『聞書き 福岡の食事』(1987)の豊前海の記述にアカエイのみそ汁がある。
うまいだしが出て、しかもコリコリという独特の食感がよいとのこと。
アカエイというと煮つけか、ムニエルか、唐揚げだとか、いろんな料理が思い浮かぶ。
そこにみそ汁が欠落していたのはなんとも不覚としかいいようがない。
町山清の『魚河岸の魚』(1979)にも高級料亭でアカエイのみそ椀が作られていた、というのがあった。
東京湾のような干潟の出来る内湾に多いのがアカエイ。
さぞやたくさんとれていたのだろう。
だから1905年(明治38年)生まれの魚屋、町山清にとって、この1メートルを超えるややグロテスクな魚は見慣れた何の変哲もない一商材であったのだろう。
お雑煮がお澄ましという関東で、みそ汁が盛んに食べられていたというと奇異に感じられるだろうか。
あに図らんや、関東でも魚貝類の汁はみそ仕立てにするのが定番であったようだ。
松尾芭蕉の「ふくと汁」も間違いなくみそ仕立て、それに朝餉にみそ汁というのは関東ならではのことなのだ。
くどくなるが要するに「江戸時代以前から、関東でもアカエイのみそ汁が作られなかった、はずはない」となるわけだ。
豊前浜の記述から、こんな推測が出来、考える端緒が見つかる。
だから『聞書き 日本の食事』シリーズは面白い。
関東の市場では、今でもアカエイはけっして珍しいものではない。
実は東京湾では昔から、そして今でもたくさんのアカエイがとれている。
当然、アカエイはもっともありふれた海の幸だったし、本当はいまでも需要さえあれば、ありふれた存在なのだ。
でも年々歳々、アカエイは食べられなくなって来ている。
なぜなんだろう?
アカエイはもともと町山清の書いているように、高級料亭などでも利用される上品な食材だった。
当たり前だけど臭みもなく、骨は軟骨で気にならず、現代人の忙しい生活にぴったりの食材なのだ。
しかもボクは日本酒飲みなのだけど、いちばん好きな肴はみそ汁なのである。
日々思うことなのだけど、大阪などでは居酒屋の品書きに「汁(みそ汁)」、「粕汁」などが至って普通にある。
それに対して関東で酒を飲みながらみそ汁を頼むと、関東ではみそ汁を酒の肴と定義していないように思う。
居酒屋の店主は「そろそろ〆なのだ」と思ってしまう。
「これはおかしい」。
関東には真の日本酒飲みはいない、ということか?
さて、最近アカエイの入荷が続いている。
アカエイと言ったらムニエルか煮つけくらいかな。
鮮度さえよければ刺身にもなるが、関東ではアカエイの取り扱いが悪いのである。
さて軟骨に直角にざくざくと切り、あとはそろそろ味のよくなった大根とことこと煮込む。
ここに九州の麦みそを溶き入れるだけ。
まことに簡単、そしてインスタントな料理だから、忙しいときには助かるのである。
これであまり好みとは言いかねる信濃錦をいっぱい。
この酒、初めて買い求めたのは去ること30年も前のこと。
長野県川上村の酒屋でとにかく車内泊の相棒に一升瓶を買い込んだのだ。
この信濃錦がごっつい甘口で重すぎたのだ。
今回久しぶりにかったらえらい軽い酒になっていたが、微かに30年前の面影が残っているのだ。
懐かしい甘さをみそ汁で洗う。
このアカエイのいいだしに感激。
アカエイに合う料理の順位を変えなくては。
材料(2人分)/
アカエイ200グラム、大根5センチくらい、麦みそ適宜、水400㏄、酒100㏄
作り方
1 アカエイの鰭は軟骨に直角に5ミリ幅で切っておく。これを湯引き、冷水にとりあら熱を切り、水分をよくとっておく。
2 鍋に水、酒、エイ、拍子木に切った大根を入れて火をつける。このとき刺し昆布を加える。
3 沸いてきたらアクをよくとる。大根が煮えたらみそを溶き入れる。ちょっと濃いめの仕立てにすると酒の肴にいい。
薬味は青ネギにしたが、好みで山椒、粗挽きコショウなどを。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アカエイへ
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