名古屋市堀田には名鉄、地下鉄の2つの駅があるが、『喫茶 シューカドー』は賑やかな方、名鉄駅近くにある。名古屋の道路は無意味に広く、名鉄堀田駅前といってもいいはずなのだけれども道を挟んでいるので、駅との一体感はまったくない。昔の人は広い道路は人間性を破壊するという、ことを知らなかったようだ。これが実に残念。
だだっ広い道を渡るとなんと2軒喫茶店並び(愛知県らしい)、向かって左にあるのが『シューカドー』。「しゅーかどー」は漢字にするといいのかも。とすると前身は和菓子屋だったのかも知れない。
店に入ると奥行きがあり、思った以上に広い。店内全体の色合いが「焦げ茶色」で落ち着く。歩き疲れて座り込んだ窓際の4人がけのテーブルもゆったりしている。昼過ぎにもかかわらず、かなりのテーブルが埋まっていて、そのほぼ総てがご近所の方のよう。平均年齢高そうだ。
メニューが実に多彩。パンメニュー、ホットケーキを筆頭に定食類各種、ピラフに赤だしがつくというのも、名古屋らしいではないか。
店に入った途端、ケチャップを炒めた香りがした。メニューを見ながらコーヒーをお願いすると、小皿に小袋の「柿ピー」、「フライビンズ(フライビーンズではない)」などが出てくる。
ナポリタンが食べたかったのだが、ない。メニューを見ると「スパゲティー」とあり( )のなかに「イタリアン、ミートソース、インディアン」とある。店内にただようのはケチャップを炒めた香り。それなのにオムライスもチキンライスも、ナポリタンもないというのは、東京暮らし40年近い身にはげせない。
よくよくメニューを見ると2枚の料理写真が載っている。そのひとつがイタリアンだという。
明らかにケチャップ味らしいので、「これナポリタンですよね。なぜイタリアンなのですか」と聞くと「前のコックが考えたものですから」とのことだ。
お願いすると「卵ありにしますか?」と聞いてくる。わからないまま「あり」にする。このときオバチャンが見せた笑ったような、「それで正解よ」と言っているような表情がよかった。これをナゴヤ的曖昧微笑としておきたい。
まず出てきたのがサラダとナプキンに包まれたフォーク。ガラス鉢にはいったミニサラダにオレンジがどんと乗っているのにも、どこかしら「どえりゃー」感じがする。
出てきたものがハンバーグなどに使われるような鉄板の皿に半熟卵。その上にナポリタン状のものがのっている。左右の赤いウインナーが魅力的だ。
どう食べるべき悩んだ末に、グチャグチャにかき混ぜて食べたら、実に、ものすごくボクの子供の部分(どちらかというと大人の部分よりも多い)が喜んだ。同部分がヤッターと二度叫ぶ、そんな味である。あっという間に食べてしまって、ふと感じるむなしさがやりきれない。「もういっぱいくれ、こんどはインディアン」という感じなのだ。
ちなみに『なごやめし』(なごやめし研究会 双葉文庫 2005)には名古屋市東区葵の『喫茶ユキ』のご主人、丹羽清さんが1960年代に考案したと出ている。とするとイタリアンは明らかに名古屋ならではの食である。とすると、とするとやはり気になるのがインディアンスパゲティーのことである。
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