八王子の中心部からクルマで西に進むと追分けの交差点となる。右斜めに曲がると陣馬街道、左が高尾山から山梨へ。この陣馬街道をクルマで走らせること10分足らずで横川町になる。そして右手にあるのが『鮨忠第二支店』、通称「横川町鮨忠』である。その外観はやや近代的、店に入るとやや細長い回廊が右手に折れ曲がる。そこが真の入り口となっていて、意外に親しみやすい空間となる。
靴を脱いで、掘り込んであるカウンターに座る。
カウンターの中には我が寿司図鑑でもたびたび登場してもらっている、八王子最長老の寿司職人である「鮨忠」さんがいて、いつもの穏やかな顔で迎えてくれる。
カウンターを覗くと煮あげた「麦いか」がある。これが煮いか。これを切り付けて、つめ(煮詰め)を塗って出来上がり
おしぼりとお茶が出て、まず出てきたのが、こはだとキュウリの酢の物、山わさびの醤油漬け。
「どうだい、これはオレが渓流でとってきたワサビの茎だ。根は絶対にとらないで、葉と茎だけつんでくるんだ。それをな、醤油味の地に漬け込んだのがこれよ」
この二品が最初に出てきたのには、ちょっと驚いたのだが、晩春と言うよりも初夏の陽気であり、その暑い日なかにやって来た身にはこれがなんともすがすがしい。
そしてまずはひとつめの下駄が出てくる。そこにはマグロの赤身、麦いか(スルメイカの小振りのもの)、煮いか(同)、こはだがのっている。みな仕事がしてあるものばかりである。この煮いかの味わいは『鮨忠』ならではの伝統の味。こはだの締め具合もいいのである。初手からこれだから、次に期待が募るのだ。
次が、中トロとマアジ。この中トロの脂の甘さと旨味の強さに驚く。
「マアジは今がいちばんかな」
当たり前だが厳選されたマアジは最高である。そして麦いかの塩辛の小鉢がくる。
「これは麦いかのワタを合わせただけの塩辛だな」
カウンターの中には忠さんと弟さん。どんどん寿司が出来上がってくる。
お次が、平貝(タイラギ)、煮穴子、小柱、赤貝。そろそろ貝は名残の時期であるのだが、小柱のうまいこと。また煮穴子は、言うなれば忠さん自慢の品であり、口の中で適度にほどけるのである。
最後に卵に焼きホタテ、などが出てきて、家人など満腹状態。玉子焼きは握り用には薄焼き、単独では厚焼きとなる。
デザートのこれも『鮨忠』自家製のコーヒーゼリーを食べながら忠さんと楽しい一時を過ごす。
テレビでは激安寿司屋だとか、究極の寿司屋だとか、言うなれば“うるさくてかなわん”たぐいの店がわんさか登場している。築地場内の寿司屋もそのたぐいである。それと『鮨忠第二支店』は対極にある。いたって平凡な良心的な街の寿司屋。そこにはほっとできる時間が流れているし、当然、味だってそんじょそこらの今時の店には負けないのである。ボクの思うに行きつけの街の寿司屋を持っているのって真の大人の証ではないだろうかね。
鮨忠第二支店 東京都八王子市横川町477
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