこらのスダチではない。
徳島県を流れる吉野川流域で粗放栽培された露地もの。
というか各家庭の庭、もしくはあまり手入れしていない農地でほったらかされたスダチなのである。
ボクはこれを勝手に「庭そだち庭すだち」と呼んでいる。
手入れの行き届いたふっくらとしてきれいな栽培ものに比べると、汁は少なめだけど、香りは2倍するというもの。
ちりめんも小松島産か阿南産にしたかったが、愛知県産でがまんした。
ご飯にのせた、「しょいのみ」に、スダチの香りというのは著しく郷愁誘う味わいなのだ。
ふと初恋のひとの顔が浮かんでくる。
失恋して飛び込んだ、吉野川の水は冷たかったなー、なんて。
飯を食うだけで懐かしい情景や出来事が、こんなに思い出せるなんて知らなかったのである。
本家 阿波おんな
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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