2012年 ふな市の旅 17 鹿島市浜ふな市のこと

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1月20日の「二十日正月(『有明海生活誌-倉本幸の半生から-』には〝二十日えびす〟)」に鮒の昆布巻き(ふなんこぐい)を作る風習が有明海北部沿岸、鹿島市などにあり、その材料であるフナを売る市が前日の19日に開かれる。
これが佐賀県鹿島市浜に今も残る「ふな市」である。
「ふな市」は300年の歴史を誇るという。
 
1月20日は「二十日えびす」ともいい、「小正月」とともに比較的今も、全国で行われている節日(せちにち)だ。
節日は節句のことであり、正しくは「節供」と書く。
月日の区切り「句」である以上に神にお礼をする日。
神に収穫物を供える日と考えるとわかりやすい。
鹿島市の「二十日えびす」は「えびす」に収穫物を供える日なのである。
この「二十日正月」に「えびす」とともに「大黒」も祭ることがあったようだ。
「えびす」は豊漁の神であり、海との関わりが深い。
海の向こうの異境から来た神でもある。
これが日本書紀に登場する素戔嗚尊の子・大国主命とされる大黒と結びついて、と五穀豊穣の神となる。

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先日、浜田市の伝統的な郷土玩具「長浜人形」にも「えびす」と「大黒」がなかよく鯛を担いでいる図があった。
それと九州では「9」のつく日を「おくんち」といい、祭礼やなんらかの儀式が行われる特別な日なのである。
「二十日正月」前日、「19日」に市を開くのは「おくんち」というのも大いに関係有りなのだろう。
 
「ふな市」の起源を考えると、どうしても干拓と結びついてくる。
江戸時代以来、有明海の干拓が進んでたくさんの水路ができた。
水路は排水・灌漑用でもあり、交通手段でもあり、また淡水・汽水生物という恵みをもたらしてくれる場所でもある。
水路の維持のために、冬期に水を干上がらせて水草や泥などをさらえる。
このとき水路に棲む淡水生物を一網打尽にとる。
フナ(ギンブナ)、コイ、ナマズやドジョウ、ハゼ(ハゼクチ)。そしてエビ類(テナガエビ、スジエビ、ヌカエビ)などがあがる。
水路の水抜きは、年1回の集落をあげての作業であり、水路の恵みを収穫する日でもある。
大型のフナやコイは生け簀(川副町では〝かま〟)に生かしてハレの日などのごちそうになる。
小振りなものは焼き干して、日々のだしになり、甘露煮などの材料となる。
また野菜などと煮ることも多いようだ。
厳寒期にフナを売るのは、水路の発達した干拓地ならではなのだろう。
 
鹿島市の「二十日正月」は、この冬の日の大収穫と節日が結びついた、と考えるとわかりやすい。
宮本常一は「二十日正月」は「稲以外の収穫を祝う日」では、という。
10月に行われる、稲などの収穫期とむすびついた「百姓えびす」の干拓地版だ。
ここに朝廷や幕府が決めた五節句などにない雑節、民間信仰の「えびす講」というもののあやふやさが見えてくる。
おおらかで原始以来の快活な庶民の、気散じで、ここに古き人の思いが感じられる。
有明海の生活誌が「ふな市」に見てとれるわけで、この市が末永く残ってくれることを祈るしかない。
 
水産的にみると、現代の都会でも「えびす講」用のマダイが売られている。
「えびす講」に焼いたフナという地域があり、ハタハタというところもある。
イワシもあるし、クジラもあったはず。
それが有明海北部のこの地域では「鮒の昆布巻き」であったわけで、
伏見人形などにある「えびすといえば鯛」だけではない。
「えびすの魚」も集めてみると面白そうだ。

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このページは、管理人が2012年3月 9日 01:31に書いたブログ記事です。

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