何度も書いて申し訳ないが、「築地グルメ」とか「築地は食の聖地」なんていうのを信じて場内の寿司屋なんかに一生懸命並んでいるのが不思議で仕方ない。築地の飲食店が他を圧倒してうまいなんて一度も思ったことがない。それは明らかに幻想である。
築地場内を見て回るべく、朝方7時前には海幸橋を渡るのだが、この時点でやっておくべきなのが腹ごしらえである。いつもはこの時間から9時前までぶっ通しで狭苦しい場内を見て回る。空腹ではとても体力がもたないのだ。そんなとき入るのは晴海通り近くの立ち食いそばの「ゆで太郎」とか場内の「ふぢの」で中華そば。もっともっと時間が迫っているなら大物競り場前の売店で焼きそばパンと牛乳というので済ましてしまう。
そして場内歩きで疲労困憊して「豊ちゃん」でも「大和寿司」でも並んでまで食う気になれると思う? 絶対になれないだろう。最近は場内歩きの後は思い切って勝鬨橋を渡って「月よし」というのがいちばんいい。もしくは場外「きつねや」の肉豆腐、煮込みでどんぶり飯かな? と残念ながらこの場外「きつねや」は「築地グルメ」なんてバカなことを言っているヤツラのせいで並ばなくてはならなくなった。
ちょっと蛇足だが場内で働く人でマスコミに取り上げられるような店で食べている人を知らない。もちろん場内にも築地人御用達の店はあるが、一般人の群れ集う時刻にはけっしてそんなところには足を運ばない。むしろ場内の店舗脇でお弁当やてんでに賄い飯を食べているのが関の山だ。すなわち「築地でグルメを気取っている」のは部外者ばかりなのだ。
さて、そんな築地人のための食堂といった雰囲気なのが「東都グリル」である。築地人の尻高鰤さんによると築地市場は24時間営業であるという。すると時間帯はバラバラに仕事を終えてくる人たちがいる。そんな人たちがほっと一時を過ごせる場所、それが「東都グリル」であるのが今回わかったのだ。
海幸橋から晴海通りに抜ける、その左手のビルの地階。あまりにも素っ気ない「東都グリル」のカンバンがある。そして食堂ならではの食品サンプルのケース、そこから階段を下ると、そこはいきなり1970年代そのものの食堂がある。中に入ると思った以上に広い。そして客のほとんどは市場で働く人たち。
驚くのはそこで働くお姉さんもコック(シェフではない)さんも、タイムトリップしたかのように昭和そのもの。顔つきまでレトロだ。
実は築地に初めて足を踏み入れてから30年くらいになる。それでいつも前を通りながら気になっていたのに一度もこの店には入っていなかったのだ。いつも一人なので、地階に下りる勇気が湧いてこなかったというのもある。それを鮟鱇さんがいたので敢行できたというわけだ。でも注文した定食はいたって平凡なもの。鶏肉のムニエル、カキのソテー、そしてサラダという取り合わせもよくないし、うまくもない。AだったかBだったかの定食に小ジョッキ生をつけて950円なりで、これまた決して安くない。
まあ、うまいもんを食いに来る店ではないというのが判明したわけだが、今回の土曜会の打ち上げはここで執り行った。そして初めてこの店のすごさを感じたのが大ジョッキ生の巨大きさと800円という値段の安さにである。しかも鶏の唐揚げや煮込みなどで散々粘ってもなんの文句も言われない。
深夜から激務に追われてきた築地人、きっと求めているのは、こんなのんきな食堂でのひとときであるのだろう。けっして「うまいもん食いたい」なんて思っているわけがない。ボクもそんな築地人と求めるものは変わらないな。
東都グリル 東京都中央区築地6丁目22-4
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