さて、最近「市場でうまい飯」なんて雑誌なんかの特集を見かけるが、そんなあまいもんやおまへんな市場飯は。そんなに取り立ててうまいものがあるはずがない。その上、特集なんかで取り上げられるのは実際に市場で仕事をしている方達が利用しない店だったりする。そんな店は横に置き、せっかく市場に来たなら市場人と同じ店で飯を食おう。それを川崎北部市場で探すと、この「富士弁」という店がいちばん利用率が高いように思えた。
なにしろ後から後から客が絶えることなく訪れる。そして勢いよく飯をかき込んですぐにまた仕事にもどる。それで食券機の前まで来て、その品書きの多さに迷ってしまう。うどん、そば、ラーメンに定食、無造作に置かれたおにぎり各種。そのなかで珍しいので「まぐろの生姜焼き」というのにしてみる。
驚いたことに、お願いするとフライパンでマグロを焼きはじめた。カウンターにはうどんやお握りを買っていく人がどんどん詰めかけてくる。そこでウロウロとそれなりに待ち、出来上がった皿を受け取り、みそ汁にご飯を持ったオバサンが、こちらを見て「これは持っていけないわ」といってテーブルまで運んでくれた。
思ったよりもあっさりしたみそ汁、そしてマグロは薄味に焼かれて、大根おろしに醤油を垂らして搦めながら食べる。生姜焼きの味わいはやや野性味に欠けてミスマッチな上品さがあり、それほど「うまいもん」ではない。でも飯もそこそこうまい。そこに大根おろしに搦めた醤油味のメバチマグロのほお肉や筋を焼いたものということで、がっしがっしとかき込んで、まさに満足度からすると超合格点。
この店の人気は市場人がもっとも大事にしていること、「値段と時間と味わいのバランスの良さ」にある。
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